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NHK次期会長 外部経済人に期待、首相の強い意向 「政治との距離」に識者から厳しい声

 NHKの次期会長に、元日銀理事の稲葉延雄氏の就任が決まった。NHKは来秋、過去最大規模での受信料値下げに踏み切る方針。前田晃伸現会長による営業改革の影響もあり、受信料収入は苦戦を強いられている。当面は赤字収支になるとみられ、岸田文雄首相の強い意向も働き、再び外部の経済人に難局の乗り切りを期待した形だ。「政治との距離」を巡り識者から厳しい声も上がる。

記者会見するNHKの前田晃伸会長=10月、東京都渋谷区
記者会見するNHKの前田晃伸会長=10月、東京都渋谷区

意中の候補
 「元日銀理事の稲葉氏を考えています」。11月24日夜。岸田首相は、都内の日本料理店で自民党の麻生太郎副総裁と会食し、意中の候補を明かした。念頭になかった麻生氏は驚いたという。実は自民党の茂木敏充幹事長と数カ月前から相談を重ね、別の経済人の起用を探っていた。
 1カ月ほど前。ある総務相経験者が首相側近に「そろそろ外部登用でなく内部昇格させたらどうか」と提案。だが側近は「首相は首相で考えるところがあるようです」と返答した。既に首相は動き始めていた。
評価と批判
 1期での退任となる前田氏は2020年1月に就任後、NHKの業務と受信料、ガバナンス(組織統治)の「三位一体」改革に取り組んできた。その改革路線を評価する声がある一方、強引とも言える手法に内部から批判も出ていた。
 前田氏は受信料契約のための営業活動について、従来の戸別訪問から転換する方針を表明。経費削減には一定の効果があったが、契約件数自体は伸び悩んだ。実際、22年度の中間決算での受信料収入は、前年同期比で37億円減となった。
 番組制作のコストカットも打ち出し、女性や若手を積極登用するなど人事制度にも手を付けたが、あるNHK職員は「能力に応じた人事になっておらず、現場が混乱している」と漏らす。
「是々非々で」
 前田氏は今年10月、受信料を地上契約と衛星契約ともに1割程度値下げすると明言。ある経営委員は「前田氏は誰も手を付けなかった改革をやった。抵抗勢力もあるが経営者は乗り越えないといけない」と評価。総務省幹部は「稲葉氏にも改革を進めてもらうのが国民のためだ」と路線継承を望む。
 経営委員会の議決を経たものの、官邸の意向が色濃く反映された会長人事。視聴者の受信料に支えられるNHKにとって「政治との距離」は常に問われる課題だ。立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は「稲葉氏は日銀出身で、政権と適切な距離が取れるのか疑問だ。放送業界との接点も見られず、ジャーナリズムに理解があるのかも不安。政治に唯々諾々と従うのではなく、是々非々の姿勢で臨んでほしい」と注文を付けた。

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