住宅ローンは「返せる額」をベースに

住宅ローンは「返せる額」をベースに

マイホームは人生最大の買い物と言われます。広い敷地の郊外一戸建てや市街地に建つタワーマンション、ゆとりある室内設計など夢は際限なく広がりますが、最優先の課題は購入資金の調達。金融機関などで住宅ローンを組み、購入するのが一般的です。低金利時代とはいえ、長期にわたる住宅ローンの返済と日々の暮らしの両立を検討することが欠かせません。静岡市在住のファイナンシャルプランナー安藤絵理さんに、住宅ローンを組む際の注意点や多額のローンを返済しながらも豊かに暮らすためのライフプランなどについて聞きました。 <企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局>

将来見据えた返済計画を

―最初にファイナンシャルプランナーの役割について、簡単にご説明をお願いします。
 「家計のホームドクター」とよく呼ばれます。家庭ごとのライフプランはそれぞれ違いますので、ご自分たちがしたいと思う生活を金銭面でどうやって実現すればいいのか、総合的なご相談に乗るのが私たちの仕事です。
―住宅ローンに関する相談は具体的にどのようなものが多いのでしょうか。
 大きく二つあります。一つは住宅購入計画がまだ漠然としていてこれから考えたいのだけれど、うちの家庭ならどれぐらいの金額のローンが組めるのかというご相談。もう一つはすでに購入する住宅物件がある程度決まっていて、金融機関やハウスメーカーから購入資金計画の提案を受けているが、実際にその通りのローンで大丈夫だろうかというご相談です。
 私たちは子供の教育費や老後のことも踏まえてトータルなローン返済について、お客さまからきめ細かく生活状態などをヒアリングしながら具体的にアドバイスします。一般的には30代後半から40代の会社員なら勤続年数が長ければ結構な金額のローンが組めます。ですが実際にそれが円滑に返済できるのか、子供の成長に伴って塾の費用や大学の進学費用が必要になるなど、5年後や10年後のこともよく考えた上で返済プランを決めなければなりません。給料についても勤務先の企業によって賃金ベースが異なりますし、最近は55歳ぐらいになると大幅に給料が減るケースもあり、「想定外だった」と話すお客さまもいます。将来困らないように先のこともよく考えてローンを組んでいただくのが大事です。

長所と短所の見極め必要

―住宅ローン選びのポイントについてもアドバイスをお願いします。
 住宅ローンには大きく分けて固定金利と変動金利の二つのタイプがあり、どちらを選べばいいのかよく尋ねられます。現在の金利情勢は、短期金利は低金利が続いていますが、長期金利は少しずつ上がってきているため、変動金利と固定金利の金利差に開きが生じてしまっています。そうした状況から、多くの場合、変動金利の住宅ローンが選ばれていますが、住宅ローンは、返済期間が長期間となるため、返済期間中に金利が上昇したときのリスクも考える必要があります。今後の金利情勢を予測するのは難しいですが、変動と固定それぞれのメリット、デメリットを理解し、ご自分に合った住宅ローンのタイプを選んでほしいですね。
―変動金利と固定金利それぞれのメリット、デメリットについて教えてください。
 変動金利は、固定金利と比べて金利が低いので、当初の返済額は固定金利の場合より少なくなりますが、借入後に金利が上がると返済額が増加するなど借入後の市中金利に影響されるため、将来の返済額が確定しません。
 一方、固定金利は、変動金利より金利が高いため、当初の返済額は変動金利より高くなりますが、借入後に金利が上昇しても返済額には影響しないため、借入期間全体の返済額が確定します。共働きなど収入の多い方は変動金利を選んでもいいでしょうが、働き手が一人で収入増があまり見込めない家庭は、固定金利の方が安心して計画的に返済できるでしょう。

不確定要素も十分に考慮

―住宅ローンを選ぶ際の注意点をお聞かせください。
 借り入れる金額や期間、月々の返済額とご自分の収入とのバランス、子供の有無、介護が必要になる可能性などさまざまな要素を十分に考えてください。不動産業者やハウスメーカー、金融機関が勧めてくれた住宅ローンを安易に決めてしまわないで、ご自身でもよく考えてみることが大切です。最近は物価高の影響で地価や住宅価格も上昇傾向にあり、予算ぎりぎりでマイホームを購入するケースが増えています。将来の家計の支出も厳しめに試算した方がいいと思います。
―親子による「リレー返済」や、50年ローンというプランも出てきているそうですが、最近の動向について教えてください。
 ちょっと前までは最長で35年返済のタイプだけでした。静岡ではまだ少ないですが金融機関によっては40年、50年返済のローンを組むことができるようになりました。親子でローンを組む場合などは、借りるときは大丈夫だと思っていても、子供の進学、就職、結婚など、その後はそれぞれで多くの不確定要素がでてきますので、親子が返済プランを共有できていることが必要だと思います。
 それ以外でも、住宅ローンの商品の中には、キャンペーンによる金利引き下げや、若年・子育て世帯のための住宅や省エネルギー対策の住宅などに金利引き下げメニューが用意されていたりと、金利にもさまざまな設定がある場合もありますので、このような制度も活用されるとよいと思います。

ライフイベント一覧表に

―日銀総裁の交代に伴い、金融政策の見直しも取りざたされています。今後、住宅ローンの金利も上昇するのでしょうか。
 まだ先行きは不透明ですが、長期金利だけでなく短期金利がいつ上がってもおかしくないとは感じています。長い目で見ると、絶対に金利が上がらないとは断言できず、長期金利の上昇により固定金利が上がり、短期金利が上がれば変動金利も上がる可能性があります。ですから予算ぎりぎりでローンを組むのはお勧めできませんね。
―住宅ローンの選択はその後の人生設計を左右するとも言えそうですね。賢いライフプランづくりに関するアドバイスをお願いします。
 家計のキャッシュフローを表にしておくのが一番いいのですが、なかなか難しいので一般の方でもできるライフイベントのリストアップをお勧めします。静岡では皆さん車をお持ちですので、10年に一回程度の車の買い替えや住宅のメンテナンス時期なども時系列にした一覧表を作っておくといいでしょう。
 住宅ローンは「借りられる額」ではなく「返せる額」をベースに考えてください。ローンの返済のほか、固定資産税やマンションなら管理費、場合によっては駐車場代など年間を通じた必要経費なども含む収支のバランスを冷静かつ客観的に考え、ご自分のライフプランをしっかりと組み立てていただきたいと思います。

安藤絵理FP事務所代表
1級ファイナンシャルプランニング技能士/CFP®
静岡県金融広報アドバイザー/常葉大学短期大学部非常勤講師

銀行の保証会社、独立系FP会社勤務後、2003年1月安藤絵理FP事務所として独立。現在は、個人のコンサルティングを行う傍ら、消費者向けセミナー講師、金融機関研修講師、TVやラジオ出演、テキストや雑誌の執筆など幅広く活動を行う。コンサルティングやセミナーでは「難しいことをやさしく説明する」ことを心掛けている。

(静岡新聞中部版令和5年12月12日掲載内容)

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【提供:住宅金融支援機構】