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静岡県が予算計上見送り 譲渡は? どうなるヴァンジ美術館

 新型コロナウイルス禍で経営難となり、存続のため静岡県に無償譲渡などを提案しているヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)。川勝平太知事は継承に前向きな姿勢を示してきましたが、県議会での異論を踏まえ、県は2023年度当初予算案への関連経費の計上を見送りました。今後、美術館はどうなるのでしょうか。経緯と活用案をまとめました。

活用案に異論 再検討へ 川勝知事は受け入れに意欲

 静岡県は14日開会の県議会2月定例会に提出する2023年度当初予算案に、長泉町の民間施設「ヴァンジ彫刻庭園美術館」に関する予算の計上を見送った。新型コロナウイルス禍で経営難となった美術館側が存続のため21年秋に県に無償譲渡などを提案し、川勝平太知事は継承に前向きな姿勢を示してきたが、県議会での異論を踏まえて当初予算案への計上は断念した。県は「再度検討を重ねる」(文化局)としている。

静岡県庁
静岡県庁
 県は当初、22年度内にも譲渡受け入れの可否を判断する見通しを示していた。川勝知事は同予算案を発表した10日の記者会見で、あらためて意欲を示し「遠くない将来に活用方法が発表できるはず。いい形で生まれ変わる可能性を探っていく」と述べた。県文化局担当者は「施設が残ることで地域の発展に寄与できる。ただ、さらに検討が必要」と話す。
 同美術館を巡っては、地元長泉町をはじめ、近接する沼津、三島、裾野、清水の3市2町の首長が、県東部の文化拠点として存続を川勝知事に21年11月に要望。一方、22年の県議会12月定例会で県は「住民参加型のアートプロジェクトを展開する交流拠点」との美術館活用案を県議会に示したが、一部の県議から「経営難の民間施設を譲り受ける前例になりかねない」などと、県有化することの疑義や財政負担への懸念の声があった。
 知事に近い県議会第2会派ふじのくに県民クラブは昨年12月、地元市町の支援を前提に活用案を見直すよう知事に求めていた。
 ヴァンジ美術館は複合文化施設「クレマチスの丘」の一画に位置し、彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジ氏の作品を展示する。22年末から休館している。
 〈2023.02.12 あなたの静岡新聞〉

コロナ禍で経営厳しく 県に支援を求めていた

川勝平太知事に窮状を訴える岡野晃子副館長(中央)=29日午後、県庁
川勝平太知事に窮状を訴える岡野晃子副館長(中央)=29日午後、県庁
 ※2021年10月30日 静岡新聞朝刊から
 長泉町東野の複合文化施設クレマチスの丘にある「ヴァンジ彫刻庭園美術館」の岡野晃子副館長ら関係者が29日、静岡県庁に川勝平太知事を訪ね、新型コロナウイルス禍で来館者が激減し「来年度で閉館しなくてはいけない経営状況にある」として支援を求めた。
 岡野副館長は、学校と連携した教育活動など地域貢献に力を入れてきたことを強調しつつ「苦しい経営の中、いろいろなことを模索してきたが、私たちの力だけでは続けることが難しい」と窮状を訴えた。その上で「社会教育機関としての活動を続けていただけるならば、県などに美術館を無償譲渡することも考えたい」と述べた。
 同席した池田修長泉町長は、町単独での支援には限界があるとして「県東部の方々の自慢の施設、拠点である美術館がなくなる状況はなんとしても避けたい」と考えを示した。
 川勝知事は「公共性が高く、本県にとって重要な施設。早急に検討し、年度内に骨格を決めたい」と応じた。
 関係者によると、同館の2019年の有料入館者(高校生以上)は約5万8千人だったが、20年は中学生以下も含めて約2万9千人にとどまった。
 ※表記、肩書などはいずれも当時

静岡県の活用案は? 参加型の芸術交流拠点をコンセプトに

 新型コロナウイルス禍の経営難で静岡県に無償譲渡を提案した「ヴァンジ彫刻庭園美術館」(長泉町)について、県が譲渡後の活用案として、県民の芸術活動を促進する交流拠点「オープン・ガーデン・アートセンター」とするコンセプト案をまとめたことが、24日までの関係者への取材で分かった。12月1日に開会する県議会12月定例会で報告する。県議会の意見などを踏まえ、県は今後、譲渡を受け入れるかどうかを判断する方針。

ヴァンジ彫刻庭園美術館
ヴァンジ彫刻庭園美術館
 新たな活用案は、自然豊かな同館の庭園や既存施設を生かしながら、県民の作品展示や住民参加型のアートプロジェクトなどを展開する県東部の拠点とする。県に同館の存続を要望した周辺市町と連携し、教育や観光への活用も想定する。現状の管理方法を基にした場合、指定管理で年間1億2千万円程度の管理・運営費がかかると想定した。
 課題となっていた敷地内の彫刻作品と駐車場の賃貸借関係は2022年度末にも解消され、彫刻作品はそのまま設置される見込みという。
 同館から譲渡の提案を受けた県が22年1~3月に開いた有識者による対応検討会は、新たな活用コンセプトの明確化と彫刻作品などの賃貸借関係解消、地元市町の負担の3点を譲渡の課題として指摘していた。県は22年度一般会計6月補正予算に調査費を計上し、民間委託で活用案をまとめた。
 県議会では県有施設として譲渡を受ける意義や、将来的な県の費用負担の在り方について議論されるとみられる。
 〈2022.12.25 あなたの静岡新聞〉

8割が「現状形態で存続を」 利用者アンケート結果

 新型コロナウイルス禍による経営難を踏まえ、静岡県に施設の譲渡を提案したヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)はこのほど、同館の在り方について利用者らに聞いたウェブアンケートの結果をまとめた。全国から回答した9659人の約8割が「これまでどおりの形態での存続」を望んだ。

 全体の98%が「存続を望む」とし、その内の81%が「これまでどおり」の運営形態を希望した。現在行っている美術館の活動で継続した方が良いものを聞いたところ「障害のある方も楽しめる美術館づくり」が64%でトップ。「触れることのできる作品の展示」が15%で続いた。
 アンケートは9~25日に実施した。岡野妙子専務理事は「さまざまな立場の方が親しめる博物館という方針が理解されている。期待に応えられるよう、存続に向けた努力を続ける」と話した。
 同館は26日から大規模修繕のため一時閉館している。アンケート結果は年明けに公式サイトで公表予定。
 〈2022.12.28 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