街全体がテストコース
ウーブン・シティを訪れたのは、裾野高校ビジネス系列2年の大塚凛桜(りお)さん、青木咲橙(さくと)さん、勝又琉華(るか)さん、鈴木あかりさんの4人です。裾野市やその周辺に住む近隣住民として、ウーブン・シティが完成していく様子をずっと見守っていたそう。最寄りのJR岩波駅からウーブン・シティにつながる歩道橋を通ってきた生徒たちは、未来のモビリティの実証都市に初めて立ち入りました。
「ウーブン・シティは夢や魔法の都市なんて思われがちですが、実は大きなテストコースなんです」と話すのは、ウーブン・バイ・トヨタ広報担当の小野玲実さん。クルマだけではなく人々の生活全てに関わるあらゆる「モビリティ」をはじめ、サービスや商品の運用を試して社会に届けるための実証都市だと強調します。「インベンター」と呼ばれる実証を行う企業や個人の開発者がさまざまなアイデアを試し、「ウィーバーズ」と呼ばれる住民や来訪者のフィードバックを取り入れながら、未来の技術を生み出し検証していくのです。完成した第1期区画(フェーズ1)には居住棟を含む建物14棟が立地していて、今はトヨタ関係者が入居していますが将来的には約300人が居住する予定です。
この土地にはもともと、1967年に稼働したトヨタ自動車東日本東富士工場がありました。累計7000人が働き、最高級車のセンチュリーをはじめ約752万台を生産してきましたが、東日本大震災からの東北の復興支援に向け生産を集約するため、工場の閉鎖が決定。工場の閉鎖に際し、一緒に東北に行くことができない仲間を思い、この地がどうなるかと尋ねた従業員に、当時の豊田章男社長は「この地域とともに成長してきた歴史を未来につなげたい」と、この地にウーブン・シティ建設の構想を話しました。
来訪者にウーブン・シティについて説明するウェルカムセンターには、東富士工場にあった枯山水を移設したオブジェがあり、当時の面影を残しています。また現在工事中の敷地内には、製品やサービスの開発・実証の拠点となる「インベンターガレージ」を準備中。この建屋は東富士工場のプレス工場をリノベーションしているそうです。
同センターの最上階には、トヨタグループ創業者の豊田佐吉が1890年、母親の機織り作業を楽にしたい一心で発明した木製人力織機を復元したものが設置されています。小野さんは「創業者の『自分以外の誰かのために』という気持ちがトヨタの源流です。ウーブン・シティも、ここに関わる人たちもこの心を大事にしています」と、織機をこの場所に設置した意義を説明しました。ウーブン・シティに込められた想いや目的を学んだ生徒たちは「ウーブン(織り込まれた)という言葉は、この機織り機が由来なんですね」「この地にあった東富士工場の『資産』が、ウーブン・シティのいたるところに使われているんだ」と感慨深げでした。
インフラと連携、実証
ウェルカムセンターから、エリア内の中心に向かった生徒たち。インベンターやウィーバーズが集う中央広場の「コートヤード」と周辺を囲むように立地する住居棟を見学した後、散策中の生徒が見つけたのは「3本の道」です。「歩行者専用の道」「歩行者とパーソナルモビリティが共存する道」「モビリティ専用の道」の3種類に分かれています。道が分かれていることで、多様なモビリティと歩行者が安全に共存でき、自動運転などの次世代技術の実証実験を効率的に行えるそうです。
そこには信号機も完備。高校生は歩行者用信号が常に「青色」であることに気づきました。ところがモビリティが交差点に近づいてきたら、誰かが操作したかのように信号が変わり、車両側が「青色」に。不思議に思う生徒たちの疑問に答えてくれたのは、信号などの制御システム・エンジニアの渡邊英さんです。エリア内の信号機はモビリティの接近をセンサーで確認していて、通過する時に信号をコントロールしているのです。これにより、通行人は信号に妨げられることなくスムーズに通行することができるといいます。モビリティに搭載したナビゲーションシステムの位置情報や街中に張り巡らされたセンサーなどから、将来的にはモビリティが減速しなくても通過できるような制御システムを開発しているそうです。
