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男性議員の回答に思わず脱力、宴会になぜコンパニオン?答えは「心がなごむから」 北海道・ニセコ唯一の女性議員が実感した地方議会のハラスメント

 人口約5000人の北海道・ニセコ町は、リゾート地として海外でも知られている。斉藤うめ子さん(75)は、この町の定数10人の議会で唯一の女性議員だ。現在3期目だが、受けたハラスメントや嫌がらせは数知れず。宴会ではおしりを触られ、「議会に女は不要」と言われたことも。男性議員に囲まれ、気に入らない一般質問を取り下げるよう迫られたことも数え切れない。

北海道ニセコ町議会が入る庁舎
北海道ニセコ町議会が入る庁舎
ニセコ町議の斉藤うめ子さん
ニセコ町議の斉藤うめ子さん
羊蹄山(上)を望む北海道ニセコ町のスキー場=2021年12月
羊蹄山(上)を望む北海道ニセコ町のスキー場=2021年12月
北海道ニセコ町の風景=2022年10月
北海道ニセコ町の風景=2022年10月
北海道ニセコ町議会が入る庁舎
ニセコ町議の斉藤うめ子さん
羊蹄山(上)を望む北海道ニセコ町のスキー場=2021年12月
北海道ニセコ町の風景=2022年10月

