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テーマ : 掛川市

ウクライナにみる人間の業 越境の試み「もうひと踏ん張り」 柳澤紀子さん(美術家)

 ロシアのウクライナ侵攻が長期化の様相を見せる中、現代美術家の柳澤紀子さんがロシア・東欧美術を研究する鴻野わか菜早稲田大教授との対談「ウクライナとロシアの芸術家たちの今」に臨んだ。

鴻野わか菜教授(右)との対談を終えた柳澤紀子さん=東京・銀座の養清堂画廊
鴻野わか菜教授(右)との対談を終えた柳澤紀子さん=東京・銀座の養清堂画廊

 言論統制下のロシア、戦下のウクライナにあって、反戦平和を発信する芸術家たち。交流を続ける鴻野教授の解説を受け、柳澤さんは「自分の無力を感じながらも、責任をもって作品をつくり、次の世代に伝えたい」と語った。
 連日のウクライナ報道から、戦車を描いてみたという。「恐ろしさと同時に美しさもある」と、会場を驚かせた。ベラルーシのノーベル賞作家でジャーナリスト、スベトラーナ・アレクシエービッチの言葉「武器は男のおもちゃであり、何をなすかという目的がなければこんなに美しいものはない」を借り、表面的な機能美に潜む「人間の業」に話は及んだ。
 「越境の試み」を自認する。人間の業が築いた境界をこえる創作は、東日本大震災の翌年訪れた福島と、2017年に2度目のウクライナ訪問で足を運んだチェルノブイリが大きな転換点となった。
 人けのない街に生きる動物の力強さや生命力に引かれながらも、「この風景を動物たちはどう見ているのだろうか」。放射線との闘いに不条理を感じた。
 以来、作品には動物が多く登場し、時に人獣のようでもある。鴻野教授は「人と動物、精霊が一体化していた神話的時間が生き続ける共生の世界」と評する。寓意[ぐうい]性をまとい、時空や場を超えた警鐘と希望は、分断の時代と再生の現代性を帯びる。
 震災当日の深夜に見た黙々と歩く人たち、愛する街を離れるウクライナの人々の映像に、5歳で体験した浜松空襲の光景が重なる。また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で、人類が共同体であることを再認識させられた。
 この時間を自分なりに描き留めたい半面、「安全な場所で制作する自分に問題提起はできるだろうか」と自問自答する。「作品はいろんな矛盾の中でつくられるもの。導かれるように、もうひと踏ん張りしたい」
 対談は、個展「動物のことば Silence 2020―22」が開かれた東京・銀座の養清堂画廊で行われた。

 やなぎさわ・のりこ 1940年浜松市生まれ、掛川市在住。東京芸術大卒、同大大学院油画研究科修了。64年日本版画協会賞、91年静岡県文化奨励賞、2001年山口源大賞。03~11年武蔵野美術大教授。20年4月26日(チェルノブイリ記念日)にウクライナの首都キーウ(キエフ)の国立タラス・シェフチェンコ記念博物館で開幕予定だった個展は新型コロナの影響で延期された。

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