「普通に負けた」キャプテン藤原健介が見つめるジュビロ磐田の現在地。逆境をはね返すチームになるために

サッカージャーナリスト河治良幸

 開幕2試合で勝利なし。J2優勝とJ1昇格を目標に掲げるジュビロ磐田にとって、もちろん望んでいたスタートではない。ホーム開幕のブラウブリッツ秋田戦は1−1。続く8月16日のJ2第2節では、5万3973人が集まったMUFGスタジアムで昇格争いのライバルになり得る横浜FCに1−3で敗れた。

 その試合後、キャプテンの藤原健介が発した言葉が印象的だった。

「普通に負けたと思いますし、ああいう逆境を跳ね返すぐらいのチームじゃないと、J1でも戦っていけないと思うので。今は自分たちにベクトルを向けて、来週に向けて、チーム全員でもう一回、一からやっていかないといけないかなと思います」

 横浜FC戦では、磐田にとって納得し難い判定があった。後半6分の2失点目につながったPK判定や、終盤に藤原の直接FKがゴールラインを越えたように見えながら得点と認められなかった場面も含め、試合の流れに影響した部分は否定できない。

 それでも藤原は、そこに敗戦の理由を求めなかった。むしろ「普通に負けた」と言い切ったことに、キャプテンとして現在のチームをどう見ているのかが表れている。

「自分たちで試合を壊した」

 実際、ジャッジだけに敗因を求めてしまえば、横浜FC戦で浮かび上がった本質的な課題を見失う。

 百年構想リーグから須藤大輔監督のもとでチーム作りを続けてきた横浜FCは、3バックからのビルドアップや前線の配置、磐田のプレスを外した後の前進が整理されていた。対する磐田は、秋葉忠宏監督が掲げる「超攻撃的、超アグレッシブ」なスタイルを十分に表現できなかった。

 特に前半は、横浜FCの3バックを中心としたボール保持に対してプレスの基準点を定め切れず、相手の左サイドに複数の選手が絡む攻撃にも後手を踏んだ。右サイドバックで先発した川﨑一輝も相手の複数の選手を意識するあまり「守備をメインに考えてしまった」と振り返り、1トップの太田龍之介も「プレッシングの部分は全体として揃ってなかった」と認めている。

 つまり、判定によってゲームが難しくなる以前から、磐田は自分たちが目指す展開に持ち込めていなかった。

 そして、藤原がより問題視したのが、その後だった。1点を追って迎えた後半6分にPKからルキアンに追加点を許す。そこからチームを立て直したかったが、同17分には島村拓弥に3点目を奪われた。

「崩れない、自分たちが崩れないようにっていうのは意識したんですけど、続けて2失点してしまって、自分たちであの試合を壊したっていうふうに思いますし、甘さが出たかなというふうに思います」

 不利な状況になった時にどう振る舞うのか。ここに現在の磐田の課題がある。

 レフェリング、相手の出方、試合展開など、自分たちではコントロールできない出来事はシーズンを通して必ず起きる。それでも試合を壊さず、次の1点をどちらが取るかという勝負へ持ち込まなければならない。藤原が「ああいう逆境を跳ね返すぐらいのチームじゃないと、J1でも戦っていけない」と語ったのも、そのためだろう。

「戦う」だけでは解決できない

 もちろん、必要なのは精神的な強さだけではない。秋葉監督も横浜FC戦の前半について「前の圧力が全くなかった」と厳しく指摘し、ハーフタイムには「トップ、両ワイド、もっと迫力を持って行け」と選手たちに強く要求した。球際で戦う。切り替える。走る。前から相手を追い込む。百年構想リーグから秋葉体制になり、そうしたベースの部分は確実に引き上げられている。

 ただ、それはJ2を勝ち抜くための大前提でもある。対戦相手も当然、磐田を分析してくる。どこからビルドアップするのか。磐田のプレスをどう外すのか。どのスペースを使うのか。横浜FCも明確な準備をして国立のピッチに立っていた。

 そこで必要になるのが、「戦う」という共通認識からもう一段階踏み込んだチームとしての整理だ。3バックに誰が出るのか。相手のシャドーを誰が捕まえるのか。最初のプレスを外された時にどうするのか。奪ったボールをすぐ前へ運ぶのか、一度保持して相手を動かすのか。

