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暮らしの中の放射線

内山 絵里加
岡田 往子

みなさんは「放射線」というと、何を想像しますか?
放射線は、実は私たちの身のまわりに常にあって、暮らしの中にも使われているものです。
放射線について、正しい知識を身につけて、ご自身で考え判断する材料にしていただければと思います。

東京都市大学原子力研究所・客員准教授 岡田 往子(おかだ ゆきこ)さんに伺います。

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  • #01 2022年10月26日放送 第1回 「放射線」ってどんなもの?
    内山アナ

    3回のシリーズで「暮らしの中の放射線」というテーマで、放射線について学んでいきましょう。

    岡田さんは、東京都市大学原子力研究所では、どんな研究をされているのですか?

    岡田さん

    放射線を使って、物に含まれている微量な物質を分析しています。例えば、皆さんの身近なパソコンでデータを記憶する部分は、とても高純度なケイ素という物質でできていますが、その中にも極々微量に不純物が入っています。その不純物を放射線を使って分析していました。現在は、湖の水に含まれている微量な物質や放射性物質の分析をしています。

    内山アナ

    湖の中にも含まれているんですね。岡田さんは、放射線について正しい知識を知ってほしいという思いから、セミナーなどの活動もされていると伺っています。どんなきっかけからなのでしょうか?

    岡田さん

    私自身はもともと生物分野の出身なのです。ところが大学に入ってみると、物理の知識を結構使うのです。そんな経験から、子どもたちには早いうちから物理の知識を、例えば、光、音、波、電気、力などについて、楽しく学んでほしいと思いました。放射線は物理のことを学ぶと、分かってくることが多いのです。子育てをしていると、子どもの吸収力はすごいと感じました。子どもの時期に、放射線の実験を通して、物理の楽しさを知ってもらいたいと思ったのがきっかけです。

    内山アナ

    まずは、放射線について教えていただこうと思います。「放射線」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、改めて、放射線とはどういうものなのでしょうか。

    岡田さん

    まず、この世界のあらゆる物質(石とか木とか水とか)は何でできているでしょうか…ずっと細かくしていくと、たどり着くのが元素という小さな単位です。元素周期表の順番を覚えた記憶ありますか?「スイヘリーベボクのふね・・・」

    内山アナ

    ええ、覚えています。でも「スイヘリーベボクのふね・・・」までしか思い出せないです。覚えた記憶はあります。

    岡田さん

    水素から始まってウランまで、地球上にはおよそ90の元素があります。それらの元素の中には不安定な元素の仲間がいます。不安定な状態の元素が安定な状態になるために出すのが「放射線」です。

    内山アナ

    えっ!そうなんですか?放射線は元素からでてくるのですね。

    岡田さん

    そうなんですよ。不安定な元素が安定しようとする時に、出てくるのが「放射線」なのです。

    お風呂で例えると、熱いお湯がまわりの温度に近づこうと湯気を出して冷めていきますよね。熱いお湯が不安定な元素と考えると、湯気を出して冷めていくように、放射線を出して、元素が安定な状態になろうとするのです。

    内山アナ

    なるほど!そういう性質を持った元素があるんですね!

    岡田さん

    宇宙が誕生し、次々と元素が出来上がっていくのですが、その時の元素は不安定な状態でした。それらが放射線を出して安定な状態になっていきました。そのうち、現在の地球上には不安定な元素が10個以上存在しています。地球はそういった元素が集まってできているのですよ。

    内山さん、実際に放射線をご覧になったことはありますか?

    内山アナ

    えっ!「放射線」は目に見えないですよね?

    岡田さん

    そうです。放射線は目には見えませんが、放射線が飛んでいることを確かめることができる「霧箱」という装置を持って来ました。

    内山アナ

    囲碁の台のような大きさの箱ですね。ガラス張りになっていて、電気がついています。岡田さん、この箱はなんですか?

    岡田さん

    この箱の中には、アルコールの気体がいっぱい入っています。そして、この箱の下にはドライアイスが置いてあり、箱の中を冷やしています。箱の中を見てください。

    内山アナ

    箱の中をのぞいてみますと、流れ星みたいにピューッと白い線が通るのが見えました。

    岡田さん

    これは、放射線の通った跡です。アルコールの気体は、すごく冷やされていて、放射線がその中を通ると、その通り道に沿って、飛行機雲のようなアルコールの霧が見えるのです。

    内山アナ

    目には見えないけれど、放射線が空気中を飛んでいるんですね。

    岡田さん

    スタジオ内の空気中にも放射線があります。これは、空気中のラドンという物質が放射線を出しているのですよ。私たちはいつも自然界からの放射線を受けているのです。

    内山アナ

    放射線って私たちの身のまわりにあるんですね。岡田さん、今回は知らなかったことを知ることができました!

