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景気回復に慎重な見方 静岡県内企業「賃上げ」にどう臨む

 静岡新聞社がまとめた静岡県内主要100社の景気動向アンケートは、半年後の景気を約4割の企業が「横ばい」と予想し、「拡大傾向」とした企業は約3割にとどまりました。原材料・エネルギー価格の高騰や円安で厳しい事業環境が続くとして、今年2023年の景気回復には慎重な見方が多数を占めました。岸田文雄首相が「成長と分配の好循環の中核」と訴える賃上げですが、県内企業では「原材料高騰の業績影響で賃上げは難しい」との声が大勢を占めています。調査結果の概要と首相の賃上げ要請に対する全国経済界の受け止め、動向を1ページにまとめました。

4割が半年後「横ばい」と予想 県内100社アンケート

 調査は2022年12月上旬から中旬にかけて、製造業と非製造業50社ずつから回答を得た。半年後の景気見通しは「緩やかに拡大」34社、「横ばい」44社、「緩やかに後退」13社、「後退」5社、「拡大」はゼロだった。22年8月の前回調査と大きな変動はなく、先行き不透明感から「予測できない」も4社あった。

静岡県内主要企業トップの景況感 今後の景況見通し
静岡県内主要企業トップの景況感 今後の景況見通し
 新型コロナウイルスの影響が弱まり、社会活動の正常化に期待が集まる一方、物価高と円安の同時進行が業績の下押し要因となり、業種を問わず景気減速の懸念が根強い。今回調査で半年後を横ばいとした企業からは「プラス要因が少ない」、「売り上げが増加しても、原材料の高騰で利益が打ち消される」との声が聞かれた。
 景気の現状認識も「横ばい」が39社と最も多く、「緩やかに後退」28社、「緩やかに拡大」24社が続いた。
 1年後の見通しは、45社が「拡大傾向」を予想し、横ばい(37社)や後退傾向(13社)の見方を上回った。今夏以降は欧米の高インフレが収束に向かい、国内にもプラスに働くとみる企業が多い。
 〈2023.1.3 あなたの静岡新聞〉

賃上げ「22年より高く」2割 「22年並み」が約半数

 静岡新聞社の100社アンケートで、今春の賃上げ実施の予定について「2022年より高く昇給する」と答えた企業は20社に限られた。「22年並み」は約半数の52社で、「原材料高騰の業績影響で賃上げは難しい」との声が大勢を占めた。

今春の賃上げ実施予定
今春の賃上げ実施予定
 「22年より高く昇給」は製造、非製造で各10社。「インフレが進む中で対策が必要」(機械製造)、「従業員の待遇を改善したい」(宿泊)と急激な物価高への対応が必須との意見が目立った。人手不足感が強まる中、「従業員確保のため」(自動車部品)と明かす企業も複数あった。
 「22年並み」は製造23社、非製造29社。「未定」も22社あり、今後の賃上げ機運の高まりが注目される。
 22年冬のボーナス支給については、同年10月の消費者物価指数の前年比上昇率3・6%を基準に聞いたところ、30社が「3・6%以上の増額」と答えた。うち21社は「5・0%以上」と答え、一定数の企業が物価高に賞与で即応していた。一方、「前年と同額」は36社、「前年より減額」も15社あった。
 〈2023.1.3 あなたの静岡新聞〉

岸田首相、経済界に賃上げを強く要請

 岸田文雄首相は5日、東京都内で開かれた経済3団体の新年祝賀会に出席し、集まった経営者らに今年の春闘での賃金引き上げを強く要請した。春闘で連合が5%程度の賃上げを求めているとして、物価上昇率を超える賃上げを求めた上で「政府として最低賃金の引き上げなどの取り組みを進める」と述べた。経団連の十倉雅和会長はベースアップ(ベア)を中心とした賃上げの実現に意欲を見せた。

経済3団体の新年祝賀会に出席しあいさつする岸田首相=5日午後、東京都内(代表撮影)
経済3団体の新年祝賀会に出席しあいさつする岸田首相=5日午後、東京都内(代表撮影)
 ただ経営が厳しい企業は賃上げに慎重になるとみられる。中小企業を含めた賃金の底上げがどこまで広がるかは見通せない状況だ。
 直近の消費者物価の上昇率は3%台となっている。
 首相は「(賃上げは)成長と分配の好循環の中核だ。能力に見合った賃上げこそが企業の競争力に直結する時代だ」とも強調し、賃上げの動向で「日本経済の先行きは全く違うものになる」と指摘した。
 首相は連合主催の新年交歓会にも出席した。連合の芳野友子会長は年頭の会見で「実質賃金を上げて経済に回すことが今まで以上に重要な年になる」として、最低賃金の引き上げや非正規雇用労働者の処遇改善が必要だと訴えた。
 十倉氏は祝賀会後に記者会見し、首相の要請について「構造的な賃上げを実現しなければならない。ベアを中心に物価高に負けない賃上げを(会員企業に)お願いしたい」と述べた。
 会見には日本商工会議所の小林健会頭と経済同友会の桜田謙悟代表幹事も同席。小林氏は、中小企業の賃上げ実施には大企業との間の価格転嫁による取引適正化が不可欠だとし「取引適正化をサプライチェーン(供給網)全体でシェアしようという取り組みが大事だ」と訴えた。
 桜田氏は「円安で潤った企業があれば、苦労している企業もある」と述べ、企業によって経営状況が異なることを強調した。

