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「安全保障分野での相互信頼の欠如が日中関係発展の妨げになっている」 孔鉉佑・駐日中国大使インタビュー

 中国の孔鉉佑駐日大使(63)が共同通信の単独インタビューに応じた。今年10月に3期目の習近平指導部が発足した後、孔氏が日本メディアの会見で語るのは初めて。

インタビューに答える中国の孔鉉佑駐日大使=12月1日、東京都港区の中国大使館
インタビューに答える中国の孔鉉佑駐日大使=12月1日、東京都港区の中国大使館
中国の孔鉉佑駐日大使
中国の孔鉉佑駐日大使
インタビューに答える中国の孔鉉佑駐日大使=12月1日、東京都港区の中国大使館
中国の孔鉉佑駐日大使

 中国では現在、新型コロナウイルスが猛威を振るい、「ゼロコロナ」政策が堅持されている。だが一方で、11月下旬に政策への反発が国内外で表面化したことについては「民衆の訴えに耳を傾け、対策の最善化を図る」と述べ、「(制限)緩和の方向が基本方針」と強調した。
 国交正常化50年を迎えた日中関係に関しては「新型コロナ下でも経済関係の緊密さは衰えていない」と評価する半面で、「安全保障分野での相互信頼の欠如」が発展の妨げになっているとの懸念も訴えた。(共同通信=杉田正史)
新しい時代の関係構築を
 ―日中国交50年をふさわしい雰囲気で迎えられたと思うか。
 「この50年間、いろいろな波風や紆余曲折もあった。しかし全体的には、どのようなことがあっても日中関係は絶えず前に進んできた。二国間の利益は本当に深く融合し合い、お互いの発展もかつてないほど緊密な関係になりつつあり、両国国民に多大な利益をもたらしてきた」
 ―現状の日中関係をどう考えるか。
 「新型コロナ下でも、両国の経済関係の緊密さはいささかも衰えておらず、経済協力の強靱性が十分に反映された。(両国は)主要な経済大国であり、地域協力のリードや地球規模の課題への対応など幅広い共通利益を持っており、国際地域の安定と繁栄でも欠かせない重要な役割を果たしている。近隣国である以上は、さまざまな問題や食い違いがあることは当然避けられない。その中で、安全保障分野における相互信頼の欠如、国民感情の脆弱さなど深刻な問題が依然として存在し、2国間関係のさらなる発展の妨げになっていることも事実だ。お互いの違いや問題を、建設的に管理する双方の責任感と知恵が試されている時だと考える」
 ―日本経済の規模が相対的に小さくなる中で、対日外交の重要性も低くなっているか。
 「時代がどう変わろうとも、中日関係の重要性そのものが変わることはないと考える。新しい時代にふさわしい安定した両国関係の構築が極めて重要で、お互いに力を尽くしていくべきだ。経済の面では既に主要な経済貿易のパートナーであり、共通利益は密接不可分となっている」
 ―中国が、日米同盟下で日本に求める「戦略的自主性」とは何か。
 「中国は、他国が同盟関係を発展させることを批判し、干渉する考えはない。第三国に敵対せず、地域の平和と安定を損なわなければ、基本的には尊重する。グローバル化の今日、各国は苦楽を共にする運命共同体であり、対立と対決に活路はなく、協力、ウィンウィンこそが大勢である。日本側がこの大勢を見極め、世界の潮流に従って前向きで理性的なバランスの取れた外交政策により、自身と地域の利益に合った戦略的選択をすることを希望している。日米同盟政策の矛先をどこに向けるかということに関心があり、その関心は自分自身の合理的な安全利益を守るための一つの政策であることを強調したい」
科学的にコロナ対策を緩和方向に
 ―中国が実施する「ゼロコロナ」政策を見直す考えはあるか。
 「(ゼロコロナ政策は)中国の国情に立脚し、科学的な根拠と法則により定められた対策方針だ。最低の社会的コストと最短期間で感染症を抑え込み、国民の命や健康を保護し、経済・社会の発展と正常な生活への影響を最大限減らしていくことを目的としている。感染症対策は絶えず見直して最適化しつつある。中国国内で一部民衆がコロナ対策による生活の不便さについて、さまざまな形で訴えていることにも注意深く配慮し、コロナ対策の最善化を図っていく。国民の訴えに謙虚に耳を傾けながらコロナ対策を実施し、同時に社会の安定を維持していくということだ」
 ―緩和する可能性はあるか。
