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静岡市出身の染色家・芹沢銈介 作品や「家」に見るこだわり

 静岡市出身の染色家で人間国宝の芹沢銈介(1895~1984年)をご存知ですか?芹沢は着物、帯、のれんなど膨大な数の作品を世に残しました。静岡市駿河区にある芹沢銈介美術館には、作品約800点と収集品約4500点が所蔵されています。美術館に収蔵されている「春夏秋冬」を題材にした代表作や、ウェブ上での「3Dバーチャルツアー」が可能になった付属施設「芹沢銈介の家」について1ページで紹介します。

妥協を許さない芹沢の姿勢 「春夏秋冬」題材の代表作に

 ※2021年2月8日 静岡新聞朝刊から

染色家 芹沢銈介(1895~1984年)
染色家 芹沢銈介(1895~1984年)
 染色家の芹沢銈介(1895~1984年)=静岡市出身=は、「型染[かたぞめ]」の技法で着物、帯、のれんなど膨大な数の作品を世に出した。市立芹沢銈介美術館にある代表作「洲浜型四季文四曲屏風[びょうぶ]」は、文字紋と抽象紋をバランス良く配置し、芹沢の宇宙観を平面上に構築する。
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「洲浜型四季文四曲屏風」 1970年 芹沢銈介作

 同館は色違いの2点を収蔵する。開館直後にオレンジ色を基調にした作品が芹沢の弟子から寄贈されたが、表装されていない状態だった。その後、芹沢本人が表具のデザインも手掛けた、背景がねずみ色の作品を2016年度に市が購入し、現在展示している。
 「春夏秋冬」は、芹沢が繰り返し取り組んだ題材の一つ。命ざわめく春の波動、暑気が空に充満する夏の雲、穏やかな気候と荒天が併存する秋、冬の霜と氷の結晶-。同館の白鳥誠一郎館長(52)は「文字紋と抽象紋を織り交ぜて四季を表現した結果、曼荼羅[まんだら]のようになった」と評し、「永遠の循環を追求したのでは」と想像する。
 制作の裏には、妥協を許さない芹沢の姿があった。1956年から6年間、東京・蒲田の工房で修業した浜松市中区の染色家山内武志さん(82)は当時、さまざまな屏風[びょうぶ]の裏側に紙を貼る作業を担当した。「しま模様をかっこつけて引いていたら、先生に『こんな騒々しいのは困る。息を凝らして引きなさい』としかられた」と振り返る。
 工房には「いまひと押し」と書かれた色紙が飾られていた。「先生には『これでいい』がない。終わってからのもう一押しで全てひっくり返ることが何度もあった」と明かす。白鳥館長は「見れば見るほど先生の強さを感じる」と話す。厳しさとユーモアが両立する唯一無二の作家性は、今なお若いファンを引きつけている。
具象と抽象、交互に 皇居宮殿に飾られた作品も
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「新宮殿のための額絵」 1968年 芹沢銈介作

 宮内庁が新築の皇居宮殿「連翠」に飾るために依頼した作品。現在も同じ場所に飾られている。幾何学模様と、秋のキク、春のサクラなど具象紋で描いた四季の情景が交互に横に並べられている。
 芹沢銈介美術館が収蔵するのは、ほぼ同じ図柄で作られたもの。皇居に飾られた作品は裏に金箔[きんぱく]が貼られている。具象と抽象を織り交ぜた本作を下敷きに、具象ではなく文字で四季を表現する2年後の「洲浜型四季文四曲屏風」が生まれた。(菊地真生)

創作の場でもあった「芹沢銈介の家」 バーチャルツアー公開

 静岡市駿河区の芹沢銈介美術館は、付属施設「芹沢銈介の家」をウェブ上で見学する「3Dバーチャルツアー」をホームページで公開した。染織家芹沢のこだわりが詰まった家の内部を、実際に歩いているかのように見渡すことができる。

 「芹沢銈介の家」は都内にあった芹沢の自宅を移築した2階建ての建物。開放日を日曜祝日と限定しているため、「いつでも気軽に訪れてもらおう」と企画した。
 ウェブ上のツアーでは、画面を操作し自由に動いて部屋を巡ることができる。芹沢が改修した家具や収集した工芸品について解説する音声ガイドも用意されている。年に一度しか公開していない2階部分を訪れることもできる。
 同館学芸員の山田優里さんは「遠方の方などに見ていただき、実際の来館のきっかけになれば」と話した。(社会部・沢口翔斗)
 〈2022.12.21 あなたの静岡新聞〉

1987年に東京・蒲田から移築
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 静岡市出身で型絵染の人間国宝、芹沢銈介(1895~1984年)にもっと親しみを持ってもらおうと、市立芹沢銈介美術館(駿河区登呂)は(※2014年8月)2日から、併設する「芹沢銈介の家」の見学を無料化する。
 芹沢銈介の家は本人の遺志で市に寄贈され、87年に東京・蒲田から移築された木造2階建ての住居兼工房。応接間として使われていた1階は、芹沢が作品の構想を練ったり、型紙を彫ったりした創作の場でもあったという。芹沢が収集した世界の工芸品も展示されている。
 〈2014.8.2 静岡新聞朝刊より〉

静岡市立芹沢銈介美術館

 静岡市駿河区登呂5の10の5。市に作品と収集品が寄贈されたのを機に1981年に開館。作品約800点と収集品約4500点を所蔵し、年間3回の展覧会を開く。館は建築家白井晟一(1905~83年)が設計し、登呂公園の一隅に位置する。石積みの外壁、銅板ぶきの屋根、白木のナラ材の組天井を持つ展示室が池を取り囲むように配されている。

 静岡市立芹沢銈介美術館
静岡市立芹沢銈介美術館
 〈2021.2.8 静岡新聞朝刊より〉
地域再生大賞