 <メモ>賃上げ 企業が賃金を引き上げること。年齢や勤務年数に応じて賃金が増加する「定期昇給(定昇)」と、賃金水準を一律に底上げする「ベースアップ(ベア)」に大別される。企業がベアに応じると、総人件費の恒常的増加につながるため、経営者側は慎重になる。このため、業績によって、賞与・一時金(ボーナス)で対応するケースも多い。
​ 〈2023.1.6 静岡新聞朝刊〉

企業トップらの反応は? 大企業と中小企業、景況感に格差大きく

 岸田文雄首相が、今春闘で物価高を超える賃上げの実現を経済界に強く求めた。好業績の大企業は呼応する姿勢だが、原材料や電気代の値上がりに苦しむ中小企業は「官製春闘」の蚊帳の外となりかねない。支持率が低迷する首相は今春闘を正念場とみて、オールジャパンで賃金上昇の流れをつくろうと前のめりだが、労働組合からは政権のパフォーマンスだとの冷めた声も上がる。

賃上げを巡る企業トップの主な発言
賃上げを巡る企業トップの主な発言
 「日本全体の賃上げを引っ張るのは、ここにいる企業の皆さんです」。5日の祝賀会であいさつに立った首相は声を張り上げ、居並ぶ主要企業のトップを持ち上げた。
生命線
 賃上げは首相が唱える「新しい資本主義」の中核で、今春闘で成果を上げることは低支持率に苦しむ政権を浮揚させる上で生命線だ。円安などによる輸入コスト高騰で、消費者物価の上昇率は昨年11月に3・7%と40年ぶりの水準に達し、政府の物価高対策も一時しのぎの域を出ない。賃上げが伴わなければ、首相が期待する「成長と分配の好循環」もかけ声倒れになるとの危機感がある。
 サントリーホールディングスの新浪剛史社長は賃上げ率が「6%を超えるレベルにしたい」と話し、三井不動産の菰田正信社長も「第一歩を踏み出すことが大事だ。これまでの賃上げレベルとは違う水準にしたい」と強調。賃上げが「今年なのか、もっと先なのかは何とも言えない」(日本航空の赤坂祐二社長)との慎重な声もあるが、一部にとどまる。
 背景には、企業によるコストの価格転嫁が一定程度進んでいることがある。2021年度の企業の内部留保は500兆円を超え、利益ため込みとの批判もある中で姿勢を転換させつつある。ホンダの三部敏宏社長は「昔は経営状況が良くなったら賃上げという方向だったが、どっちが先ということでもない」と積極的に賃上げする構えを見せた。
パフォーマンス
 一方で労働組合の関係者の間には、首相による春闘での賃上げ要請は「パフォーマンスに過ぎないのでは」などと冷ややかな見方も少なくない。製造業の産業別労組の幹部は「(政府が賃上げを呼びかける)『官製春闘』になって長いことたつが、効果が出なかったのは明らか。賃上げを後押ししてくれるのは政府よりも物価高だ」と突き放した。
 新型コロナウイルス禍の影響が根強く残る鉄道業界の労組関係者は「賃上げムードをつくるのは悪いことではないが、会社は政府が言うくらいでは動かない」と、しらけ顔。企業への声かけに終わるのではなく、賃上げに動かざるを得ないような具体的な方策を取ってほしいと強調した。
格差と逆風
 中小企業の町工場が集積する大阪府東大阪市。自動車用アルミを手がける夏山金属工業は昨年、操業にかかる電力費が年150万~200万円も上昇した。「業績が悪く、例年通りの定期昇給しかできない」(幹部)として、賃金の底上げに当たるベースアップには踏み込めないと説明する。
 こうした大企業と中小企業の景況感の格差に加え、賃上げに逆風となりかねないのが欧米の急速な利上げによる景気後退懸念だ。経団連の十倉雅和会長も5日の記者会見で「世界経済に日本は左右される」と警戒感を示した。
​ 〈2023.1.6 静岡新聞朝刊〉

景気 全国調査の結果を詳しく
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