    次回は、「空気中以外の放射線」についてお話を伺います。

  • #02 2022年11月2日放送 第2回 「放射線」ってどこにある?
    内山アナ

    「暮らしの中の放射線」2回目の今回は、空気中以外の放射線についてです。東京都市大学原子力研究所・客員准教授 岡田 往子(おかだ ゆきこ)さんに伺います。

    内山アナ

    岡田さんは、東京都市大学原子力研究所で湖の水に含まれている微量な物質や放射性物質の分析をしています。また、放射線について正しい知識を持ってほしいという思いから、セミナーで放射線についてお話しする活動もされています。

    前回は「私たちの身の回りに放射線がある」ということを教えていただきましたが、空気中以外からも放射線を受けているのですか?

    岡田さん

    そうなんです。私たちは「宇宙から、大地から、空気から、そして食べ物から」と、毎日の暮らしの中で自然界のさまざまなところから放射線を受けています。

    内山アナ

    そうなると、私たちが自然界から受ける放射線は ゼロではないということですね?

    岡田さん

    そうなんです。ゼロではないのです。私たちは自然界から放射線を受けて生活している、と言いましたが、日本では1年間に平均で『2.1mSv(ミリシーベルト)』の放射線を受けて生活しています。

    内山アナ

    Sv(シーベルト)とはどんな単位なんですか?

    岡田さん

    Sv(シーベルト)とは、私たち人間が放射線を受けたとき、身体にどのくらいの影響が出るかを表す単位です。mSv(ミリシーベルト)はSvの1/1000です。1年間に『2.1mSv(ミリシーベルト)』という放射線量では健康への影響を心配する必要のないレベルです。

    内山アナ

    「放射線を受けると、がんになる」と聞いたりしますが、これはどうなんですか?

    岡田さん

    放射線は一度に沢山の量を受けると危険です。一度に100mSv以上放射線を受けるとガンになる確率が増えることが分かっています。

    内山アナ

    100mSvというと、どのくらいの量なのでしょうか?

    岡田さん

    先ほど、自然界から受ける放射線の量は年間2.1mSvというお話しをしましたが、100mSvというと、50年分を一度に受けるということです。しかし、100mSv未満の量で、少しずつ放射線を受けた場合にガンになるかというと、データはないのです。私たちが、ほかの要因でガンになるのと区別がつかないということです。

    内山アナ

    ほかの要因といいますと?

    岡田さん

    塩分のとり過ぎや偏食など、食生活の乱れや運動不足など、個人の生活習慣ですね。

    内山アナ

    そうなんですね。身近にある放射線を利用するものとしては、自然界以外のもので「レントゲン」があります。レントゲンでは、どのくらいの放射線を受けているのでしょうか。

    岡田さん

    レントゲン写真の種類にもよります。胸部レントゲン写真を1回とると胸に0.05mSv受けることになります。これは自然界から受ける放射線、日本平均の2.1mSvからすると、約1/40ですね。

    これをどうとらえるかですね。私たちが放射線を使って検査し、健康であることがわかったり、早い時期に病気を知ったりすることを望むのか、ごく少量の放射線を受けることも嫌だ、と思うかどうかだと思いますよ。

    内山アナ

    正確な情報を知って、私たち自身で判断することなんですね。

    岡田さん

    私たちの身のまわりには、自然界からの放射線と、自然界以外で受ける放射線があります。自然界からの放射線の量を、大きく超えなければ身体への影響はないと、たくさんの研究から判断しています。医療に関しても同じで、研究者や技術者が積み重ねた研究から、放射線被ばくをできるだけ抑える技術を発展させ、身体への影響がないレベルとして放射線量を判断しています。

    内山アナ

    放射線は、自然界から受けるだけでなく、身近なところで使われているんですね。

    岡田さん

    そうですね。放射線の利用で皆さんがよく知っているのは、医療ですね。レントゲン写真の話がでてきましたが、病気の診断やガン治療にも使われています。私たちの身体の健康を守るため、病気を早期に発見するために欠かせない技術ですね。

    内山アナ

    今回も知らない事ばかりでした。3回目は「放射線と食べ物」について教えてもらいます。岡田さん、ありがとうございました!

  • #03 2022年11月9日放送 第3回 食べ物から「放射線」?
    内山アナ

    テーマは「暮らしの中の放射線」。最終回となる3回目です。引き続き、東京都市大学原子力研究所・客員准教授 岡田 往子(おかだ ゆきこ)さんに伺います。岡田さん、よろしくお願いします!

    岡田さん

    よろしくお願いします!

    内山アナ

    岡田さんは、東京都市大学原子力研究所で湖の水に含まれている微量な物質や放射性物質の分析をしています。また、放射線について正しい知識を持ってほしいという思いから、セミナーで放射線についてお話しする活動もされています。岡田さん、今回はどんな事を教えていただけますか?

    岡田さん

    まずは、内山さんにクイズです!私たちは「宇宙から」「大地から」「空気から」「食べ物から」放射線を受けているのですが、この4つのうち、自然界から受ける放射線の中で、日本で最も割合が大きいのはどれでしょうか?

    内山アナ

    なんとなく、イメージ的に宇宙からですか?