 こうした問題は、選手のメンタリティ一つで解決するものではない。トレーニングからの積み上げ、ミーティング、日頃からの選手間のコミュニケーションを通じて共通理解を深め、試合で起こり得るイレギュラーの割合を減らしていく必要がある。それは守備だけでなく、ボールを奪った後の攻撃やリスタートを含めたすべての局面に言える。

 そして、そこで中心的な役割を担う一人が、中盤に立つ藤原だ。

「点を取れないなら取らせない」

 課題は守備だけではない。秋田戦、横浜FC戦ともに磐田の得点は1。秋葉監督が目指す攻撃的なスタイルを考えれば、ここも改善が必要になる。藤原自身も「最後のクオリティ」を課題として挙げている。

 横浜FC戦では後半から乾貴士、為田大貴が入り、さらにジョアン・ヴィクトル、桑原航太らを投入。相手が10人となった終盤には大きく押し込んだ。しかし、奪ったのはジョアン・ヴィクトルのPKによる1点だけだった。

 攻撃で仕留め切れない。そこで失点まで重なれば、当然ながら勝利からは遠ざかる。

「点を取れないなら取らせないというところは大事かなと思います」

 藤原のこの言葉は、長いリーグ戦を戦う上で重要な意味を持つ。

 38試合すべてで理想的なサッカーができるわけではない。攻撃が機能しない日もあれば、相手の対策に苦しむ試合もある。そういう日に0−0で耐えられるか。先制されても0−1のまま踏みとどまり、終盤の1点で勝ち点を持ち帰れるか。優勝を目指すのであれば、圧倒して勝つ力と同時に、「うまくいかない試合を落とさない力」も必要になる。

キャプテンだから一人で背負うのではない

 藤原にとって、今季は自身の立場も大きく変わった。ジュビロのアカデミーからトップチームへ昇格し、プロ4年目。今季は秋葉監督からキャプテンを託された。プレシーズンの静岡ダービー後には、キャプテンマークを巻くことについて「自分が引っ張って、自分が好きなクラブをもう一度J1で輝かせるのは本当に光栄」と語っていた。

 その責任を本格的に背負い始めた直後に、チームは開幕2試合未勝利となった。だからこそ、苦しい時にキャプテンとして何をするのかが問われる。ところが、特別なリーダーシップが必要なのではないかと問われた藤原の答えは実にシンプルだった。

「いや、特にないです。選手全員で戦っていきます」

 キャプテン一人が声を張り上げてチームを変えるのではない。一人ひとりが自分の役割を理解し、ピッチ上で互いに要求し合い、全員で問題を解決していく。藤原自身もその中の一人として責任を負う。

「やるべきことをやれば勝てると思うので、もう一回、練習からチーム全員でやっていきたいなと思います」

 だからこそ、この言葉にも意味がある。

 今の磐田に必要なのは、何かを劇的に変えることではないのかもしれない。秋葉監督が求めるアグレッシブさを90分間表現する。そのための戦術的な共通理解を深める。相手の狙いに対してピッチ上で修正する。難しい時間帯には耐える。そして、ゴール前では仕留める。一つひとつの精度を上げなければならない。

 開幕2試合で勝利がないからといって、悲観する段階ではない。ただし、J2優勝を本気で目指すのであれば、「まだ2試合」という言葉で済ませるべきでもないだろう。横浜FC戦では、現時点における両チームの完成度の差が結果だけでなく内容にも表れた。そこを認め、自分たちの課題として受け止めなければ、その差を埋めることもできない。だから藤原は、判定にも、誰か一人にも矢印を向けなかった。

「普通に負けた」

 そして、

「自分たちであの試合を壊した」

 厳しい言葉を自分たち自身に向けられるのは、キャプテンとして一つの強さだろう。

 次節はホーム・ヤマハスタジアムでの徳島ヴォルティス戦。藤原健介を中心に、横浜FC戦で見つかった課題をどこまでチーム全体の変化へつなげられるのか。J2優勝、そしてその先のJ1を本気で見据えるジュビロにとって、「自分たちに向けた矢印」の先に何を作り上げるかが問われている。
(文:サッカージャーナリスト河治良幸)
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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