「オール静岡というチームで全国を狙いたい」。運営母体の代表理事CEOに就いた三浦哲治さんが掲げる理念の下、新たに船出した女子サッカークラブ「静岡SSUアスレジーナ」(静岡県磐田市)に2020年、静岡ゆかりの3人が集結した。高校、大学時代を県内で過ごした左山桃子選手、日本女子サッカー界のレジェンドで静岡市清水区出身の本田美登里氏、元日本代表でJ1の川崎や名古屋で監督を務めた清水商高(現清水桜が丘高)出身の風間八宏氏。サッカー王国復活の一翼を担うべく”故郷”に戻り、それぞれ主将、監督、テクニカルアドバイザーとして地域のシンボルとなるチームづくりに奮闘している。
チームは2008年、大学地域融合型クラブ「静岡産業大磐田ボニータ」として発足した。10年には日本女子サッカーリーグに参入。17年シーズンにチャレンジリーグを制覇して翌年なでしこリーグ2部昇格を果たしたが、19年シーズンはリーグ最下位に終わった。20年シーズンは地域密着のクラブとしての基盤強化を図るため、運営母体を一般社団法人静岡スポーツユナイテッドに移管し、チーム名も一新。学生24人、社会人13人の体制でチャレンジリーグからの再スタートを切った。
チーム名は「All Shizuoka」で応援してほしいという思いを込めた「AS」と、イタリア語で女王を意味する「REGINA」を組み合わせた造語だ。「一緒にサッカーをしたい仲間や恩返しをしたい関係者がいたので戻ってきた。静岡は第二の故郷」。かつて藤枝順心高、静岡産業大でプレーした左山選手は、なでしこ1部の新潟を離れて7年ぶりに復帰した理由をこう語る。なでしこ1部の長野の指揮官を退いて就任した本田監督も「静岡はサッカーを始めた場所。いつか恩返しをしたいという思いがあった」と地元への愛着を口にし、「静岡のサッカー少女の皆さんがこのチームを目指してもらえるようにしたい」と意気込む。
日本の女子サッカー界は2021年秋、プロリーグ「WEリーグ」が創設する。だが、Jリーグとしてプロ化が定着した男子に比べ、取り巻く環境は厳しい。アスレジーナが今季所属したチャレンジリーグはなおさらで、社会人の選手は多くが仕事との両立を迫られている。なでしこ1部で6年間プレーし、ユニバーシアード日本代表経験もある左山選手にとっても例外ではない。
アスレジーナの選手の雇用は地元企業が支えている。静岡県内でスーパードラッグストアを展開する杏林堂薬局もその一つ。現在、7人を受け入れている。左山選手もその一人。磐田市内の店舗にあるベーカリーで2月から働いている。出勤日は試合がある週末を除き、火曜日から金曜日まで週4日。二足のわらじも「一人の人間としていろんな経験をさせていただいているので、私にとっては大切な時間」と成長の機会だと捉えている。6時間勤務した後、夕方の練習に向かう。気持ちの切り替えは一度家に帰って15分ほど仮眠すること。「そうするとすっきりするんです」。
自分で希望した職場で、今ではパン作りも任されるようになった。「サンドイッチとかも作るんですけど、私が作った日はどれだけ売れたかも気になってしまうんです」。店内でにこやかに話す姿は、ピッチで見せるキリリとした顔とはまた違う一面を覗かせる。坪井泰樹店長は「(雰囲気は)サッカーの試合の時とはものすごいギャップを感じる」と語り、「仕事ぶりは非常に丁寧。サッカーとの両立は大変だと思うけど応援している」とエールを送る。職場の仲間も日々「頑張ってね」と声を掛けて励ましているという。
アスレジーナも将来的なトップリーグ参入を視野に入れるが、乗り越えなければならない壁は高い。降格した2020年シーズンは6チームが争うチャレンジリーグEASTで3位。WEST1位チームとの優勝決定戦には進めなかった。本田監督は「いまの状況でWEリーグに手を挙げたところで実力的にも、運営的にも、資金的にも難しい」と現実に目を向ける。しっかりとした基盤をつくり、万全の準備を整えることが先決だと感じている。「女子サッカーの魅力を知ってもらうことも大事」。対人プレーにプライドを持つ左山選手も課題を口にする。夢の実現には長い道のりが待っている。培った技術を惜しみなく伝授している風間さんは「周りの人が協力していることがよく分かる。このチームがいつの日か参入してくれれば」と先を見据える。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が遅れた今シーズンは序盤こそ苦戦が続いたが、尻上がりに調子を上げ、11月22日の最終戦では今季初の完封勝利を飾った。「何ができて何ができないかを検証できる良い機会になる。一つでも多く強いチームと試合をして来シーズンにつなげたい」(本田監督)と挑んだ皇后杯は大学生チームとの初戦を突破し、今季なでしこ2部を制した強豪・世田谷FCと対戦。惜しくも2−3で敗れたが、飛躍へのきっかけは掴んだ。来季はWEリーグ発足に伴ってなでしこリーグのカテゴリーも再編される。まずは所属するカテゴリーの頂点に立ち、未来への扉を開くつもりだ。
「地域のシンボルに相応しい集団になることを目指し、女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」への参入を目指しています。
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