厳寒避難所、関連死防げ 「雑魚寝をさせるな」 北海道で演習、課題浮上【スクランブル】
発生が切迫しているとされる日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対応では、冬に起きた場合の避難所運営が重要な課題になっている。地震や津波の被害を免れても、低体温症による災害関連死の懸念が厳寒期では高まる。1月下旬、北海道北見市で実施された避難所運営の演習では、さまざまな課題が浮かんだ。
医療関係者や自治体担当者ら約100人が1月21~22日、北見市の日本赤十字北海道看護大の体育館で宿泊を伴う訓練をした。暖房が入っていない当初の室温は2度。ブルーシートが敷かれ、毛布1枚が配られたが、「寒くて横にもなれない」との悲鳴が相次いだ。
「決して床で直接、避難者に雑魚寝をさせてはいけない」。同大の根本昌宏教授が強調した。「特に高齢者は寒さで体力を奪われやすい。2011年の東日本大震災では津波から逃げて助かった命が、その後の寒さで奪われたこともあった」
避難所になることが多い体育館は宿泊が前提ではなく、暖房が整備されていない施設も多い。「天井が高く、簡易ストーブがあっても効果は薄い」と根本教授。参加者は、床からの冷気が防げて衛生上も有効な段ボールベッドを組み立て、並べる作業に取り組んだ。
避難所では新型コロナウイルスなどの感染症対策も重要だ。1995年の阪神大震災ではインフルエンザの流行で体調を崩した人が続出した。避難所の適切な換気が必要だが、根本教授は「寒冷地では空気を冷やさないことも考えないと。防寒のため、無駄な換気は避けたい」と指摘した。
演習では、館内の二酸化炭素(CO2)濃度を常に測定、換気の基準を可視化した。名古屋市の医師(55)は「データで示されると安心できる」と感心した様子だった。
避難生活で問題になるのがトイレだ。屋外に置かれた和式の仮設トイレの周囲は凍結して使いづらい。気象庁によると、22日の北見市の最低気温は氷点下19・6度。参加者から「寒くて外に出たくない」との声が出た。根本教授は「トイレの回数を減らすため水分を控えると脱水症状になる恐れがある。既存のトイレで凝固剤入りの便袋を使う『携帯トイレ』を用意してほしい」と話す。
自家用車の中で泊まる人が最近増えたことも踏まえ、1時間の車中泊体験もあった。車の排気口が雪で埋まり、排ガスが車内に入るのを防ぐため、暖房は使わない。エコノミークラス症候群の恐れがある車中泊は適度な運動が必要だが、厳寒の車外で屈伸運動をする人は皆無だった。
根本教授は「寒冷地の災害で関連死を防ぐには事前の準備が不可欠。早急な対策や訓練・検証が必要だ」と訴えた。