富士山ハザードマップ 活用のために
富士山ハザードマップが3月に改訂されたことを受け、裾野市が住民を対象にした避難訓練を実施しました。行政は、ハザードマップを基に避難計画の見直しなどを行っていますが、私たちの備えも重要です。改めてどのような改定だったのか、防災の心得など見直しておきましょう。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉
富士山噴火に備え 裾野で避難訓練 ハザードマップ改訂を反映
裾野市は17日、3月の富士山ハザードマップの改訂を受け、富士山の噴火活動を想定した避難訓練を富士山麓に位置する同市須山地区の住民を対象に実施した。関係機関が住民とともに、警戒レベルに応じた避難行動を確認。情報伝達や移動ルートなどを検証し、市の避難計画の修正に反映させていく。静岡県によると、改訂後に住民参加型の火山防災訓練を実施するのは県内で初めてとみられる。

訓練は数日前から火山性地震が増加し、小規模な噴火発生が予想される―という想定で始まった。市と自衛隊、警察、消防など関係機関から約50人が参加し、早期の避難が必要な同地区の十里木高原周辺の住民ら約50人が訓練に臨んだ。住民は噴火警戒レベル4への引き上げを受け、バスと自家用車で仮設避難所の須山地区研修センターに避難した。別地域の住民も区単位で避難の手段、方法などの情報を共有した。
訓練に参加した団体職員横山仁さん(43)は「さまざまな噴火パターンがあると理解することが、避難時の落ち着いた判断、行動につながると感じた」と話した。
市などはドローンを活用した傷病者の捜索手順を確認したほか、自衛隊の装甲車で残留者の救助なども実施した。山本泰男市危機管理調整監は、自治会がない別荘地への情報伝達や、県防災アプリを活用した情報収集の周知などを課題に挙げ、「別荘地の管理事務所と連携し、避難の道筋を示す必要がある」と指摘した。
■別荘地 情報伝達で課題 自治会ない十里木
富士山の噴火を想定し裾野市が17日に行った避難訓練では、住民への情報伝達のあり方や訓練の重要性など多くの課題が浮かんだ。
訓練に参加した十里木地区は、早ければ2時間以内に溶岩流が到達するとされる。ただ、別荘地で自治会が存在せず噴火時やその兆候が表れた非常時に避難に関する情報をどう伝えるかが懸念材料として判明した。市が手配したバス3台で住民を避難させたが、実際の噴火時には避難する一般車両で渋滞が発生しバスが巻き込まれる可能性もある。
「今回は事前に周知していたので混乱なくできたが、課題は多い」と市の担当者。
ハザードマップ改訂を受け県は2021年度、同市を含む関係10市町は22年度以降にそれぞれの避難計画を改める。早期避難が必要な範囲や対象者数、避難方法などが大きく変わる見通しだ。県危機管理部の担当者は「計画改定の過渡期にあるので、周知が難しい面はあるが、まずは改訂されたハザードマップや現行の避難計画を住民に知らせ、新しい計画ができたらそれに基づき訓練を繰り返してほしい」と話す。
〈2021.10.18 あなたの静岡新聞〉
3月にマップ改訂 被害想定は静岡県内10市町に拡大
静岡、山梨、神奈川県などでつくる富士山火山防災対策協議会は26日(※2021年3月)、富士山の噴火被害を想定したハザードマップ(危険予測図)の改定版を公表した。大規模噴火のシミュレーションでは、新たに富士川沿いの静岡市清水区や沼津市、清水町に溶岩流が到達するなど、静岡県内では計10市町に災害が広がる可能性を明示した。同協議会はマップの改定に伴い2021年度、3県の状況を踏まえた噴火時の広域避難計画の見直しに入る。

大規模噴火の溶岩流は、過去5600年間で最大規模の貞観噴火(864年)を基に、想定される流出量をこれまでの7億立方メートルから13億立方メートルに増やした。新たに確認された火口(噴火の痕跡)を考慮し、中・小規模噴火のケースを含め、前回マップの約5倍となる計252地点を設定して計算した結果、2時間以内に富士宮市の市街地や御殿場市の郊外にまで流れ込み、1日以内に裾野市や富士市の市街地に達した。
最終的には同市の駿河湾まで届いたほか、富士川河口の静岡市清水区や黄瀬川下流の沼津市、清水町にまで延伸。新たに溶岩流が届く想定の2市1町は、活動火山対策特別措置法(活火山法)に基づく火山災害警戒地域に指定される。
融雪型火山泥流は、火砕流の噴出量を240万立方メートルから1千万立方メートルに変更した。改定前の3倍となる55地点で推定到達時間や危険度などをシミュレーションしたところ、御殿場市や小山町の庁舎に短時間で流れ着いたり、富士市内の東名高速道路やJR東海道線を超えて海にまで達したりした。
同協議会では今後、富士山火山広域避難計画を改定し、避難が必要な範囲や避難対象者についての見直しを行うとともに、関係市町も順次、個別の避難計画を策定する。
富士山ハザードマップ 富士山の噴火に備え、想定される火口範囲や溶岩流、火砕流などの災害到達エリアを示した危険予測図。国や静岡、山梨、神奈川3県と有識者らで構成する協議会が2004年6月に策定し、新たな科学的知見を反映するため21年3月に初めて改定した。行政が避難計画を策定する際の基礎資料となる。
〈2021.3.26 静岡新聞朝刊〉
富士山噴火 「自分ごとに落とし込んで」

