社説(7月18日)清水海洋文化施設 独自性に磨きをかけよ
静岡市は10月下旬まで、清水区の臨海部に開業を目指す海洋文化施設について、民間資金活用による社会資本整備(PFI)を担う民間事業者を公募している。複数業者が関心を寄せていて、公共的集客施設の建設・運営で行政の条件と民間の企画・運営力がかみ合い、港町清水を活気づける事業として成立するかの大事な局面にある。
施設は清水区の日の出エリアの一角で、2026年4月開業を計画する。一方で「三保の水族館」として長年親しまれた海洋科学博物館と自然史博物館は22年度末、有料入館を終える。両博物館を運営する東海大は今後、海洋研究開発機構(JAMSTEC)とともに展示物監修などで市と連携する。
事業計画では、水生動物の展示やデジタル技術を駆使した体験プログラムを通じ、海洋人材の育成、海洋産業の振興、にぎわい空間の創出を実現することを基本理念としている。新型コロナで民間の投資意欲が冷え込んで一時足踏みしただけに、コンテンツの独自性に磨きをかけ、駿河湾の魅力や海洋科学の不思議を発信してほしい。
PFIで類似の公共的集客施設を効率的に建設・運営する事例は、県外に複数あり、福岡市科学館や愛知県国際展示場などが該当する。導入経験が豊富な大都市で先行しているが、今後は人口縮小で長期的な税収減が見込まれる地方都市も、地域活力向上に欠かせない基盤の整備・更新にPFIを活用していく方向性は妥当といえよう。
ただ気掛かりなのは、市が国際海洋文化都市・清水のシンボル施設の整備事業と位置付けながら、計画の進展具合が地元住民に現状見えづらい感がある点だ。三保の水族館と同様、多くの県民や観光客に愛される施設となるよう、もっと市民の声を反映する仕掛けがあっても良いのではないか。
新型コロナの世界的流行を契機に観光や学習の在り方も様変わりした中、施設整備は約170億円の債務負担行為を措置して進められる。それだけに、作り手と将来の使い手となる市民が意見を交え、新常態下の理想像を追求したい。大規模建設事業の実施に対し、より慎重な対応を求め続ける住民の不安を拭う機会にもなる。
新施設の建設予定地周辺では、歴史的倉庫群の改修や、駐車場の新設といった再開発も検討される。市が試算した有料入館者数(開業後15年で累計688万人)を伸ばせる可能性が高まれば、周辺開発も加速し、日の出エリアの魅力は一段と増すはず。だからこそ施設開業を目指した公民連携の取り組みとして着実に進めたい。