 それでも「女性の目線は政治に不可欠。暮らしと政治はつながっている」という思いで活動を続け、女性の政治参画を広げようと力を注いできた。斉藤さんにこれまでの経緯を詳細に振り返ってもらうと、見えてきたのは、男性ばかりで続いてきた地方政治の現場の異様さだった。(共同通信=山口恵)
 100年遅れの町議会、感じたのは「私は異物」
 斉藤さんは札幌市出身。米国や英国、兵庫県神戸市での生活を経て、2006年にニセコ町に移住した。町は2007年以降、男性議員ばかりの「女性ゼロ議会」になっていた。
 神戸では3000人規模の団地の自治会長として、行政との折衝も多く経験し、女性が意思決定の場にいることの大切さを実感した。「人口の半分が女性なのに、女性がいない『ゼロ議会』はおかしい。出馬は自分の使命」。2011年のニセコ町議会選に立候補し、当選した。
 議員になってまず驚いたのが、忘年会など議会関係の宴会にコンパニオンを呼ぶ慣習だ。同僚議員に「コンパニオンって、必要ですか?」と尋ねると「いると心が和む」という答えが返ってきた。こうした飲み会で公費が使われるわけではないが、斉藤さんは違和感を繰り返し訴え、コンパニオンを呼ぶことはやめさせた。
 ただ、後になって近隣の自治体の女性議員たちに感想を聞いたところ、こんな意外な答えが返ってきた。「コンパニオンがいないと、お酌をする役を自分がさせられてしまう。だからやむを得ない」
 1期目の新人議員当時は、宴会でおしりを触られたこともあった。手を払って抗議をしたものの、不愉快さが募った。
 さらに、体調不良で議員控え室で休んでいると、性的な言葉を投げかけられた。ある懇親の帰りに、夫婦仲を揶揄されたこともあった。「議会は半世紀から1世紀遅れてるのでは、と思うことがしょっちゅうある」
 町の広報誌に載ったら「不公平」と言われ…
 セクハラだけではなく、議員活動自体を妨害されることも多かった。狭い部屋に呼び出され、同僚の男性議員らに囲まれながら「こんなの一般質問になるのか」「取り下げろ」と迫られたことも一度や二度ではない。質問の内容は地域交通の課題など、住民の声を聞き、別の地域の先輩議員らに助言を求めたりして準備したものだ。それを全て否定された。
 「質問します」と突っぱねても「やめろ」と返される。長いときで二時間以上の押し問答になったこともあった。
 ある時には、斉藤さんが質問している最中に、男性議員が窓の方を見て「あっ!虹だ!きれいなだな~」と大声を上げた。他の議員も便乗して「すごいなあ」「きれいだな」と虹の話題で持ちきりに。斉藤さんは自分の発言を封じられたように感じた。
 また、事務方が説明している途中で少しでも聞き返すと、同僚議員から「何聞き返してんだ」「ちゃんと聞けやー」と怒鳴られたことも。生理の貧困などを問題提起しても、かみ合わない。発言中に口汚いヤジを受けることもしょっちゅうで、その度にこう感じた。「自分は男の世界の異物。彼らからすれば排除すべき存在なのでしょう」
 最近もこんなことがあった。町の広報誌が、男女共同参画の話題を取り上げ、この問題に取り組む町唯一の女性議員として斉藤さんの写真付きのインタビューを掲載した。すると、ある男性議員が「特定の議員だけ掲載するのは不公平だ」と問題視。全員協議会が開かれるほどの騒ぎになり、最後には町長も呼び出された。結局、「統一地方選を前に配慮が足りなかった」などとして、次号の広報誌に謝罪文を掲載することになった。
 この点をニセコ町に取材したところ、斉藤さんへのインタビューは昨年秋ごろに済ませていたものの、職員の人手不足などのため、広報誌への掲載がやむなく遅れてしまったという。
 広報誌に議員が掲載された例が過去になかったのかも尋ねた。担当者によると、農家や消防団員といった議員以外の顔を持つ男性議員が掲載されたことはあったという。
 誹謗中傷を受けても対処法なし
 こうした経験が重なるにつれ、斉藤さんは「何か質問したらまた妨害されたり、否定されたりするのではないか」と不安を感じるようになった。寝込んで動けなくなり、一時、声が出なくなったことも。精神科を受診し、適応障害と診断されたこともあった。
 孤立無援が続く中、ブログで発信を始めた。だが、ここでも多くの嫌がらせコメントが寄せられる。差出人は匿名だが、だいたい想像はついた。
 被害に遭ったからこそ、ネットでの誹謗中傷がどれほど人を傷付けるかも実感した。だから「(SNSでのバッシングを苦に自殺したプロレスラーの)木村花さんの気持ちが分かる」と語る。
 現実でもネットでも続くこうしたハラスメントや嫌がらせに、どう対処すべきかと考え、2018年ごろから弁護士に相談を重ねてきた。ただ、良い方法はないようだ。
 弁護士はこう説明した。「議会には倫理条例やハラスメント防止条例がない。だから不適切行為として問題にすることはできない」
 そうなると、結局は加害者に対して法的措置を取るしかなく、今も検討中だ。2019年の改選で議員が一部入れ替わったことや、コロナ禍が続いていることなどから、適切に対応が取れないまま時間が経過している。
 ハラスメント、活躍の最大の壁
 これほどの被害を受けてもなお議員活動を続ける原動力を尋ねた。斉藤さんは「励ましてくれる町民のみなさんに支えられている」と明かした上で、初出馬の時からの揺るがぬ信念も語った。「生活実感のある女性の声が反映されることで、政治や社会はもっと良くなるはず」
 自身の経験から、女性の議会進出を阻む最大の壁はハラスメントだと感じている。「地方議会のハラスメント問題は全国的な問題。男性ばかりで同質性が高い組織の中で、自分たちの暴力性に気づき、省みることは難しい。中には倫理条例やハラスメント防止条例を定めている議会もあるが、約1800ある地方自治体の一部にすぎない」
 国は制度上、地方議会のトラブル是正を指導する立場にはないが、それでも対応が必要だと感じている。「国は条例制定の後押しを進めてほしい」
 女性議員を増やすことは、斉藤さんの長年の夢だ。せっかく当選しても、1期で辞めてしまう女性議員を多く見てきた。「ひとりだけだと、どうしても孤立してしまう。議会に女性が何人かいれば違うはず」。町議会などでも繰り返し訴えてきた。今年5月以降、女性のための政治スクールを始めるつもりだ。
 ジェンダー平等を推進する流れは、少しずつだが日本でも浸透し始めている。流れを途切れさせないために何が必要か。斉藤さんは力強く語った。「我慢しない。言い返したって良い。戦いは続くけど、黙らずに声を上げていくことが大事だと思っています」

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