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テーマ : 島田市

原始キャンプの極め人 越山哲老さん(島田市)に聞く 「豊かさ」とは?【NEXT特捜隊 あの人に聞きたい】

 野外の生活技術「ブッシュクラフト」の魅力を講座などで伝えるナイフインストラクター越山哲老さん(56)。アウトドア専門誌で特集されるなど、近年注目されている。静岡市葵区の女性からの「会社員をやめてナイフ一本で森に飛び込んだ越山さんが気になる」という投稿を受け、新緑の林へと会いに行った。慣れた手つきで枝を削り、着火剤となる「フェザースティック」を作って火をおこす越山さん。たき火にあたりながら半生を語ってくれた。

越山哲老さん
越山哲老さん


お金じゃ笑えない


 稲刈りや羊の世話など自然と交わる暮らしをした幼少時代から一転、上京後はパンクバンドをやりながら洋服屋の店長として多忙な日々を過ごしました。転機は、洋服の買い付けで訪れた米国でのインディアンとの出会い。現地に「ミタクエ・オヤシン」という言葉があります。自分につながる全てのものに感謝するという意味。自然を大切にする彼らの世界観に強く引かれました。
 同時に「君にはライフ(生活)があるの?」という問いにハッとしました。給料は良くても時間がなく、生活は「豊か」でなかった。お金を見ていても笑顔になれない。自然の中で過ごしたい。39歳で移住を決めました。島田にしたのは、大井川のほとりから見た空が広かったからです。


自然を味方にする


 移住後は、正社員登用を視野に期間工として働きました。長時間の残業にも耐えましたが、リーマン・ショックで解雇に。マイホーム着工1カ月前に住宅ローンを抱えて無職となりました。職業安定所に通い、土木職を経て、45歳で初めてサラリーマンになりました。
 米国の大自然で感じた高揚感を日本でも得たくて、私生活では定期的に森へ足を運んでいました。モノがないからこそ感じられることがあるのでは。そう思い、最低限の持ち物だけで山に入る「原始キャンプ」も始めました。最初はブルーシートと食器だけ。石をたたいてナイフを作ったり、昔ながらのきりもみ式の火おこしをしたり。自然環境を味方につける生活のすべを研究しました。


デジタル化の反動


 ブッシュクラフトは、ブッシュ(茂み)で生活する道具をクラフト(つくる)という意味。釣り、狩猟、料理など幅広い野外生活の技術を含みます。10年ほど前からよく使われ始めて「俺のやってることだ」とうれしくなりました。
 生きることを優先するため、52歳で退職しました。「お父さんは好きなことを続けた。あなたたちも続けて」。妻の子どもへの言葉が胸に残っています。自分で道を決めたから、運が開けました。
 今は講師業の傍ら、週に数日は野営しています。近年のブッシュクラフトやキャンプブームは、デジタル化した社会の反動かもしれません。リアル体験を求める人に、言葉にできない「何か」を見つけてもらえたらと願います。
 こしやま・さとし 1966年、長野県岡谷市生まれ。本名は哲の一文字で、さとしと読む。アウトドアブランドの正規輸入代理店「UPI」ブッシュクラフトインストラクター。スウェーデンの老舗ナイフブランド「モーラナイフ」講座などを担当する。新型コロナウイルス禍前は毎年海外に渡り、技術を磨いた。現在は全国でアウトドア技術を手ほどきし、静岡市環境学習指導員も務める。

 ※身近にいる変わった特技を持った人、ユニークな活動を展開している人、近所で知る人ぞ知る有名人…。多くの人に知ってほしい「あの人」をあなたに代わって訪ねます。情報と、聞いてみたい質問をお寄せください。
 n-toku@shizuokaonline.com

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