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社説(5月26日)帰還困難区域解除 住民の懸念払拭が必要

 東京電力福島第1原発事故によって放射線量が高くなり、住民避難が続いている帰還困難区域(約337平方キロ)のうち、福島県葛尾[かつらお]村の特定復興再生拠点区域(復興拠点、0・95平方キロ)の避難指示が6月12日に解除される。
 除染で線量が下がり、インフラ整備も進んだとして国と県、村が解除を発表した。国は近く、原子力災害対策本部会議を開き、正式決定する。原発事故から11年が経過する中、帰還困難区域の居住地域で初の解除となる。
 避難住民からは帰還の判断に必要な条件として、医療機関の拡充をはじめ、商業施設や介護・福祉施設の充実などが挙がる。国と県、村は連携して懸念の払拭に努めねばならない。
 南海トラフ地震の想定震源域に中部電力浜岡原発(御前崎市)が立地し、周辺自治体がいざという時に備えた避難計画を策定している静岡県にとっても、原発事故は決して人ごとではない。今回の避難指示解除を、改めて福島県に思いを寄せ、教訓を見つめ直す契機にしたい。
 葛尾村は原発事故で全村避難を強いられたが、6年前の同じ6月12日に帰還困難区域を除く大部分の避難指示が解除された。今回さらに解除区域が拡大することになる。しかし、復興拠点内に住民登録する30世帯82人のうち、帰還の意向を示しているのは4世帯8人にとどまるという。6年前の解除区域でも、戻った住民は3割に満たない。農業と畜産業が主産業の村で、戻りたくても生計のめどが立たず戻れない人などもいるだろう。帰還促進に向け、国はより詳細に住民の事情を把握する必要がある。
 復興拠点は葛尾村など6町村に設けられ、大熊町と双葉町は6月以降、浪江町、富岡町、飯舘村は来春の避難指示解除を目指している。一方、葛尾村を含めて復興拠点から外れた帰還困難区域は解除のめどが立っていない。事故以前の故郷の姿を取り戻すには限界がある。
 ただ、復興庁が昨年度に実施した双葉町、富岡町、大熊町の避難住民への意向調査によると、既に避難先で生活基盤を築いていることなどを理由に「町に戻らない」と回答した人が5~6割を占めた一方、「町とのつながりを保ちたい」という答えも5~8割に上った。
 たとえ帰還を諦めても、故郷との接点を維持したい住民は少なくない。短期でも住民がふるさとに戻ることができるようにするための支援や、住民同士が故郷で再会できる機会の創出といった取り組みも検討してほしい。

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