 「ゼロコロナと言われているが、1人も感染者がいては駄目ということではない。例えば北京や上海、深セン、広州の都市であれば人口は密集しているが、医療体制はある程度、整備されている。そうした人口密集地域で感染が発生しても、現行の医療体制で何とか対応できる。しかし一番強く懸念しているのは、都市部から別の地域に拡散していくことだ。中国の医療体制は二元化構造になっており、(医療が)遅れている地域に拡散すると、重症化率や死亡率が高くなる。都市部で感染を食い止めるのが目標だ。(だが)こうした基本方針の中でも、緩和の方向に向かい、科学的に調整しながらコロナ対策を実施していく」
 ―「ゼロコロナ」政策下での人的往来の活性化策はどう考えるか。
 「中国国内で(新型コロナ感染者数の)リバウンドが見られているが、『対策緩和の方向』の基本方針は変わらない。国際交流でも既に第1弾、第2弾と既に講じられた。これから多分、第3弾、第4弾の調整策が発表されることになるだろう。新型コロナ対策が実施されており、中国と日本の自由な往来そのものはまだ100%回復される見通しは完全には立っていない。しかし既に一歩を踏み出した。私個人の見方だが、コロナ感染の状況が徐々に収まる中で、そんなに遠くない将来、中国と日本との本格的な人的往来も回復される段取りになるだろうと信じている」
警戒心を持ち議論見守る
 ―11月17日の日中首脳会談で、建設的で安定的な関係構築で協力を図ることが合意された。中国側はどのような形で進めるつもりか。
 「首脳会談は、戦略的で大局的な見地から直面している情勢を判断し、新しい時代にふさわしい2国間関係の構築という重要なコンセンサス、再確認する重要な機会でもあった。今回できたコンセンサスを実行に移すことを一つの課題として、具体的な措置で両国関係の基盤をさらに強固なものに努めていくべきだと考える。中国と日本の間のハイレベルの経済対話、ハイレベルの人文交流の協力メカニズム、こうした制度的枠組みの活用、対話の意思疎通ルートを使っていく。また、お互いに協力パートナーであり、脅威とならないというコンセンサスを具体化していき、勝ち負けという論理で二国間の協力を定義することを避けるべきだ」
 ―国賓として習近平国家主席が来日する可能性は。
 「(首脳間の)ハイレベル往来の問題は、当然ながら中国と日本の関係において、戦略的けん引力がある重要なことで、一貫して重視している。両国関係の安定化、改善を絶えず図っていきたいと考える。各レベル、各分野の対話や政治的相互信頼の増進を続け、しかるべき環境整備や雰囲気作りを怠らずに進めていくべきだと考えている」
 ―習近平指導部が異例の3期目に入った。
 「第20回党大会で、習総書記を核心とする3期目の中央指導集団が選出され、習総書記の党中央の核心と全党の核心としての地位、新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位が確立された。中国の政治の安定性と、政策の連続性が保証された党大会だった。こうした安定性と連続性は、世界の多くの不確定性と不確実性に対処していくことにも大いに役立つと考える」
 ―岸田文雄首相が防衛費GDP2%の指示を出した。反撃能力に関して、専守防衛の理念を変質させるという意見もある。日本の動向をどう見ているか。
 「非常に興味深い問題の一つだ。防衛費の増額や防衛大綱の抜本的見直しなど一連の動向も、憲法修正の議論と交わって複雑な議論に展開されており、しかるべき警戒心で日本国内の議論を見守っている。どのような防衛政策を実行していくか、これは単に日本のことだけの問題ではない。地域の安全環境にも大きな変化と影響を与えかねない。日本が平和憲法の基本精神をしっかりと守り、平和発展の道をこれからも揺るぎなく歩み続けていくという決意の姿勢を国際社会に示すべきだと考える」
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 孔鉉佑氏(こう・げんゆう) 1959年7月生まれ。79~83年、上海外国語学院(現上海外国語大)で日本語専攻。在日中国大使館での勤務などを経て2006年、駐日公使。11年駐ベトナム大使。外務省アジア局長や外務次官補を歴任し17年から外務次官を務め、朝鮮半島問題特別代表を兼務。19年5月に駐日大使として着任。黒竜江省出身、63歳。

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