不適切保育アンケート 定期監査に限界、告発頼み 「性悪説」の対策に懸念も【表層深層】
保育施設への調査権限を持つ自治体を対象に共同通信が実施した全国アンケートによると、虐待などの不適切保育を把握した端緒は「内部告発などの情報提供」が7割近くを占めた。定期監査が機能不全に陥っている実態に、保護者らから抜き打ち監査の導入や監視カメラの設置を求める声が上がる。一方、「性悪説」に立った対策では根本解決につながらないとの懸念もある。
■事前に通知
2022年12月3日、静岡県裾野市の私立「さくら保育園」に県・市の担当者計11人が入った。
市は同8月、「内部事情を知る人物」からの情報提供で虐待行為を把握。関与が疑われた保育士3人は既に退職していたが、国が通知で規定する「園児に重大な被害が生じる恐れがある場合」に該当すると判断し、特別監査を決行した。
県は21年7月の定期監査で「問題なし」と結論付け、22年度は監査そのものを実施していなかった。
児童福祉法施行令は、保育園などに対し原則年に1回以上、定期監査を行うことを中核市以上の自治体に義務付けている。「現場の混乱を避けるため、事前に日時を通知して行くのが基本」(静岡県の担当者)で、聴取対象も限定されるため、不適切保育を見抜きにくいという課題がかねて指摘されていた。最近は新型コロナウイルス感染拡大を理由に実地での監査を控える自治体も多い。
■監視カメラ
14年に宇都宮市の認可外保育施設で乳児が放置され死亡した事件では、両親が「虐待の疑いがあると通報を受けたのに、抜き打ちの立ち入りをしなかった」と市を提訴。市の対応を「不十分」とした宇都宮地裁判決を不服として市は控訴したが、東京高裁は一審判決を支持した。
「保育園を考える親の会」(東京)の普光院亜紀顧問は、定期監査の重要性を強調した上で「普段の保育内容を見るために抜き打ちでやってほしいと望む保護者は多い」と話す。
解決の切り札となりそうなのが、監視カメラだ。保育園運営のコンサルティングなどを手がける「ベースジャパン」(さいたま市北区)では、裾野市の事件をきっかけにカメラに関する問い合わせが相次ぎ、既に3園が設置した。設置検討の理由は「何かあったときに映像で説明できるようにしたい」「保護者が心配している」などで、白川辰郎社長は「カメラを付ければ、真面目に働いている保育士を守れる」と強調する。
■伴走
ただ、監視強化の風潮を懸念する声もある。
玉川大の大豆生田啓友教授(保育学)は「監視の目が増えることは、保育士の意欲の減退や離職につながりかねない」と危惧。「公開保育や研修の充実など、行政には現場を良くするために伴走していくという意識が求められる」と注文する。
元厚生労働官僚の中野雅至神戸学院大教授(行政学)は「そもそも定期監査の目的は配置基準を満たしているかどうかなどを確認することで、不適切保育のチェックではない」。抜き打ちの監査には相当なマンパワーが必要となるため、現実的ではないとも指摘する。
その上で「保護者参加型の園運営」が虐待の撲滅には効果的だと説明。「子を預けっぱなしにするのではなく、積極的に園に足を運び、保育の様子を見学することが抑止につながる」と話した。