洋上風力、EEZに拡大 安保や制度設計、課題山積 浮体式、先例少なく
排他的経済水域(EEZ)での洋上風力発電設備設置に向け、政府が法整備に動き出す。欧州ではEEZでの設置例はあるが、日本で将来主力と目される風車を海に浮かべる「浮体式」の先例は少ない。2050年の脱炭素社会実現に貢献するとの期待もあるが、安全保障との兼ね合いや制度設計の在り方など課題は山積している。
歓迎
「商業化できる範囲の拡大に直結するのでありがたい」。洋上風力の業界関係者は法整備を歓迎する。日本のEEZは広大で、商機があるとされる。
洋上風力は陸上に比べ風況が良いため、発電が安定し、騒音や景観問題が起こりにくいメリットがある。欧州ではEEZでの設置や稼働が進んでいるが、ほとんどが海底に固定する着床式。日本は遠浅の欧州と異なり水深が深いため、浮体式が現実路線だ。沖合での浮体式設置は知見や技術の蓄積が十分とは言えず、困難も予想される。
洋上風力に詳しい有識者は「領海での促進区域の設定も漁業者との関係などでさまざまな調整があった。EEZも調整が難航する可能性はある。実際に稼働するのは10年以上先になるのではないか」と指摘する。
安全保障
EEZは隣国などの船舶も航行する。浮体式洋上風力に適しているとされる水深50~200メートル以内で風況の良い海域はEEZ内でも限定されるが、船舶が近づかないようにするため安全水域を設定する必要も生じる。
国際法上の課題について議論する内閣府の検討会には防衛省がメンバーに入っていない。だが安全保障上、機微に触れる可能性もあり「協議の内容などは防衛省と共有している」(政府関係者)という。
防衛省関係者は「場所によっては軍事レーダーの支障になる可能性もある。不安材料はゼロの方が良いが、国のエネルギー政策も重要な課題であると理解している」と安全保障との両立の難しさをうかがわせる。
脱炭素
50年に脱炭素社会を実現するために洋上風力は将来の「鍵」とされるが、コスト面での課題も多い。陸上から遠くなればなるほど、送電ケーブルの距離が長くなるため、大規模な風力発電設備によるスケールメリットが必要になる。大規模化による環境影響への配慮も広い範囲で欠かせない。
政府関係者は「ゆくゆくは自動車産業のような裾野の広いサプライチェーン(供給網)を構築していきたい。そのために法整備は必要不可欠な過程だ」と話す。