今回の改定のきっかけは、最近の調査・研究によって、噴火可能性のある火口がこれまでの想定よりも市街地に近い場所に確認されたことである。また、富士山での最大級の噴火とみなされてきた貞観噴火が想定の2倍近い規模であることも分かった。このため、想定火口範囲を見直すとともに、計算機シミュレーションをやり直し、様々な噴火現象の影響範囲を調べた。
実際の噴火では、想定範囲のどこに火口が開くかによって、また規模によって、溶岩流の経路や到達点・到達時間は変わる。現実にはまれな最大規模の噴火も想定してシミュレーションしたのは、どういう事態が生じても対応できる方策を考えておくためである。
行政は今後このハザードマップをもとに、さまざまな条件を想定した上で、広域避難計画や各地の防災計画を見直すことになる。気象庁や研究機関は観測機器を展開し、噴火の前兆を捉えようとしている。しかし、富士山に特徴的な粘り気の少ない玄武岩マグマの場合、明確な前兆をつかんでから噴火までは、数時間から数日程度と思ったほうがよい。
住民の皆さんには、このハザードマップを眺めて、噴火によってどんな現象があるか、規模が違うと影響の及ぶ範囲はどのように異なるか、自分に影響が生じる噴火はどの部分に火口ができる場合なのかなどを考えてほしい。火山災害から身を守る最良の方策は各人が噴火現象について正しい知識を持っていることだからである。
〈2021.3.26 静岡新聞朝刊〉
どう活用すれば? 「噴火前避難」徹底が鍵
世界遺産の懐に抱かれた高原都市、御殿場市。中心部の市役所から西側を見渡すと、立ち並ぶ家屋の先に雄大な霊峰がそびえ立つ。その美しい景観は、すぐ身近に火山があることを物語っている。

従来のハザードマップでは大まかに、市の大半が「火山泥流が到達する可能性がある範囲」とされていた。最新の知見で行った改定版では、尾根になって流れ込まない区域などを対象範囲から除外。到達までの時間や危険度も明らかになったことで「市民に避難の必要性をより説明しやすくなった」と捉える。
市街地の大半は火山泥流の最大水深が20センチ未満とされ、十分な注意をした上での徒歩避難が可能とされる。それでも、短時間で到達するため、引き続き市民に事前避難の重要性を周知する。噴火警報が発表された際は、家屋の2階以上や周辺の堅固な建物に避難するよう呼び掛ける。
市は2021年度、融雪型火山泥流や溶岩流などの影響範囲を伝える市の富士山火山防災マップを改定する。毎年行う富士山噴火を想定した避難訓練にも、新たに得られた知見を反映させるという。
融雪型火山泥流は鮎沢川などを下り、小山町役場にも最短17分で到達するとされる。町危機管理局の永井利弘防災専門監は「(発生時の)組織的避難は時間的に厳しい。流域に絶対に近づくなと無線で警告することしかできない」と話す。御殿場市と同様、事前周知が欠かせないとの認識だ。
ただ、「17分」は積雪期に町に近い火口で噴火する「最悪のケース」。数字が独り歩きし、住民の不安をあおらないよう注意を払う。火口位置や噴火規模、噴火の時期によって想定される状況を丁寧に伝えて「正しく恐れてもらうのが大切」と強調する。
融雪型火山泥流 富士山の斜面に積もった雪が火砕流などによって解け、土石を取り込み泥流となって流れる現象。流下速度は時速数十キロとされる。今回のハザードマップ改定では最新の調査研究結果を踏まえ、シミュレーションに用いる火砕流の噴出規模を240万立方メートルから1000万立方メートルに見直した。起点となる地点を従来の約3倍の55地点設けたり、地形を細かく反映したりした結果、従来よりも到達する可能性のある距離が遠方まで伸びた。富士川や潤井川を流れ、駿河湾に届く可能性もあるとされる。
〈2021.3.28 静岡新聞朝刊 連載「富士山噴火への備え」㊥〉