    岡田さん

    残念…。正解は、食べ物です!日本では「食べ物から」が、一番多いのですよ。食べ物からは0.99mSv(ミリシーベルト)の放射線を受けています。前回お話したように、1年間で平均2.1mSv(ミリシーベルト)の放射線を自然界から受けています。その半分くらいは食べ物からということになりますね。 Sv(シーベルト)とは、私たち人間が放射線を受けたとき、身体にどのくらいの影響が出るのかを表す単位になります。mSv(ミリシーベルト)はSvの1/1000です。

    内山アナ

    これを聞いて不安になった方もいると思いますが、食べ物にはどのような放射性物質が含まれているんですか?

    岡田さん

    食べ物のなかで放射線を出すものでトップに挙げられるのはカリウムです。このカリウム、すべての食品に含まれています。カリウムと聞くと皆さんはどこかで聞いたことがあると思うのですがどうでしょうか?

    内山アナ

    聞いたことがあるような気がしますが…。

    岡田さん

    家庭菜園などに使うカリ肥料にはカリウムが入っています。カリウムは植物も動物も私たちも必要な栄養素です。このカリウムという元素は3種類の仲間がいて、その中のカリウム40が放射線を出します。私たちも植物も動物も、カリウム40だけを排除して栄養素にすることができないのです。そのため、すべてのカリウムを栄養素として身体のなかで使い、排出、取り入れて使い、排出をくりかえし、体の中でほぼ一定の割合に保たれているのです。

    内山アナ

    2011年の福島第一原子力発電所の事故以来、食品に関する放射性物質への関心が高まりましたが、日本の食品に含まれる放射性物質の基準はあるんですか?

    岡田さん

    2011年東京電力福島第一原子力発電所の事故で、拡散した放射性セシウムのことですね。それについては、事故以降、基準ができました。この基準値はEUやアメリカと比べても厳しい値で、日本では基準値を超える農産物は流通していません。

    内山アナ

    福島の食品については、どうなのでしょうか?

    岡田さん

    福島県では事故後、農産物や海産物への放射性セシウムの検査体制を整え、さらに農家の努力により、今では山奥でとれる山菜などのほんの一部を除き、放射性セシウムの基準値を下回っています。基準値を超える農産物や海産物は流通していないんですよ。

    内山アナ

    そうなんですね。一番放射線を受けているのが食べ物ということは驚きでした。岡田さんは、福島でも活動をしているんですよね?

    岡田さん

    2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、福島県にはよく通いました。JA福島の皆さんと一緒に、親子向けの食と放射線のバスツアーもしましたね。放射線について知り、福島産の農産物の検査を実際に見学する、そんな企画で5年間くらいしました。

    内山アナ

    地元の子供たちとも一緒に活動されているんですね。

    岡田さん

    福島ではたくさんの小学校で「放射線教室」もしました。学校の先生方もいきなり放射線教育をすることになって大変でした。私はそこでたくさんの子どもたちと先生と出会いました。

    内山アナ

    放射線に興味を持った子どもたちもたくさんいたでしょうね。

    岡田さん

    そうなんですよ!その中の男の子が2020年に私の大学の原子力安全工学科に入学したんですよ。驚きました。

    内山アナ

    それはびっくりですね!

    さて、ここまで自然界から受ける放射線について、お話しを伺ってきました。放射線は自然界から受ける以外には、医療で利用されていると前回お話しを伺いましたが、その他にはどんなところに使われているんですか?

    岡田さん

    いろいろな産業でも使われています。例えば、紙オムツ。紙オムツで使われている水分をいっぱい吸収する材料は放射線の力を利用して作られています。ここで注意しなければならないのは、放射線の力を使っているだけで、できた製品から放射線が出るということではありません。

    火に強い防火カーテンや自動車などで使われている熱に強いチューブなどもありますね。新しい素材はたくさん研究され、製品になっています。
    放射線の通り抜ける力を利用しているものとして一番身近なのは、空港の手荷物検査ですね。珍しいところでは、製鉄所の鋼板、鉄の板を作る工程ではなくてはならないものです。鉄は熱いうちに打て、ではないですが、灼熱の鉄を薄くしていくのでその厚みを測定するのに放射線を使っています。

    内山アナ

    放射線は私たちの暮らしの中で、いろいろなことに利用されているものなんですね。

    岡田さん

    放射線とは、身近にあるもので正しく知れば恐れるものではないのです。

    内山アナ

    岡田さん、3回にわたり、ためになるお話しをありがとうございました!

PROFILE

  • 岡田 往子

    東京都市大学理工学部原子力研究所 客員准教授。
    原子力委員会委員(非常勤)。
    日本大学農獣医学部水産学科卒業。
    千葉大学博士(理学)修得。高純度材料や考古学資料の微量元素の分析や、福島支援(20km圏内の放射線物質測定、放射線教育など)、群馬県赤城大沼周辺の放射線測定にも力を注いでいる。

  • 内山 絵里加

    浜松市出身のフリーアナウンサー。
    SBSラジオで「ふくわうち」(OA13-16時)の水曜・木曜日のパーソナリティーを担当。
    何事にもまっすぐに取り組む姿勢とフレッシュさ、時にやさしくも鋭いワードセンスで多くの人を魅了します。
    趣味は、動物観察・歴史・おいしいものを食べること。