ブラジル連邦議会襲撃 民主主義の危機、米に酷似 トランプ派接触、影響か
ブラジルで8日、連邦議会、大統領府、最高裁という三権の象徴が右派ボルソナロ前大統領支持者に襲撃された。根拠薄弱な主張にあおられた人々が選挙結果を覆そうと国家権力中枢を襲う光景は、トランプ前大統領支持者による2年前の米議会襲撃に酷似。ボルソナロ陣営がトランプ派に接触し、影響を受けていたとの指摘もある。民主主義の危機は、米国から南米最大国に波及した。
「盗まれた」
「ルラ(現大統領)は勝利していない。選挙は不正だった。ここには戦いに来た」。大統領府に侵入した自営業の女性バレリア・ペレイラさん(30)は、左派ルラ氏がボルソナロ氏を破った昨年の大統領選を認めないとまくし立てた。ブラジル国旗を身にまとった参加者らは「選挙は盗まれた」と一様に繰り返した。
地元メディアが伝えた映像などによると最高裁では机や棚が倒され資料が床にちらばり、水もまかれた。大統領府では絵画が壊され、歴代大統領の写真が床に散乱。窓ガラスは割られ、大量の椅子が屋外に投げられた。
交流サイト(SNS)では数日前から「議事堂に行こう」との呼びかけが出回っていた。支持者は約100台のバスに分乗し集結。バリケードはあっけなく破られた。1週間前にルラ氏の就任式が華やかに行われた議会や大統領府は催涙弾の白煙に包まれた。
布石
過激な物言いで保守派の根強い支持を築いたボルソナロ氏は、「ブラジルのトランプ」と呼ばれてきた。女性や少数派に差別的発言を繰り返したり、真偽不明の情報を拡散して支持者を結集させたりする姿勢は似通う。
ボルソナロ氏は大統領選の1年以上前から電子投票システムに不正があると根拠なく訴えてきた。自身が敗北した場合には結果を認めないとの布石を打ったようだった。
選挙後、政権移行の許可を出す一方、敗北を明確には認めなかった。昨年末に空軍機で米国へ渡ったが、その際も選挙で不正が行われたと主張。抗議は続き、昨年12月24日には首都の空港付近で爆発事件を起こそうとした男が逮捕されていた。
火種
裏で糸を引いた人物がいるかどうかなど襲撃の背景は明らかになっていない。ただ、ボルソナロ氏陣営はトランプ氏の側近と情報交換し、選挙結果発表後の対応について助言を受けていた可能性が指摘されている。
米紙ワシントン・ポストによると、昨年10月の大統領選以降、ボルソナロ氏の息子の下院議員はトランプ氏のフロリダ州の邸宅を訪れて面会。トランプ氏の側近と連絡を取り、元首席戦略官バノン氏とは選挙結果への異議申し立ての効力に関しても協議していた。
「ルラは選挙結果を盗んだ。ブラジル人は理解している」。英BBC放送によると、襲撃の映像が流れ始めた8日も、バノン氏はソーシャルメディアであおるような投稿を繰り返し、暴徒を「自由の戦士」と称賛した。
ブラジル当局は支持者の移動などを経済的に支援した人物の特定を急ぐ。事実から目を背け暴力を辞さない「トランプ主義」が、ブラジルにも浸透しつつある現実が浮き彫りになった衝撃は大きい。混乱は一時的に収まっても、火種はくすぶり続けそうだ。(ブラジリア、ワシントン共同=中川千歳、新冨哲男)