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テーマ : 藤枝市

戦争の記憶にじませて 静岡の岩崎さん短編集「水の彼方」刊行

 小説家岩崎芳生さん(静岡市葵区)の新刊「水の彼方 十四の短編」は、静岡に深く根を下ろし、市井の人々に材を求めた約40年間を俯瞰[ふかん]する自選集。岩崎さんは過去の14編と向き合い、ストーリーラインをくっきりと浮かび上がらせるべく、曖昧さのそぎ落としに没頭した。極限までシェイプさせた小説群は、読む者の胸の底に確かな刻印を残す。

「道を行く人の何げない表情に目を凝らして生きている」と話す岩崎芳生さん
「道を行く人の何げない表情に目を凝らして生きている」と話す岩崎芳生さん

 1979年の「牛坂」から2021年の新作「川の中で」まで、人々の暮らしに潜むドラマを描く作品が続く。何度となく故郷を題材にした小川国夫(1927~2008年、藤枝市出身)の言葉が常に頭にあったという。「『何を書くかではなく、どう書くかだ』と言っていた。見えているものを正確にきちんと書く、という自分の出発点になった」
 自らの生活の拠点である駿府城公園周辺、安倍川流域、旧清水市内などを、時にはっきりそれと分かるように描写する。30代で出会った小川、そして中上健次の影響を自認する。「ありふれた風景が、筆力によってものすごい迫力で立ち上ってくる。地方都市に書く材料なんてあるのかと思っていたが、普通の人々の中に小説のプロットがあると気付かされた」
 作品の多くに、戦争体験がにじむ。特に「空のはらわた」(2001年)は私小説的内容で、太平洋戦争が決する1945年の暮らしを四季に分けて描く。空襲で焼ける町や人、焼夷[しょうい]弾の炎、油のにおいなど、五感を総動員した描写を読み手に突き付ける。当時9歳の記憶を、小説として結実させた。
 「小説家は『見るマシン(機械)』のような側面がある。戦争については、呼び覚まそうとするほど遠くにはない。頭の中の印画紙をすぐ現像するようなもの」

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