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核心評論「ウクライナ戦争と保護主義」 中ロを過度に追い込むな 西側、危機管理力強化を

 西側がロシア、中国との経済関係を断とうとする動きを加速させている。1年前、ロシアがウクライナに侵攻し、これをきっかけに、同じ権威主義国である中国への不信も一段と増大したからだ。だが、過度な分断は中ロを必要以上に刺激し、不測の事態を招きかねず、注意を要する。
 侵攻後、西側は国際決済網からロシアの大手銀行を排除し、先端技術の対ロ輸出も禁じる制裁措置を講じた。西側の企業は同国から相次いで撤退しており、双方の経済関係は事実上、破綻している。
 米国は日本、オランダとともに、先端半導体技術の対中輸出規制を強化する考えだ。このほか、インド太平洋地域の同盟国や友好国と経済ブロックを形成し、半導体や医薬品など戦略物資の安定調達を念頭に、サプライチェーン(供給網)を強化しようとしている。
 ことの重大性に鑑みれば、対ロ制裁は妥当な措置だ。対中輸出規制やブロック化も経済安全保障の確立が目的である以上、ある程度はやむを得ない。
 半面、一連の措置は戦後、世界経済の発展を支えてきた自由貿易に反する手法だ。このような保護主義の拡大は、貿易や投資の縮小を通じてモノとカネの流れを滞らせ、インフレを助長するなど、各国・地域の成長を損なう。
 保護主義が先鋭化し、中ロを追い詰め過ぎれば、暴発するリスクがある。具体的には、ウクライナ戦争でのロシアの核兵器使用や中国の台湾侵攻が想定されよう。
 1941年8月、米国はフランス領インドシナ南部に進駐した日本への制裁として、石油を含む対日全面禁輸に踏み切り、日本は無謀な対米開戦に突き進んだ。
 西側を中心とした国際社会はこうした歴史を思い起こし、保護主義が事態の深刻化につながるのを防ぐ危機管理能力を強化しなければならない。
 それには世界貿易機関(WTO)の司法機能の回復が不可欠となる。最終審に当たる上級委員会は委員がゼロで、審理不能の異常な状態が3年以上も続く。過去の上級委の判断が途上国寄りだとして、米国が委員補充に反対しているからだ。
 機能を取り戻さねば、極端な保護主義的措置をとる国が現れた場合、WTOは是正を迫れない。米国は早急に上級委問題の解決を図るべきだ。
 インドのモディ首相は昨年秋、ロシアのプーチン大統領に「今は戦争の時代ではない」と侵攻停止を求めた。両国は長年友好関係を維持してきただけに、プーチン氏には痛烈な一言となったはずだ。
 自由貿易の旗手を自任してきた日本は今年、先進7カ国(G7)の議長国を務める。20カ国・地域(G20)議長国のインドと連携し、中ロの軍事的な冒険主義を思いとどまらせるべく、圧力をかけ続ける必要がある。同時に、WTOとともに保護主義の行き過ぎを抑えるブレーキ役も果たしてほしい。(共同通信編集委員 金沢秀聡)

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