
ネットの投稿に対するコメントを読んでいると、ある傾向に気付きます。「それちゃうやろ」「せやな」「知らんけど」――。関西弁のコメントがあちこちに登場します。ほとんどのコメントが関西弁で埋め尽くされていることもあるほどです。
関西2府4県の人口は約2011万人。全国の16%ほどです(総務省人口推計)。それにしては、コメント欄の関西弁は多すぎるように見えます。関西の人が特別、書き込みに熱心なのでしょうか――。もちろん違います。書いている人の多くは関西出身ではありません。いわゆる「ニセ関西弁」で書き込んでいるのです。
なぜなのでしょうか。コメント欄の関西弁を直接数えた調査はありませんが、使い手の動機を知る手がかりになる研究があります。結果は、SNSで使われるニセ方言の8〜9割もが関西弁。しかも、使う理由の1位は、相手への優しさともいえるものでした。

ニセ方言=ほぼ関西弁だった
社会言語学が専門の三宅和子・東洋大学名誉教授が、大学生57人を対象に行った調査があります(「SNSにおける方言使用の実態─エセ方言はいつ、誰に使うのか─」2018年)。
調査が対象としたのは、LINEなど知り合いどうしの個人間のやり取りです。ニセ方言混じりのメッセージを受け取った経験のある学生に、その種類を尋ねたところ、関西弁が38件(84.4%)と圧倒的多数。博多弁、九州弁、広島弁などはそれぞれ1〜3件にとどまりました。
※論文では「エセ方言」と表記されていますが、本記事では「ニセ方言」とします。
理由の1位は「親しい感じがするから」
ニセ方言をSNSで使う理由(複数回答)は、
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親しい感じがするから(70.3%)
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雰囲気がやわらかくなるから(67.6%)
の2つが突出しています。つまり、多くの人は「関西弁の漫才師のように振る舞う」ためではなく、その場の雰囲気を和らげ、相手との間に親しさやノリをつくるために使っていたのです。例えば、「それは違います」と書くと、少し冷たく感じませんか。「それちゃうやろ」なら、軽いツッコミの印象になるという具合です。

対面よりSNSでよく使われる
調査では、SNS上でニセ方言を使う人は9割以上。一方、対面や電話では8割でした。表情や声のトーンが伝わらないSNSの方が、ニセ方言が使われやすい傾向があります。「雰囲気がやわらかくなる」といった効果も、SNS上の方が強く感じられていました。ニセ方言混じりのメッセージをもらった側も、親しみや楽しさを感じるという回答が多数で、不快感や違和感を挙げた人は少数でした。
ただし「関西人には使わない」が6割
一方で、6割の人が「ニセ方言をその方言の出身者には使わない」と回答しています。理由は、相手が不快に感じるだろうという配慮です。この配慮は的外れではありません。調査対象のうち方言を話す9人に、自分の方言に似たニセ方言を使われたときの印象を聞くと、最も多かったのは「不快だ」の3件でした(「楽しい」「親しみを感じる」は各2件)。
きっかけは「芸能人のまね」
調査の自由回答には、関西の芸能人のまねをしているうちに、書き言葉でも使うのが癖になった、という声がありました。テレビのお笑いで覚えた言葉が、SNSで文字になって広がった形です。ネット掲示板・2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の実況板で使われてきた「なんJ語」として使っている、という回答もありました。
また、ニセ方言を使う人のうち5割弱は無意識に使っており、論文はニセ方言の慣用化が進んでいると指摘しています。三宅名誉教授によると、「めちゃ」「めちゃくちゃ」のように全国に広まり、本人がもう関西弁と思っていない表現がある一方、「〜やけど」「行けへんわ」のような関西色の強い表現は意識して使われ、場の雰囲気やノリの良い会話のリズムをつくっているといいます。
「言葉の乱れ」ではなく「言語資源」
こうした現象には、すでに名前も付いています。田中ゆかり・日本大学教授は、『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店)のなかで方言を取り替え、着脱するように使う現象を「方言コスプレ」と名付けました。三宅名誉教授は、LINEのような個人どうしのやり取りにおいて、こうした「ニセ方言」が対人関係に配慮し、人間関係を円滑に保つ「言語資源」として機能しているとみています。日本語の体系からはみ出した「余計者」ではなく、現代の若者が持つ言語レパートリーの一部だという位置づけです。
LINEとXでは、働きが違う
ただし三宅名誉教授は知り合いどうしでやり取りするLINEと、知らない大勢に投稿が広がっていくXのようなSNSは、分けて考える必要があると指摘します。
LINEなど知り合いどうしのやり取りでは、ニセ方言は親しさを伝え、コミュニケーションを円滑にする道具として働きます。今回の調査が示したのは、この場面です。
一方、Xのように公開性が強い場へのリプライについては(知り合いどうしのやり取りも混ざるため一概には言えないが)こう説明します。公開の場だからこそ、その場の雰囲気や自分の主張を和らげる必要が生まれる。ニセ方言を自由に使う者どうしという仲間意識でつながれば、話題も弾む。そして、主張のぶつかり合いが危険なやり取りへ発展していくのを避ける――。そうした機能が出てくる可能性がニセ関西弁にはある、というのです。
夏休み、SNSを使うみなさんへ
この調査から見えてきたのは、ニセ関西弁を使う最大の理由が、相手への「気遣い」だということです。文字だけのやり取りは、思っているより冷たく伝わったり、冗談が伝わらなかったりします。
総務省も啓発サイト「上手にネットと付き合おう!」で、わずかな表現の違いで勘違いが起きるとして、投稿の速さより誤解されない表現を心がけるよう呼びかけています。対策の1つ目に挙げられているのは、絵文字やスタンプで気持ちを正しく伝えること。ニセ関西弁が担ってきた、場をやわらげる働きと通じるものがあります。SNSを使う時間が長くなる夏休み、送信ボタンを押す前に、自分の投稿が相手にどう伝わるかを一度考えてみましょう。














































































