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「給食は食べ残してよい」 教育評論家・親野智可等さんインタビュー【給食のいま@しずおか⑦完】

給食を食べきれないことに悩む子どももいる
給食を食べきれないことに悩む子どももいる

「通っていた小中学校では『出されたものは最後まで食べなさい』という原則の下、基本的に残すのは不可でした。無理やりかきこんで、つらかったです」(焼津市、女子高校生)

 給食アンケートに、高校生から体験談が寄せられた。「完食指導」の問題点や対策は。藤枝市の教育評論家・親野智可等さん(63)に聞いた。
 

完食指導は精神的虐待

  photo01 親野智可等さん

 子供の頃、食が細い幼馴染が給食を泣きながら食べていたことをよく覚えている。自身が教員だった頃も、給食で悩む児童を何人も見た。教育評論家として全国を回る近年も、我が子が給食の時間が原因で登校を渋るという保護者の声を聞いている。「給食指導」の名の下に行われる完食指導は長年、根強く続いている問題だ。
 同じ年齢であっても性別、代謝、活動量などはそれぞれで、食事の適量は異なる。さらに同じ個人であっても体調や心理状態は日々違い、食べたい量は変わる。全員一律に同量の食事を迫ることは精神的虐待だ。
 一般的に子どもには、苦味や酸味を毒や腐敗を示す物として避ける傾向があるという。目新しい物を食べたがらない「食わず嫌い」も、未知の危険から身を守るためとされる。子どもに好き嫌いが多いのは、本能的な安全装置が働いているからでもある。大人になってさまざまな経験を積み、判断力がついて安全装置が解除されれば、自然に食べられるようになることが多い。
 嫌がることを怒らないでほしい。食事の時間が楽しく、子どもが健やかに育つことが第一。大人の無理強いにより、その食材だけでなく食べること自体が嫌になる。その大人だけでなく、他者全般に不信感を抱く。叱られ続けることで自己肯定感が下がる。これでは本末転倒だ。
 食事の楽しい雰囲気づくり、調理の工夫、農産物の栽培や調理への参加機会の提供、栄養の知識の啓発ー。もちろん大人としてすべき工夫もあるが、無理やり食べさせるのはナンセンスだ。

 

完食しても海外の飢えは救えない

 

 先生自身は完食指導はしていないつもりでも、「今日は〇人が完食でした」などの声掛けで遠回しに完食を求め、子どもを精神的に追い詰めているケースもある。給食の残量を調べている学校現場は多い。これを献立の改善につなげるのは良いが、残食量を一覧にして職員に配ったり、「残食が多いクラスは指導不足」と管理職が注意したりする事例も知っている。「〇〇ちゃんのせいで全員完食できなかった」など、給食がいじめや不登校の原因になることもある。
 食べ残しを悪とするのは、日本の文化的な刷り込みだ。「好き嫌いする子は困難から逃げる大人になる」という指摘があるが、子どもは得意なことを一点突破で伸ばしてあげると、後から他もできるようになる。  最近気になっているのは、食品ロス削減を掲げて完食指導する動きだ。「外国には貧しくてご飯を食べられない子どももいる」と訴えるが、目の前の児童が給食を嫌々完食したところで、外国の飢えた子が救われるわけではない。食品ロスは社会の仕組みから生じるもので、大人の責任で改善するべきことだと思う。

 

弁当と給食 選択制にすれば良い

 

 もし我が子が給食で悩んでいたら「家でも多彩な食材にチャレンジしているのですが…」「給食がプレッシャーで学校に行きたがらなくなっている」など、先生に相談してみるのがおすすめだ。
 宗教、アレルギー、農薬へのこだわりなど、食に求めるものが多様化している。一方で共働きが増え、調理に時間を割きづらい家庭もある。海外のようなバイキング形式の給食や、弁当と給食の選択制という仕組みがあっても良いと思う。
 高齢化が進み、健康寿命を延ばすために食育の重要さが増している。適切な食習慣は、幼少から身に着けるべきもの。大人への保健指導で「腹八分目」を説くなら、児童にも完食ではなく「給食は食べ残して良い」と適量を指導すべきではないのか。良い食材の選び方、適量の判断、食べる順番ーなど、生涯の健康のために伝えるべきことは多い。


 

おやの ちからさん 本名は杉山桂一。1958年、藤枝市生まれ。藤枝市、静岡市、島田市などでの23年間の小学校教員経験を元に、ツイッター、ユーチューブ、インスタグラムなどで子育てのアイデアを発信する。『「叱らない」しつけ』(PHP文庫)などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。

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