台北“ヒーロー”の敗因 海外特派員コラム「世界の街から」
台湾で11月に実施された統一地方選で、台北市長選に出馬した与党、民主進歩党(民進党)の陳時中氏が最大野党、国民党の蒋万安氏に大差で敗れた。陳氏は衛生福利部長(衛生相)として新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んだ“ヒーロー”。なぜ敗れたのか。民進党大敗が最大の要因だが、疑問が残った。
台湾のTVBSテレビが2020年4月に発表した世論調査の支持率は、陳氏が49%で☆(草カンムリに将の旧字体)氏に14ポイント差でリードしていた。だが今年9月には逆に13ポイント差をつけられ、11月中旬で11ポイント差となった。
民進党関係者は「当初は陳氏のコロナ対策への支持は高かった。選挙戦に入ると、民進党嫌いの層が陳氏の評価も一変させ、批判するまでになった」。野党側の攻撃もあり、中間層にもマイナス評価が拡大したと振り返る。
第2次大戦でナチス・ドイツと戦った英国のチャーチル元首相は1945年の総選挙で敗北した。関係者は「有権者がチャーチルを『戦争の苦痛の体現者』と認識したためだ」と指摘、陳氏も同様に「コロナ禍の苦痛の体現者」と認識されたと分析する。
感染拡大による失業や倒産、厳しい防疫策による隔離や、マスク未着用に対する罰金…。陳氏の存在が苦痛と怒りの記憶を呼び起こしてしまったとの見方だ。
一方、民進党大敗の原因として、18歳以上の男性に課している現行の4カ月間の兵役を1年に延長する動きがあることに若い層が反発し、同党候補への投票を棄権したためだとの指摘が上がっている。
コロナ対策と激化する中国の軍事的脅威。2024年1月にも予定される総統選に向け、各党がいかなる戦略を打ち出すのか。目が離せない。(台北共同=松岡誠)