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特攻の歴史、美談にしない 生還者らの証言、書籍に 鹿児島県元中学教員【スクランブル】

 太平洋戦争末期に特攻で死んだ隊員を「国に命をささげた英魂」と呼び、美談にする風潮に疑問を感じた鹿児島県の元中学教員が、生還した元隊員らの証言や教育現場の取り組みをまとめた本「『特攻』を子どもにどう教えるか」を出版した。「歴史の陰も伝えることが主体的に考える力を育てる」との信念を胸に批判にも向き合い「自分ごととして学んで」と訴える。

「『特攻』を子どもにどう教えるか」を出版した山元研二さん=1月、北海道釧路市
「『特攻』を子どもにどう教えるか」を出版した山元研二さん=1月、北海道釧路市

 執筆した山元研二さん(58)は鹿児島県・種子島出身。立命館大を卒業後、同県に戻り、公立中の社会科教員になった。4年目に遠足で訪れた南九州市の知覧特攻平和会館で、解説員が特攻隊員について「皆、喜んで出撃していった」と語ったのが引っかかった。「皆とはあんまりだ」。過度にドラマチックな語り口にも疑問が募った。
 「生徒には物事を多面的に見る力を付けてほしい」と考え、そのためには「まず自分が知ることが必要」と、関連の書籍を読み、遺構を巡るフィールドワークを実施。生還した元隊員や出撃前の隊員を世話した元女子学生に取材した。中には「検閲された隊員の遺書に本音はない」と断言した人もいたと振り返る。
 そうした声や特攻を発案した上官を「殺してから出撃したかった」と憤る元隊員の証言も率直に生徒に伝え、文化祭では特攻に関する自作の劇を上演。生徒と一緒に隊員の心情を考えたという。
 「なぜ日本は特攻作戦を採用したのか」など当時の状況について生徒と話し合う研究授業を公開すると「隊員のやむにやまれぬ思いに迫れていない」「中学生に理解は無理」と教育評論家や他の教員から批判が寄せられた。「それならどう教えれば良いか。答えがない中『無理』は思考停止。考え続けることから逃げないのが教員の役割だ」
 研究職として教育の在り方を見直し、未来の教員を育てたいとの思いから定年を待たず退職。2022年4月に北海道教育大釧路校准教授に就いた。多くの隊員が飛び立った鹿児島県に「生まれ育った者の責任」としてこれまでの取材や調査、取り組みをまとめた書籍を22年11月に出版した。
 この本を通じ、特攻のような出来事は「過去の話ではない」ことを伝えたいと願う。ロシアに侵攻されたウクライナの国民が「祖国のため戦う」と語るのを見て、複雑な思いに駆られる。「国のために命をなげうつ状況はいつでもどこでも起きうる。自分ごととして歴史から学んでほしい」
 37歳から2年間、教職の傍ら、鹿児島大大学院でハンセン病問題を研究。特攻以外にも広く人権問題で筆を執ってきた。北海道でも炭鉱での強制労働やアイヌ民族の歴史に興味があるという。「どんなテーマでも子どもへの教え方に結び付け、教育現場に還元できる研究をしたい」と話した。
 本は書店、オンラインで購入可能。2090円。

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