シリア難民、深まる窮状 被災地トルコで反感増幅【大型サイド】
トルコ・シリア大地震では、世界最多のシリア難民受け入れ国トルコの中でも、特に難民が多く暮らす南部で甚大な被害が出た。貧しい生活を送る難民の窮状が深まるのは確実だが、トルコ社会では「国民の支援が最優先」(被災者)だと反難民感情が増幅。専門家は支援を巡ってトルコ人との格差が生じかねないと指摘する。
対照的
2011年のシリア内戦勃発後、トルコは360万人以上の難民を受け入れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今回の地震はうち170万人に影響。シリアと国境を接する南部ハタイ県には約35万人が難民登録し、人口の約18%を占める。
中心都市アンタキヤで難民イブラヒム・シャマルさん(43)が崩れたアパートの前に座っていた。3人の子どもががれきの下敷きになり見つからない。15年にトルコに来て日雇いの仕事を続けてきたが、街は広範囲が被災し「働き先がなくなる」。難民は登録地以外への居住制限がある上、シャマルさんには避難先の当ても移動手段もない。
同じアパートのトルコ人男性(51)が「ここでは生きられない」と、親戚が住む最大都市イスタンブールに早々に移住を決めたのとは対照的だ。
拡散
アンタキヤに設営された仮設テントに身を寄せた難民アフメド・アブドルラフマンさん(30)は、妊娠後期の妻(25)を心配していた。テントや毛布をあてがってもらい「行政に感謝している」としつつ、物資を運んできたトルコ人に「あなた方に配るものはない」と言われたと憤る。
トルコは経済危機に見舞われ、震災前からシリア難民への帰還圧力が高まっていた。地震翌日から避難所で過ごすトルコ人男性(45)は「シリア人は強引に物資をもらおうとする」と顔をしかめ、難民が経済を圧迫して復興を妨げると主張した。震災後、ソーシャルメディアには「難民の追放を」とのハッシュタグ(検索目印)が拡散している。
不透明
難民問題が専門のトルコ・ガラタサライ大のディデム・ダヌシュ准教授は、トルコ社会の反感がかつてなく高まる中、被災した難民の支援は「政府にとって非常に難しい課題」だと指摘。エルドアン大統領は被災者の補償を次々発表しているが、シリア人が対象になるかは不透明だと話した。
地震はシリア北部も襲った。内戦下で被害の全容は明らかでない。トルコの被災地で行方不明の兄夫婦を捜す難民ハッサン・カナワシュさん(33)は大きな被害が伝えられる北部アレッポの出身。急速に進むがれき撤去を目の当たりにし「シリアとは大違いだ」と語った。(アンタキヤ共同=日出間翔平、安尾亜紀)