「このシステムが導入されたら、夜間や交通量の少ない場所で役立ちそう」「交通量の多い場所ではどう活用できるかな」と話し合う生徒たちに、「車両の全自動運転化とこの制御システムが社会に行き渡ったら、将来は人が見る『信号』というものはなくなるかもしれませんね」と渡邊さん。交通事故ゼロの社会実現へ、高校生は未来の可能性を感じていました。
未来の技術に可能性
高校生が最も楽しみにしていた一つに、トヨタが開発しているさまざまなサービスに活用できる電気自動車「e-Palette(イーパレット)」への試乗がありました。近づいてきたイーパレットに、「かわいい」と大喜びの生徒たち。箱型の大きなボディが近代的でどこか親しみやすく、エリア内を時速15キロで走ります。内部は一つの部屋のようで、「快適な乗り心地」「窓が広くて開放的」「振動が少ないから酔わなそう」と高校生は興奮気味でした。
ほかにも、電動キックボードのような3輪の特定小型原動機付自転車「Swake(スウェイク)」の見学もしました。先進モビリティシステムの開発に携わる天野浩之さんから説明を受け、スウェイクに乗せてもらった生徒は「坂道ばかりの裾野市では大活躍のモビリティになるはず。早く世に出てほしいです」と期待していました。
今まで遠い存在だったウーブン・シティ。今回の見学で生徒たちは「家族や友人、身の回りの人に実験都市の可能性を伝えたい」と意気込んでいました。2026年度以降は一般の来訪者の受け入れも始まります。未来を生み出す実証都市がより身近に感じていくことでしょう。
ウーブン・シティとは
トヨタ自動車が2020年末に閉鎖したトヨタ自動車東日本の東富士工場跡地で建設を進めている実証都市。異業種も含むトヨタグループ内外の企業などが参画し、住民の協力を得ながら実証実験を進めます。2021年から建設を開始し、今年9月25日から第1区画での実証実験が始まりました。最終的には総面積が東京ドーム6個分の約29万4000平方メートルになり、約2000人が生活する見通しです。
<生徒の感想>
大塚凛桜さん
近所に住んでいるので完成するのをずっと楽しみにしていました。見学後にわかったのは、ウーブン・シティは「常に新しい変化を求めてる、失敗しても良いまち」だということ。インベンターの皆さんは挑戦することを楽しんでいて、失敗を悪いものとせず改善に役立つものとして捉えて、次につなげている姿が印象的でした。見学を通して、私達の未来は便利になるだけではなく、人と人がつながることだと実感できました。
青木咲橙さん
ウーブン・シティには見たことのないモビリティがあふれていて、想像を上回るさまざまな技術がテストされていました。インベンターの方々がコミュニケーションを積極的にとっている姿を目の当たりにして、開発への本気度が伝わってきたし、世の中が良くなる技術が生まれる気配を感じました。交流施設「カケザン」や「ウーブン」などのネーミングに込められた意味や願いに直接触れたことで、この街のことをより深く理解できたと思います。
鈴木あかりさん
最も印象に残ったエリア内の交差点信号機は、私たちが普段暮らしている街の信号とは考え方が全く異なり、センサーで人やクルマをコントロールする歩行者目線の技術が搭載されていました。現在の社会ではできないことを実証している場所だからこその技術に触れられたことは、未来を考える上でとてもいい経験となりました。自動販売機もモビリティも、私達が住む街にあったらとても面白くなるだろうとワクワクします。
勝又琉華さん
以前あった東富士工場の面影がウーブン・シティ内の随所に残されていたところに、私たちの地元・裾野市への思いを感じることができ、別世界だと思っていた環境に心地よさを感じました。今回はインベンター側からの説明を受けましたが、今度はウィーバーズの皆さんのお話も聞いてみたいです。トヨタという会社だけでなく、多くの企業との「カケザン」によってこの街がこれからもどんどん発展していくことがとても楽しみです。