静岡人インタビュー「この人」 久保田翠さん 静岡県文化奨励賞を受賞したアートプロデューサー
浜松市中心部で運営する福祉施設を拠点に2016年から、障害の有無にかかわらず自己表現を文化創造の軸とした「表現未満、」プロジェクトを推進する。17年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長。静岡市出身。59歳。
―受賞の感想は。
「福祉施設の受賞で、アートが介在する福祉の一つのモデルとして認められた。美術館や展示スペースの設置、芸術家支援だけがアートではない。福祉施設から、社会の規範を揺らし、新しい価値観を導き出す文化の力が波及していったらいい」
―活動の原点は。
「重度知的障害のある長男を育てる中、どこにも預かってもらえない苦しみから『自分たちの居場所が欲しい』という思いが出発点だった。長男は毎日、入れ物に石を入れて打ち鳴らす。学校や公共の場では問題行動とされてしまうが、それは彼の人格を表す音の表現。誰もが夢中になれる場があることが大切と考える」
―たけし文化センターでは、どんな活動を行っているか。
「利用者の表現の場を設けるだけでなく、福祉とアートをキーワードにした情報発信にも力を入れる。音楽スタジオやシェアハウス、ゲストハウスを備え、福祉を日常的に社会に開く視点を意識している」
―今後力を入れたいことは。
「誰もが生きづらさを抱える中、正解を求めがちだが、アートが仲立ちすることで、答えがないことに対する耐性を作れるのでは。レッツの活動もそれが前提。どちらが正しいか、ではなく、どちらも存在していい。混沌(こんとん)とした世界でも『いいんじゃない』と思える人を増やしていきたい」
(文化生活部・岡本妙)