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知事辞職勧告を可決 県政史上初

 川勝平太静岡県知事のいわゆる「コシヒカリ発言」を巡り、県議会は県政史上初となる知事の辞職勧告決議案を可決しました。一時は県議会最大会派の自民改革会議が不信任決議案の提出方針まで示す事態にまで発展。今後の県政運営にも大きな影響を与えています。決議に至る一連の動きをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉

川勝氏「猛省する」 辞職を否定

 川勝平太知事が参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で御殿場市を「コシヒカリしかない」などとやゆしたかのような発言を巡り、県議会は24日の臨時会で、法的拘束力のない知事の辞職勧告決議案を県議会最大会派の自民改革会議と公明党県議団などの賛成多数で可決した。同決議案の可決は県政史上初めて。川勝知事は閉会後「猛省する」と受け止めた一方で、辞職せずに残りの任期を全うする考えを表明した。

県議会臨時会で、川勝平太知事に対する辞職勧告決議案の記名投票が行われた。知事は投票が終わるまで目を閉じていた=24日午後2時40分
県議会臨時会で、川勝平太知事に対する辞職勧告決議案の記名投票が行われた。知事は投票が終わるまで目を閉じていた=24日午後2時40分
 決議に関しては「極めて深刻に受け止めている」と述べ、12月1カ月分の給料と期末手当(ボーナス)を返上する意向を示した。
 自民会派は当初、出席議員の4分の3の賛成で知事に失職か県議会解散を迫る不信任決議案の提出を目指したが可決が見込めず、過半数で可決できる辞職勧告決議案に切り替えた。議長を除く出席議員66人のうち自民39人、公明5人に無所属3人を加えた計47人が賛成し、知事に近い第2会派ふじのくに県民クラブ17人と共産を含む無所属2人の計19人が反対した。
 賛成討論で自民改革会議の木内満政調会長は「4選後、一方的にノーサイドではないと宣言し、正常な県政運営を妨げてきた。県政運営を任せられない」と辞職を求める理由を訴え、公明党県議団の蓮池章平団長は「自分の言動が後にどのような事態を招くのか想定できなかったとすれば、危機管理能力に大きな疑問符を付けざるを得ない」と批判した。
 反対討論では、ふじのくに県民クラブの佐野愛子会長が「待ったなしの県政課題を数多く抱え、政治的空白を作るわけにはいかない」と主張した。
 可決後、宮沢正美議長が知事室を訪れ、川勝知事に辞職勧告決議の内容を直接伝えた。
 その後、取材に応じた川勝知事は勧告に従って辞職するかを記者から問われ「県民から負託された期間だ。全うするのが一番重要なことだ」と答えた。出直し知事選を実施しない理由についても「新型コロナウイルスの第6波が来るかもしれない」と説明した。
 選挙応援などの政務活動については「公人、県知事としてしか、これからは言動しない覚悟でいる」とした。

 <メモ>辞職勧告決議 議会の意思を対外的に表明する意味があるが「従わなければならないものではない」(全国都道府県議会議長会)とされる。地方自治法に規定され、可決した場合に知事に失職か県議会の解散を迫る不信任決議と異なり、同法に位置付けは明記されていない。問責決議や反省を求める決議など、議会の一般的な決議と法的効力は同じ。
〈2021.11.25 あなたの静岡新聞〉

知事と自民、和解遠く 県政運営に影落とす

 川勝平太知事の御殿場市をやゆした「コシヒカリしかない」発言に端を発する知事と県議会の対立は、県政史上初となる知事辞職勧告決議の可決にまで至った。臨時会閉会後に続投を表明した川勝知事は「ノーサイド」を強調し、6月の知事選以降強めてきた自民党への対決姿勢を“封印”。一方の自民は「議会に対して身の処し方を示した段階で対応を考えたい」と態度を保留し、“戦い”を終えても和解ムードはなかった。

宮沢正美県議会議長(左)から辞職勧告決議書を手渡される川勝平太知事=24日午後3時ごろ、県庁
宮沢正美県議会議長(左)から辞職勧告決議書を手渡される川勝平太知事=24日午後3時ごろ、県庁

