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日本学術会議の組織見直し 歴代会長そろって危機感 会員選考に第三者の政府案

 菅義偉前首相による新会員候補の任命拒否に端を発した日本学術会議の組織見直しを巡る政府と学術会議の溝が埋まらない。会員選考に科学者以外の第三者を関与させるとの政府方針に対し、科学者の代表機関としての独立性を重視する学術会議側は歴代会長がそろって記者会見し、岸田文雄首相に宛てた反対声明を発表するなど危機感を強めている。

左から広渡清吾・東大名誉教授、大西隆・東大名誉教、黒川清・政策研究大学院大名誉教授
左から広渡清吾・東大名誉教授、大西隆・東大名誉教、黒川清・政策研究大学院大名誉教授
日本記者クラブでの記者会見にオンラインで参加した山極寿一氏=14日午後
日本記者クラブでの記者会見にオンラインで参加した山極寿一氏=14日午後
記者会見する日本学術会議の歴代会長。右から大西隆、広渡清吾、黒川清、山極寿一(オンライン画面)の4氏=14日午後、東京都千代田区
記者会見する日本学術会議の歴代会長。右から大西隆、広渡清吾、黒川清、山極寿一(オンライン画面)の4氏=14日午後、東京都千代田区
左から広渡清吾・東大名誉教授、大西隆・東大名誉教、黒川清・政策研究大学院大名誉教授
日本記者クラブでの記者会見にオンラインで参加した山極寿一氏=14日午後
記者会見する日本学術会議の歴代会長。右から大西隆、広渡清吾、黒川清、山極寿一(オンライン画面)の4氏=14日午後、東京都千代田区

 正当化
 世界の科学者代表機関では、新会員は現会員が候補者を推薦して決めるのが一般的。優れた研究や業績のある人物かどうかは同じ科学者に判断を委ねることが適切との考えがあり、学術会議も同じ方式を採用している。
 ところが政府は今回、会員が候補者を選考する際に、産業界などからのメンバーを含む「選考諮問委員会(仮称)」の意見を聞き、その意見を尊重するよう義務付ける制度改正を提案。日本学術会議法の改正案を今国会に提出する構えだ。
 政府は「選考の透明性を高めるため」とするが、発端となった任命拒否の理由は説明しないまま。14日、東京都内の日本記者クラブで記者会見した学術会議前会長の山極寿一氏(総合地球環境学研究所長)は「政府は拒否の理由を明確に述べ、それを基に改革案を作ればいい」と憤った。
 他の元会長からも「法改正の狙いは任命拒否の正当化」(広渡清吾東大名誉教授)、「『拒否は不当』との世論に対する弥縫策」(大西隆・同)との指摘が出た。
 笑いもの
 訴えの背景には政権への不信だけでなく、改正法が成立すれば一国の政府や首相の意に沿わない会員が生まれなくなり、広く人類社会に対する責任を負うという学術界の使命を果たせなくなるとの危機感がある。
 黒川清氏(政策研究大学院大名誉教授)は「(科学者組織は)政策についてコメントを出し、決めるのは政治。そのプロセスが大事で、広い意見を聞く大きな心が民主主義の基本だ」と強調。山極氏も「政府の息のかかった第三者に影響され、誘導される。社会主義国家みたいになってくるがそれでいいのか」と問いかけた。
 広渡氏は「(軍事研究に批判的な学術会議の見解などを)けしからんと考えるのは政府として当然かもしれない。だからといって学術的な見地からアドバイスすること自体をけしからんと言い始めたら世界の笑いものになる」と訴えた。
 転換点
 「誰も会員にならないことだ。そのような組織に属することを『潔しとしない』と思えるかどうかだ」。法改正されたらどうなるかと問われた広渡氏は言葉を絞り出した。
 大西氏は「環境や原子力など現代の文明が抱える問題に対し、総合的な知見を整理できるのは学術会議以外にない」と指摘。「学術会議の体質や性格が変わればそうした発信はできず、非常に暗い、危うい社会になる」と警鐘を鳴らした。
 「日本の学術の歴史の転換点となり得る大きな問題だ。私たちの懸念を受け止め、再考をお願いする」。16日に開かれた学術会議の幹事会で、政府担当者から改正案の概要説明を聞いた梶田隆章会長は語気を強めた。

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