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ミャンマー送還、収容におびえる日々 クーデターから2年、緊急避難措置は適用されない人も【フォーカス在日難民】

 ミャンマーの軍事クーデターから2月1日で2年。日本政府は発生の約4カ月後、在日ミャンマー人に在留を認める「緊急避難措置」を発表した。しかし、いまだに措置を適用されず、不安で厳しい生活を送る人もいる。(共同通信編集委員・原真)

「日本じゃない、別の国に行けば良かった」と嘆くラパイさん(仮名)=東京都内
「日本じゃない、別の国に行けば良かった」と嘆くラパイさん(仮名)=東京都内
ミャンマー軍の空爆で破壊されたカチン州の建物。この州のカチン人をはじめ少数民族と軍の戦闘は激化している=2022年10月(AP=共同)
ミャンマー軍の空爆で破壊されたカチン州の建物。この州のカチン人をはじめ少数民族と軍の戦闘は激化している=2022年10月(AP=共同)
軍政による民主活動家の死刑執行後、ミャンマー・ヤンゴンで行われた抗議デモ=2022年7月(ゲッティ=共同)
軍政による民主活動家の死刑執行後、ミャンマー・ヤンゴンで行われた抗議デモ=2022年7月(ゲッティ=共同)
2023年1月4日、ミャンマーの首都ネピドーで開かれた独立記念日の式典に出席した国軍トップのミンアウンフライン総司令官(共同)
2023年1月4日、ミャンマーの首都ネピドーで開かれた独立記念日の式典に出席した国軍トップのミンアウンフライン総司令官(共同)
「日本じゃない、別の国に行けば良かった」と嘆くラパイさん(仮名)=東京都内
ミャンマー軍の空爆で破壊されたカチン州の建物。この州のカチン人をはじめ少数民族と軍の戦闘は激化している=2022年10月(AP=共同)
軍政による民主活動家の死刑執行後、ミャンマー・ヤンゴンで行われた抗議デモ=2022年7月(ゲッティ=共同)
2023年1月4日、ミャンマーの首都ネピドーで開かれた独立記念日の式典に出席した国軍トップのミンアウンフライン総司令官(共同)


 「帰れというのは、死ねということ」。3回目の難民申請中の40代女性ラパイさん(仮名)は訴える。

 ミャンマー北部カチン州出身の少数民族カチン人。父は軍事政権と長年対立するカチン独立軍(KIA)の将校だった。軍や警察が繰り返し自宅を訪れ、危険を感じて2008年に来日した。

 「日本は女の子が夜、出歩けると聞いたから。私にとっては安全が一番」。だが、在留資格と異なる仕事に就いたとして2009年に国外退去を命じられ、計1年以上、出入国在留管理庁の収容施設に身柄を拘束された。

 母国の民主化で2016年にアウンサンスーチー政権が発足して以降も、少数民族への軍の攻撃は止まらなかった。難民認定を求めて提訴したものの、「迫害を受ける客観的事情があるとは認められない」と棄却された。

 「米国やオーストラリアに逃れた友達は、カチン人というだけで難民と認められているのに」とラパイさん。

 現在は一時的に収容を解かれる「仮放免」の状態で、就労が許されず、健康保険にも入れない。キリスト教会などの支援で暮らしている。新型コロナウイルスに感染した際も、当初は医療機関に行くのをためらった。

 入管庁は2021年5月、ミャンマー人の在留期間を延長するなどの緊急避難措置を発表し、2022年末までに約9600人に適用した。ただし、ラパイさんのような非正規滞在の難民申請者には、難民に該当するかどうかの審査が終わるまで、措置を取っていない。

 難民審査には平均約2年8カ月かかる上、2021年の認定率はミャンマー人でも5%にとどまる。

 同様に仮放免のままのミャンマー人難民申請者は、ラパイさんを支援する渡辺彰悟(わたなべ・しょうご)弁護士が把握しているだけで17人に上るという。

 いつ再び収容され、強制送還されるか分からないとおびえる。「毎日、食べて寝ているだけ。心は死んでいる」。ラパイさんは涙ぐんだ。

 また、緊急避難措置では、オーバーステイなど「自己の責めに帰すべき事情」で非正規滞在になった人には、措置を適用する場合も、在留期間は半年、就労は週28時間以内などと制限している。

 ウクライナ避難民に対し、日本政府が1年間の在留と就労を認め、生活費なども支援しているのと比べ、格差が大きい。

 渡辺弁護士は「緊急避難措置を発表して希望を持たせながら、適用しないのは非人道的。少数民族や民主派への軍の弾圧が続いている状況で、ほとんど難民と認定されていないのも異常だ」と批判する。

 ▽政府は厳格化の法改正準備 「受け入れが先」と人権団体

 政府は難民認定制度が乱用されているとして、対応を厳格化する入管難民法改正案を準備中だ。人権団体や野党は、他の先進国並みに難民を受け入れることが先決だと強く反発している。

 現行法では、難民申請中の外国人は強制送還されない。人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害の恐れのある母国に帰れば、命に関わるからだ。

 しかし政府は、日本にとどまるために難民申請を繰り返す人が多いと主張。2021年、国会に提出した法案には、難民申請を3回以上した場合は強制送還できる規定を盛り込んだ。

 その後、名古屋入管に収容中のスリランカ人女性が死亡したこともあり、入管への批判が高まって廃案となった。だが政府は、同様の法案を今国会に提出する方針だ。

 これに対し、「移住者と連帯する全国ネットワーク」などは、日本の難民認定率は欧米諸国より桁違いに低く、保護されるべき難民が認定されないから、難民申請を重ねざるを得ないと指摘する。実際、複数回申請したり、裁判で争ったりした末に、難民と認定された人も少なくない。

 立憲民主党などは、難民保護専門の独立行政機関の新設を含む法案の国会再提出を検討している。

 言葉解説「難民」

 戦争や災害などで故郷を離れた人々は一般に難民と呼ばれる。難民条約は、人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがあるため、母国を離れた人を「難民(条約難民)」と定義し、条約加入国に保護を義務付けている。日本も審査の上で条約難民と認定した人には、安定した在留資格を付与し、日本語教育などを無償提供している。ただし、難民認定数、認定率とも欧米諸国に比べ桁違いに低水準だ。

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