核心評論「アジア系が米アカデミー賞席巻」 人種的な多様化を象徴 作風の広がりも示す
米アカデミー賞で、アジア系の俳優らが結集したSFアクション映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(通称エブエブ)」が作品賞を含む7部門を制した。同賞の多様化を象徴している。
「エブエブ」は主演女優賞に輝いたミシェル・ヨーさんがマレーシア人、助演男優賞のキー・ホイ・クァンさんがベトナム生まれで、監督・脚本コンビの1人ダニエル・クワンさんも中華系だ。英語のほか、中国語のせりふも多い。
アカデミー賞は、米映画芸術科学アカデミーの会員の投票で決まる。かつては白人男性が会員の多数を占め、その反映で主要賞の受賞者は白人が多かった。
2015年からは2年連続で俳優部門の候補者が全員白人となり、黒人監督が授賞式をボイコットする事態に。大物プロデューサーやスター俳優による性暴力も明るみに出て、女性が被害を告発する「#MeToo(私も)」運動が広がった。
そうした中、アカデミーはアフリカ系やアジア系の女性が会長に就き、組織改革を進めていく。女性や人種的マイノリティー(少数者)、外国人の会員を増やした。多彩な作品が評価対象となるよう、作品賞候補も5本から10本に倍増させた。
改革の結果、17年には黒人キャストの「ムーンライト」、20年には韓国映画「パラサイト」が作品賞に選ばれた。22年には、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が作品賞にノミネートされ、受賞したのは、耳の不自由な家族を持つ健聴者を主人公にした「コーダ」だった。俳優部門もマイノリティーの受賞が当たり前になっている。
アカデミーは24年以降、作品賞選定の基準として、主な出演者にアジア系やアフリカ系、中南米系の俳優を起用することなどを求めている。受賞作の人種的な多様性が制度で保障された形だ。
さらに、「エブエブ」の受賞は、作風の多様化も示している。
これまで作品賞を贈られた映画は、社会問題を扱った重厚なドラマが目立つ。例えば「パラサイト」も、貧しい家族が半地下の部屋に住まざるを得ない韓国社会の格差をえぐり出していた。
しかし「エブエブ」は、性的マイノリティー差別などに言及しているとはいえ、米国の平凡な夫婦が別の宇宙に瞬間移動し、カンフーで悪と闘うというコミカルな作品だ。手の指が全てソーセージになる世界も登場するなど、いわゆるB級映画のノリと言うほかない。
そんな作品が米映画界最高の栄誉を与えられた。「良い映画」の定義が従来より大きく広がりつつあるのではないか。今回の受賞を機に、映画館で斬新な作品に出会う機会が増えることを期待している。(共同通信編集委員 原真)