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掛川市ステンドグラス美術館「祝福の天使」 英チャールズ・イーマー・ケンプ工房作 【美と快と-収蔵品物語㉜】

 着色ガラスが光を背に色彩を増すステンドグラス。教会や公共建築に組み込まれた荘厳な装飾は、降り注ぐ陽光を浴びながら幻想的な鑑賞体験をもたらす。掛川市ステンドグラス美術館は、イエスや天使が登場する聖書の物語を描いた作品がそろう。どれも英国の教会などで実際に飾られていた古典的手法の名品だ。

「祝福の天使」180・0センチ×71・0センチ
「祝福の天使」180・0センチ×71・0センチ
「祝福の天使」181・0センチ×71・0センチ
「祝福の天使」181・0センチ×71・0センチ
「聖母マリアの戴冠」直径92・0センチ
「聖母マリアの戴冠」直径92・0センチ
掛川市ステンドグラス美術館
掛川市ステンドグラス美術館
「祝福の天使」180・0センチ×71・0センチ
「祝福の天使」181・0センチ×71・0センチ
「聖母マリアの戴冠」直径92・0センチ
掛川市ステンドグラス美術館

 

上品な表情の先には

 まつげの一本まで描き込まれた面立ち、濃淡を帯びる羽、華やかな衣装-。「祝福の天使」は、上品な表情の天使2人ずつを描いた2枚の作品を展示している。同館の池田恵美子学芸員が「2枚の間にはイエスやマリアを描いた1枚があったと想像できる」と言い添える。
 制作は19世紀の英国で最大とされたチャールズ・イーマー・ケンプ工房。ビクトリア朝時代の巨匠ケンプは優れた絵付け技術で知られ、特に天使の顔を描かせたら右に出る者はいないと言われた。
 教会装飾に使われる古典技法は、特殊な顔料で細かな色彩や陰影を表現する絵付けの工程が制作の要になった。教会のステンドグラスは18、19世紀頃、キリスト教の教えを説くのに欠かせない存在だった。
 20世紀後半に建物の閉鎖や取り壊しで、多くのステンドグラスが散逸や破損の不幸に見舞われた。ただ完全な形は失いながらも愛好家によって引き取られた作品も。一部は海を渡って保護され、再び価値を見いだされて輝きを放っている。
 同館は2015年、西洋美術を40年にわたり収集してきた掛川市の医師鈴木政昭さんがステンドグラス約70点を寄贈する形で開館。鈴木さんは「技術を継承する芸術家や子どもたちの美の感性が磨かれる場に」との期待を込める。
 寄贈品に含まれた本作は、木々が風に揺れる自然光の中で来館者を迎えている。池田学芸員は「一番美しいと言われる冬の薄暮から日差しの強い盛夏まで、光の芸術は千変万化する。趣を感じるひとときを見つけて味わってほしい」と話す。

 

明るくポップなフランス作品 「聖母マリアの生涯」より「聖母マリアの戴冠」 19世紀末 トゥールのロバン工房作

 英国の教会装飾が多くそろうステンドグラス美術館に、19世紀のフランスで制作された丸窓のシリーズ「聖母マリアの生涯」がある。マリアの神詣でから始まる全10枚は、イエスの磔刑[たっけい]までを象徴的な絵柄でたどる。
 9枚目の作品「聖母マリアの戴冠」は、神、聖霊、イエスから王冠を受けるマリアがまぶしい光に包まれる鮮烈な絵柄。池田学芸員は「英国の作品に落ち着きのあるトーンが見られるのに対し、フランスの作品は明るくポップな印象を受ける」と説明する。
 このシリーズも鈴木さんのコレクションとして同館へ。大きな壁面に円を描く形で配置、展示されている。

 

掛川市 ステンドグラス美術館


 2015年、国内初となる市立のステンドグラス美術館として開館。鈴木政昭さんがコレクションと合わせて建物、調度品も寄贈した。
 多くの作品を目線の高さで展示し、技法や彩色を間近で鑑賞できる。ステンドグラス作品を作る体験講座などを不定期に開催している。
 隣接する掛川城二の丸美術館には江戸・幕末の芸術がそろい、和洋の混然とした歴史・文化ゾーンが広がる。天守閣は23年1月までの予定で改修工事中。
 

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