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年収の壁見直し表明 具体策なく、生煮え感 首相意欲、紆余曲折も【表層深層】

 パートで働く人が就労時間を抑制する「年収の壁」は長年の課題となっている。少子高齢化と人手不足が深刻化する中、岸田文雄首相は1日、制度見直しに意欲を示したが、具体策には言及せず、“生煮え”の感も。見直しの内容によっては新たに社会保険料などの負担増が生じる可能性があり、実現までには紆余曲折がありそうだ。

衆院予算委で自民党の平将明氏(左下)の質問に答弁する岸田首相=1日午前
衆院予算委で自民党の平将明氏(左下)の質問に答弁する岸田首相=1日午前

 負のスパイラル
 「どんな対応ができるのか、幅広く検討してまいりたい」。1日の衆院予算委員会。首相は年収の壁について問われ、そう答弁した。
 現行ではパートで働く人の年収が増えると、配偶者の扶養から外れ、社会保険料を負担する必要がある。企業規模によって130万円または106万円が境になり、多くの人がこうした「壁」を意識せざるを得ない。
 政権が重視する賃上げが進めば、パートの人が保険料負担を避けて就業時間を減らし、人手不足感がさらに高まる。予算委で質問に立った自民党の平将明氏は、こうした状況を「負のスパイラルだ」と指摘した。
 日本商工会議所は昨年秋にまとめた提言で「就業を阻害する税・社会保障制度の是正」を明記。「賃上げしたことで、就業時間調整による労働力減少が生じているとの声が多く寄せられている」と訴えた。
 拍車
 帝国データバンクの昨年10月の調査では、回答企業の5割強が人手不足を訴え、特にパート労働者が多い飲食業や宿泊業では7割を超えた。同社担当者は「『長く働きたくても働けない』というパート従業員が以前から多く、新型コロナウイルス禍からの需要回復で人手不足に拍車がかかっている」と分析する。
 夫の扶養に入る東京都の女性(35)は「仕事に集中したいのに、年末に細かな調整をしてシフトを減らすのが面倒だった。なぜ働くほど損する人が出かねない仕組みなのか」と疑問を示す。
 しかし見直しは容易ではない。会社員や公務員の配偶者に扶養されている年金の「第3号被保険者」は2021年度末時点で763万人。保険料を払わずに老後の年金を受け取れるため、不公平との指摘もあり、厚生労働省は約20年前に本格的な議論を始めた。だが「年金減額や保険料増につながる」(同省幹部)として断念したという。
 年収の壁は、当時の安倍晋三首相の「女性が就業調整を意識せずに働けるようにする」との方針で17年度税制改正のテーマにもなった。ただ、専業主婦世帯などの負担増になるとして与党の慎重論でトーンダウン。結局、世帯主が控除を38万円満額受ける配偶者の年収基準を「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げる中途半端な形で終わった。
 時限措置
 唐突に出てきた感のある年収の壁の問題だが、岸田政権は以前から時機を見計らっていた。ただ、昨年はロシアによるウクライナ侵攻や防衛力強化、原発活用などの課題に加え、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に追われた。首相は今年、ようやく少子化対策を優先課題に据えた。官邸筋は「安倍政権下で女性就業者は増えたが非正規が多い。これを正規に変え、経済成長につなげたい」と狙いを語る。
 野村総合研究所の武田佳奈エキスパート研究員は、手取りが減らなければ今より多く働きたいと考える女性は多いとして「『働き損』を解消するため、手取りの減少分を時限的にでも給付するような施策が有効だ。物価高が続く中、世帯年収の引き上げと人手不足解消につながり、経済効果も期待できる」と話す。

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