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福井大査読問題 論文掲載数で研究費獲得「評価の仕組み、改善を」

 福井大教授が自らの論文の「査読」に関わった問題で、福井大の調査委員会は20日、教授らの論文で不適切な行為があったと認定した。福井大は再発防止策として倫理教育強化を掲げるが、研究者が国の研究費を獲得するには数多くの論文掲載を求められるという実態がある。専門家は「掲載される論文数で研究業績が決まる現制度に問題がある。評価の仕組みを改善する必要がある」と指摘する。

不適切と認定された行為の構図
不適切と認定された行為の構図


モラル
 「福井大の研究6本の審査過程で不適切な行為があると認定した。研究の信頼性を大きく失墜させ、深くおわびする」。調査委委員長を務める末信一朗副学長は20日、記者会見で頭を下げた。
 査読は、出版社側から依頼を受けた専門家が無償で行うもので、学術論文の水準を維持する上で欠かせないシステムだ。一般的に匿名で行われるが、査読に適切な専門家を探すのは手間がかかるため、著者に査読者を推薦するよう求める出版社も増えているという。
 中村征樹・大阪大教授(研究公正)は今回のケースを「著者が推薦制度を悪用した」と批判。推薦された側も「著者と近しい関係なら、査読を辞退する倫理観が必要」とくぎを刺す。

利益相反
 査読者とのメールのやりとりが不適切な行為と認定された友田明美・福井大教授は、児童虐待や不適切な養育が子どもの脳や発達に与える影響の研究で注目されている。問題とされた査読者の一人の千葉大教授は、同じ分野の権威の一人で、面識があった。
 友田教授が一連の行為に手を染めた理由を、調査委は「(査読者が)自分より経験がある著名な研究者で忙しいと思ったので査読に関わる労力を減らすべきと判断した」と説明した。
 研究不正に詳しい科学・政策と社会研究室の榎木英介代表は「分野が近くないと適切な査読はできないが、近すぎると利益相反になる」と話す。

透明性
 一方、査読者や査読コメントを公表する仕組みを導入する出版社も増えている。「オープン査読」と呼ばれ、公表により透明性の確保を目指す。学術誌に出す前の草稿をウェブ上で公開する「プレプリント」も普及。物理学分野では数十年前から始まったが、近年は新型コロナウイルス関連研究で迅速に成果を出す傾向が強まった。
 ただそもそも、論文数を研究業績の指標とする風潮に疑問を呈する見方もある。榎木氏は論文数が過度に評価に結び付いているとして「研究者の評価システム改善が必要。多角的に考えないといけない」と述べた。

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