
9月に入り、富士山の夏山シーズンが間もなく終了します。富士山では2026年の夏山シーズンも山岳遭難事故が相次いでいて、その中でも目立つのが高齢者の遭難です。
7月17日には99歳の女性が転んでけがをしたほか、その3日後には84歳の男性が疲労により動けなくなり、それぞれ警察に救助されました。
前年のデータで、静岡県警の「令和7年中における山岳遭難の概況」によりますと、2025年の富士山の静岡県側の遭難者数は45人に上りました。
年代別に見ると、60代が10人、70代が1人、80歳以上が3人となっており、60歳以上の高齢者が計14人と全体の約3割(31.1%)を占めています。
富士山に2250回以上登頂し、「ミスター富士山」の異名を持つ實川欣伸さん(83)は2026年も富士山に登っている大ベテラン。昨今増加する「高齢者の遭難」について聞きました。
■「山を恐れ敬う」姿勢がない一番の問題は「過信」
<實川欣伸さん(83)>
「要するに、危険予知ができていないんですよね。日本全国の山で遭難するほとんどの場合は、滑落や「つまずき」が多いです。要するに、畏敬の念を持って登っていないんですよ。『山を恐れ敬う』という姿勢がないんです」
静岡県警のデータでも、2025年中の富士山の遭難理由として「転倒」が最多の15人(33.3%)を占めています。そのうち11人が「下山中」に発生。バランスを崩したり、スリップしたりするケースが多いといいます。
<實川欣伸さん(83)>
「己を知り、相手を知る。要するに『山を知る』ということです。やはり山によって状況は全然違いますよね。そういうことを全く知らずに、ほとんどの人が観光気分で来て、『登りたいから』とただ登ってしまう。自信過剰な人が遭難するのだと思います。どちらかと言えば、自分を過小評価できる人は慎重ですから」
■天候は「登る前」に確認する
天候の急変など、自然のリスクにどう備えるべきでしょうか。實川さんは次のように語ります。
<實川欣伸さん(83)>
「確かに最近の天候は急変します。ただ、慎重に向き合うならば、富士山であれ、登り慣れた山であれ、登るごとに一応天候を確認します。『この先、天候が変わらないか』『良く変わるか、悪く変わるか』を確認してから登るわけです。しかし、皆さんそこまで注意して登っていないと思うんですよね。そこに一番の問題があります。今ならスマートフォンなどの文明の利器を活用して登れば、100%とは言えないまでも、9割方は天候や滑落による事故を防げると思う」
静岡県警も、天候や体調などに少しでも不安を感じた場合には「勇気ある下山」「登山自体の中止」を呼びかけています。
登山計画書を作成し、所要時間や危険箇所を事前に把握することが遭難防止の重要なポイントとなります。
また、可能な限りスマートフォンと予備のモバイルバッテリーを携帯し、登山用GPSアプリを活用することを推奨しています。
■「あの頃はこうやって登れた」が命取りに
實川さんでさえ、年齢による体力の変化は避けられないといいます。
<實川欣伸さん(83)>
「例えば70歳前後の頃は、遅くとも登りに3時間半、下りに2時間ほどあれば往復できたわけです。歩き続けていれば体温も下がりませんし、少し寒いと思えばカッパを着れば防寒になりました。しかし今は、正直言って登りに10時間以上、下りに5時間かかるようなペースで登っています」
70歳の頃と83歳の今。
同じ山に登っていても、必要な時間は大きく変わります。
だからこそ、實川さんが繰り返すのが「己を知る」という言葉です。
<實川欣伸さん(83)>
「昔の記憶のまま、『あの頃はこうやって登れた』と、自分の力を過信して登ってしまう。そこに問題があります。年を取ると、体力や体温が戻る時間が全然違いますから。若い頃なら少し早足で歩けば体も温まりますが、年を取ればそうはいきません。焦って行動すれば滑落や遭難につながっていくわけですから」
2025年の富士山では「病気」による遭難も17人発生し、高山病や低体温症といった高所特有のリスクが目立ちました。
■「自分にその山を登る力があるのか」
安全な登山のために何が必要でしょうか。實川さんは力強く語りました。
<實川欣伸さん(83)>
「やっぱり『登る山を知る』ということではないでしょうか。自分にはその山に登るだけの体力や技術、知識があるのか。そのコースや所要時間がどれくらいかかるのかを把握することが一番大切だと思います」
「山を知る」だけではなく、「自分を知る」。
その両方があって初めて、安全な登山につながります。
「自分には本当に登れるのか」―
山に向かう前に、まず自分自身に問いかけること。
それが、山を「恐れ敬う」ことの第一歩なのかもしれません。













































































