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浜名湖産カキ 不漁から回復へ

 明治時代から養殖が始まったとされる浜名湖のカキ。過去2年は深刻な不漁に見舞われましたが、シーズンを迎えた今季は回復の兆しが見え始めています。出荷の見通しやこれまでの対策、過去の不漁の要因などをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉

今季の出荷本格化 成育状況良く、食害対策などに効果

 晩秋を迎えた浜名湖で、特産の養殖カキの出荷が本格化している。過去2年は「50年に一度」とも言われる深刻な不漁に見舞われたが、今季は回復の兆しが表れているという。地域を代表する「冬の味覚」とあって、生産者に加え、観光業者や販売店からも期待の声が上がる。

今シーズンの出荷が始まった浜名湖特産の養殖カキ。水揚げの回復が期待される=11月中旬、浜松市西区
今シーズンの出荷が始まった浜名湖特産の養殖カキ。水揚げの回復が期待される=11月中旬、浜松市西区

 「過去2年と比べ、成育状況は良い。このまま順調に育て、多くの消費者に浜名湖のカキを届けたい」。舞阪町養かき組合(浜松市西区)の夏目喜好組合長(51)は10日から始まった出荷作業に精を出しながら、胸をなで下ろした。
 同組合の水揚げ量は2016年度の95・7トンをピークに、19年度は37・1トンに激減。20年度は7・9トンとピーク時の10分の1以下にまで落ち込んだ。稚貝の購入費が不足し、組合はインターネット上で資金を募るクラウドファンディングを実施した。
 浜名湖のカキは約1年半かけて養殖する。不漁の原因は分かっていないが、湖内では温暖化と黒潮の流入に伴って水温が上がっている。特に、過去2年は猛暑で夏の水温が著しく上昇。20年度はプランクトンが異常増殖する赤潮被害も広がった。一方、今年は夏場の暑さが厳しくなかった上、クロダイなどによる食害対策として養殖棚を防護網で囲った効果が出始めているという。
 同区の水産物直売所「よらっせYUTO」は例年、水揚げが増える年明けから店頭で焼きガキを販売する。21年は品薄で中止したが、藤本朱実社長(78)は「今季は状況が改善していると聞いている。22年は再開できれば」と意気込む。
 1月上旬から3月末までカキ小屋を開設する湖西市の新居町観光協会の担当者は「過去2年は期間の途中で営業を終了したが、22年はできる限り長く開きたい」と話す。
 〈メモ〉浜名湖のカキ 明治時代の1887年ごろから養殖が始まり、約130年の歴史がある。水温や水質によって湖内で場所を変えながら育てる。身はふっくらと肉厚で、ミネラルを豊富に含み、濃厚な味わいが特徴。出荷時期は11月から翌年4月ごろまで。加熱用のむき身にして出荷するほか、焼きガキ用の殻付きも流通している。
〈2021.11.22 あなたの静岡新聞〉

過去2年は深刻な不漁 猛暑や水温乱高下が一因か

 観光客に人気の浜名湖特産養殖カキの不漁が深刻化している。今期(2020年11月~21年4月)の出荷が12月に入って本格的に始まったが、水揚げは関係者の間で「50年に一度の大不漁」とも言われた前期(19年11月~20年4月)をさらに下回っている。夏場の猛暑や水温乱高下などが一因とみられ、コロナ禍による客足減少も重なり観光面への影響が一層懸念される。

出荷に向け、水揚げしたカキを殻むきする養殖業者。浜名湖の特産だが、2年連続の記録的不漁に直面している=11月中旬、浜松市西区
出荷に向け、水揚げしたカキを殻むきする養殖業者。浜名湖の特産だが、2年連続の記録的不漁に直面している=11月中旬、浜松市西区
 「前期の水揚げは例年の2~3割で、今期はこれまで1割前後の水準。40年近くカキを養殖しているが、ここまで少ないのは初めて」。2年連続の記録的不漁に舞阪町養かき組合(浜松市西区)の堀内昇組合長は表情をくもらせた。秋の高温で出荷が遅れ、身も小ぶりだったが、堀内組合長は「水温が下がり始めた。残りのカキを大きく育てて挽回したい」と力を込める。
 浜松市中央卸売市場(南区)の水産会社によると、浜名湖産カキの取扱量は前期序盤、例年の約5分の1に落ち込み、12月は1日当たり120~130キロ。今年の12月は同80~90キロとさらに少なく、コロナ禍で飲食店需要が落ち込んでいるにもかかわらず、取引価格は例年より3割前後高いという。
 不漁の原因は分かっていないが、静岡県水産・海洋技術研究所浜名湖分場(西区)の今中園実主査は「夏の水温が上がり、秋以降も黒潮の影響で水温変化が激しくなっている」と指摘する。黒潮の大蛇行が続いた近年は、枝分かれした温かい海水が汽水湖の浜名湖に流れ込み、前日より水温が一気に2~3度上がる日が増えた。猛暑と水温の乱高下でカキが弱り、大量死した可能性があるという。
 浜名湖のカキ養殖は約1年半かけて育てる。近年はクロダイによる食害も広がったため、養殖業者は稚貝を網で囲う新たな対策を始めた。来年秋以降に出荷する稚貝は生育が順調で、水揚げの増加を期待する。
〈2020.12.16 あなたの静岡新聞、※表記、肩書などはいずれも当時〉

牡蠣小屋は今季も1月上旬オープン【昨シーズンの様子を振り返る】

湖西市新居町の観光施設「海湖館」で9日(※2021年1月9日)から、浜名湖産のカキをその場で焼いて味わう「牡蠣(かき)小屋」が開設される。今季のオープンを前に新居町観光協会は7日、関係者向けのお披露目会を開いた。

お披露目会で浜名湖産カキを焼く関係者=湖西市新居町の海湖館
お披露目会で浜名湖産カキを焼く関係者=湖西市新居町の海湖館
  浜名湖のカキは粒が大きく、濃厚な甘みが特徴。新居牡蠣組合が養殖するカキは「プリ丸」のブランドで売り出している。開設は9年目で、2万人ほどが訪れる冬の観光イベントとして定着してきた。会には観光関係者約20人が出席し、殻付きのまま焼いた熱々の身をほおばり、顔をほころばせた。
  地元のカキ養殖業者によると、今季の水揚げ量は例年の1割程度。昨夏の猛暑や、11月ごろからのプランクトンの増殖が要因として考えられるという。同協会の林正之会長は「カキの不漁やコロナ禍でも何とか開設できた。これまでに築いたブランドをさらに発信していきたい」と話した。
 〈2021.01.08 あなたの静岡新聞〉
※2021年の営業は終了しました。今季は2022年1月上旬から3月末までの開設を予定しています。
地域再生大賞