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テーマ : 浜松市

時論(6月24日)戦没作曲家の“声なき反戦歌”

 ピアノの不協和音が幾つか鳴った後、チェロの旋律が静かに立ち上がる。絶望的な重さと、時折の透明感。舞阪町(現浜松市)出身で、将来を嘱望されながら30歳の若さで戦病死した作曲家、尾崎宗吉(1915~45年)の遺作であり代表作、「夜の歌」だ。
 この曲をポーランド在住の日本人ピアニスト、服部祐果さんが自身の演奏でネット発信していることを知り、メールのやりとりを始めたのは4月。ロシアがウクライナに侵攻を開始し、2カ月余り。ポーランドには連日、ウクライナから避難民が押し寄せていた。
 服部さんは、ポーランド留学後にこの曲と出会い、5カ国語の解説とともに動画を添えてアップした。スペイン語圏からは「この若い才能を戦争が奪ってしまったことは、何と悲しいことだろう」との声も寄せられている。
 尾崎は浜松一中(現浜松北高)から東洋音楽学校(現東京音楽大)に進み、諸井三郎に師事、若い才能が注目を集めた。39年8月の召集で中国戦線に送られ、42年に帰還したものの1年にも満たず再度召集され、45年5月に中国大陸南部で戦病死した。
 「夜の歌」は帰還しているわずかの間に生まれた。それまでの生き生きとしたリズミカルな作風とは全く異なり、戦争の悲惨さや残酷さを実感し、死を意識していることも伝わってくる。服部さんは今、この曲を発信する一番の意味を「実体験からの戦争証言だから」と語る。
 ウクライナの惨劇で「反戦歌」に注目が集まっている。「夜の歌」は無言の歌。だからこそ、言葉を介さず、無念さや虚無感が直接心に突き刺さる。郷土の戦没作曲家の“声なき反戦歌”にぜひ一度、耳を傾けてほしい。

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