 「生まれ変わったような人間になる」。臨時会後に記者団の取材に応じた川勝知事は改心を誓った。それに対し県議会最大会派の自民改革会議の野崎正蔵代表は「これまで『仏の川勝になる』などさまざまな言葉があったが、実践できていない。言葉だけで信頼できる状態にはない」と突き放した。
 これまでも選挙や発言を巡り対立してきた両者だが、6月の知事選後、川勝知事は「ノーサイドというわけにはいかない」と過去3度の選挙後とは態度を変え、対決姿勢を鮮明にした。知事に近い関係者によると、リニア水問題を巡り自民がリニア推進の立場であるにもかかわらず、その推薦候補が工事中止やルート変更に言及した矛盾への不信感がきっかけになったという。川勝知事は続く参院静岡選挙区補欠選挙で自民の対立候補を支援し、初めて応援演説に立った。コシヒカリ発言は自民候補をおとしめる狙いから出た発言だった。
 対立の影響は県政にすでに出ている。県は最上位計画である総合計画の改定作業を進めるが、自民側は異例の全面見直しを求め、11月中に予定していた議員側への説明会開催が宙に浮いている。県議会で過半数を握る自民会派の賛同は県の施策実現には必須。野崎代表は「県民の生活に支障をきたすようなことはしない」とすべての施策に反対するような行動は取らないとしつつも、浜松市の新野球場や東静岡の県有地整備など知事肝いりの政策を例示し、「われわれの意見が反映されているのかを含めて議論したい」と県当局をけん制した。
 識者からは両者の歩み寄りが必要との声が聞かれる。静岡大の井柳美紀教授(政治学)は「今回の辞職勧告は政策上の理由ではない。県政運営に関してはお互いノーサイドで県民の側に立ってほしい」と指摘する。一方、県立大の前山亮吉教授(政治学)は「この決議で知事と自民の対話の幅は狭まる」と今後の県政運営に懸念を示した。
〈2021.11.25 あなたの静岡新聞〉

自民、不信任案方針が急転 第2会派ふじのくに崩せず 

 静岡県議会最大会派の自民改革会議が知事の不信任決議案を提出する方針を11月12日に明らかにしてから11日。急転直下ともいえる方針転換に会派内も揺れた。「ここまで(提出すると)引っ張ってきて、やめるのは情けない」。可決に奔走してきた県議からは落胆の声が聞かれた。

静岡県議会
静岡県議会
 知事の発言自体は先月23日だったが、その数日後からネット上で発言が拡散され、批判がわき上がった。11月に入り、県議会でも問題視する声が出始めると報道も過熱。川勝知事が謝罪せずに言い訳を繰り返す会見をすると批判の声はさらに高まり、県議67人中49人が署名する異例の抗議文を知事に提出する事態に発展した。
 この抗議文が不信任案提出に突き進むきっかけとなった。可決すれば議会解散か知事失職となる不信任決議案はそれだけにハードルは高く、出席議員の4分の3以上の賛成が必要。その4分の3にあたる「51」に抗議文署名議員数が迫ったことで、可決の可能性が現実味を帯びた。
 不信任案提出に積極的な県議からは当初、可決を確信したかのような声が聞かれた。可決には知事に近い第2会派ふじのくに県民クラブからの“造反”が必須だが、次期選挙後の支援の約束や同会派を支援する連合静岡への働き掛けなど、あの手この手で多数派工作を仕掛けた。自民党関係者が「やることはすべてやった」と振り返るように、今月自民党入りしたばかりの衆院議員細野豪志氏にも説得を試みさせた。
 ふじのくに内にも知事の発言に対する批判はあったが、6月の知事選で4選したばかりの川勝氏の不信任案に同調する議員はいなかった。同会派は不信任案が提出された場合、採決の際には投票用紙に記入した賛否を周囲に見せるよう申し合わせ、引き締めを強めた。22日の幹部の記者会見では、会派内議員に対する自民側の多数派工作の様子を録音した音声の存在を明らかにし、自民をけん制した。
 可決の公算が小さくなると、自民会派内の熱は急速に冷めた。主戦論もあったが、「不信任案は何度も出せるものではない。国会の野党と同じようなことはできない」(ベテラン県議)と、提出は可決が前提という声が強まった。可決に向けて方策を尽くしてきた執行部もそうした声を受け入れざるを得なかった。
〈2021.11.24 あなたの静岡新聞〉

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