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防衛財源「見せかけ」の財政規律 長期的な安定財源確保にはほど遠く【表層深層】

 防衛費増額の財源確保で、来週の決着に向けて1兆円強とされる増税部分の具体策の検討が本格化する。法人税を軸に調整が進む見通しだが、増税対象などを巡りなお曲折も予想される。増税以外では剰余金などの転用で赤字国債の発行を回避し、見かけ上の財政規律を守った形だが、長期的な安定財源の確保にはほど遠いのが実情だ。

財源確保の枠組み
財源確保の枠組み


短期決戦
 「1兆円強については国民の税制でご協力をお願いしなければならない」。岸田文雄首相は8日の政府、与党会合で、自民、公明の税制調査会で増税の対象や時期を具体化するよう求めた。
 議論の舞台となる税調では、来週15日にゴールを定めた税制改正大綱の取りまとめまでの決着を目指す。既に、来春の統一地方選に向けて世論を意識する与党からは「個人負担が増えない方法の中で議論してもらう」(自民の萩生田光一政調会長)など所得税を対象から外すよう求める発言が相次いでおり、岸田首相も8日の政府与党の会合で追認した。
 増税を容認しつつも「法人税狙い撃ち」を警戒する経済界は「日本全体で負担しなければならない」(経団連の十倉雅和会長)と予防線を張るが、外堀を埋められつつある状況だ。
 ただ、2027年度時点で1兆円強と想定される増税の全てを企業が負担することには否定的な声もある。自民税調のある幹部は「増税するかどうかを長く議論しても、結果は変わらない」と「短期決戦」に自信を見せるが、早くも公明の高木陽介政調会長が「中小企業などにしわ寄せがいかないように」と注文を付けるなど、課税対象などを巡っては紆余曲折がありそうだ。
 与党税調は税制改正の中で、株や土地といった資産からの所得が多い富裕層への課税強化を別途検討しており、これが結果的に防衛財源の一つとして位置付けられる可能性も消えたわけではない。

苦肉の策
 防衛費増額の枠組みで示された四つの財源のうち「決算剰余金」は国の一般会計の余りで、毎年1兆円ほど発生する。半分は国債の償還に充てることが法律で規定され、もう半分は毎年のように編成される補正予算の財源に充てられている。
 また、複数年度にわたり防衛費に使えるように資金をためておく新たな枠組みとして「防衛力強化資金」を設け、特別会計で生じる剰余金や、国有資産の売却収入を活用。さらに防衛費以外の経費削減などの歳出改革も合わせ、27年度時点で4兆円程度が必要になる新たな財源を賄う方針だ。
 ただ強化資金の一つとなる「外国為替資金特別会計」の剰余金はこれまで、7割を目安に一般会計に繰り入れて赤字財政を補ってきた。財務省幹部は「国債発行の抑制を支える財源を防衛費に転用すれば、結局は他の経費の財源に穴があく」と指摘。「そこを国債で穴埋めすれば、財政全体は悪化する」と、増税以外の財源確保策が財政規律を取り繕うための苦肉の策であることを認める。
 歳出改革には財務省内にも実現を疑問視する声があり、「防衛力を安定的に支えるためのしっかりした財源措置が不可欠だ」との岸田首相の言葉がむなしく響く。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「決算剰余金や、外為特会の剰余金などは不安定な財源であり、恒久財源であるかのように使うのはおかしい」と批判した。

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