「コンペティション」 名優がむき出しの演技合戦【シネマアイズ】
映画の中で、別の映画を作る過程を見せる作品は少なくない。しかし役者が役を作り込むプロセスにフォーカスした演出は、珍しいだろう。新作「コンペティション」は、ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネスというスペイン語圏を代表する名優が一堂に会し、むき出しの演技合戦を繰り広げるから必見だ。
ある製薬業界のトップが、自分の名前を後世に残そうと考えた。そこで思いついたのが、映画製作だ。「偉大な作品を」と監督を依頼されたのが変わり者で知られるローラ・クエバス(クルス)。原作はノーベル賞作家の小説で、主人公の兄弟には格式高い演技で知られるイバン・トレス(マルティネス)と世界的大スターのフェリックス・リベロ(バンデラス)が選ばれる。
演技へのアプローチは正反対の2人だが、虚栄心の強さは共通する。脚本の読み合わせでは対立し、ローラには奇妙なプレッシャーの下で演技させられるなど、3人の間でテンポの良い小競り合いが繰り広げられ―。
映画で「コンペティション」といえば普通、映画祭の賞レースを指すが、本作では俳優同士の競演の意味もあるだろう。撮影に入る前に映画の骨格を作り上げる作業が中心で、その描写はまるで一流の演技指導を間近で見ているようだ。
ガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンの監督2人は、映画界への風刺や皮肉を痛烈に盛り込んだ。しかし一歩引いて見ると、登場人物は政治家や起業家、弁護士らどこにでも存在し得るキャラクターだ。俳優としてオーバーに演じることで、ブラックなユーモアがさらに際立つから面白い。1時間54分。(朗)
【アナザーアイ】頭でっかちなイバンと感覚頼みのフェリックス。クセの強いローラも加わり物語は予想外の展開へ。コメディーではないのに何度も噴き出した。(涼)