34年の歴史に幕 ホテル九重振り返る
浜松市西区舘山寺町の高級旅館「ホテル九重」が10月末で営業を終了します。浜名湖エリアの観光業をけん引してきた地域のシンボル的存在が34年の歴史に幕を下ろします。惜別の思いを込め、振り返ります。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉
コロナ影響 建物は解体、跡地利用未定
遠州鉄道は15日の取締役会で、グループの遠鉄観光開発が運営する浜松市西区舘山寺町の高級旅館「ホテル九重」の営業を10月で終了することを決めた。1987年の開業以来、団体客を中心に全国から集客し、浜名湖エリアの観光をけん引した。老朽化した建物は11月から約2年をかけて解体するが、跡地利用策は未定。コロナ禍からの巻き返しを図る舘山寺地区の観光関係者にとって、象徴とも言える施設の閉鎖は大きな痛手となる。

コロナ禍前の従業員約150人はグループ内で配置転換済みという。
浜名湖畔にある同ホテルは10階建て86室で、総工費約100億円。高級和風旅館のコンセプトで高い知名度を誇り、開業以来、約255万人が宿泊した。売上高40億円を達成した1991年度をピークに、団体旅行から個人旅行へのシフトに伴って来客数は徐々に減少した。2006年度に20億円規模の館内改修で挽回を図ったが、19年度は売上高18億円と開業初年度を除いて最も落ち込んだ。
遠鉄観光開発の河合正志社長は「施設が大規模で個人向けには一気に切り替えられなかった」と述べた。
舘山寺温泉観光協会によると、平成に入った1989年以降、舘山寺温泉街で大型宿泊施設の閉鎖は初めて。
〈2021.10.16 あなたの静岡新聞〉
地元に衝撃... 落胆、惜別
浜松市や浜名湖の観光をけん引し、舘山寺温泉街のシンボル的存在だった高級旅館「ホテル九重」(同市西区)の営業終了が発表された15日、地元に衝撃が広がった。コロナ禍で昨春から休業状態だっただけに、観光や飲食関係者からは「やはり閉鎖か」との落胆とともに、昭和のバブル期などにぎわった時代を懐かしみ、残念がる声も聞かれた。

「大変残念だ」と語るのは、1919年創業で地区最古の歴史を持つ旅館「山水館欣龍」の新村有司社長(45)。87年に山水館の向かいに開業した九重は高級和風旅館の風格があり、囲碁の碁聖戦の対局場になったほか、皇族や著名人も立ち寄った。「九重がリーダーシップを発揮してくれたから頑張れた」と話す一方、休館中の九重敷地内に続く入り口に設置されたバリケードや、今後の九重を巡って飛び交うさまざまなうわさが舘山寺のイメージを損ねないかと心配していたという。「解体が決まり、すっきりした気持ちもある」と明かす。
跡地を売却せずに活用を検討するとした遠鉄の方針に、舘山寺温泉観光協会の佐藤英年専務理事(81)は「コロナが落ち着き、時が来たら観光に生かしてくれるだろう」と期待を込めた。協会は、湖を挟んで九重の向かいにそびえる大草山(標高113メートル)の整備に取り組んでいる。「一等地を再び利用してもらえるよう振興に努めたい」と語った。
一方、別の地元関係者からは「1年半も休館した上で跡地を更地にするだけでは困る。遠鉄には今後の方針を早く示してほしい」との苦言も聞かれた。
〈2021.10.16 あなたの静岡新聞〉
舘山寺地区の魅力振り返ります
■「足湯」でほっと一息/浜名湖産の佃煮に舌鼓

▼絵馬に願い
温泉街を進んだ半島の先端、舘山(たてやま)の中腹に舘山寺がある。約千二百年前、弘法大師によって開かれた曹洞宗の禅寺。名前の通り「舘山寺温泉」の由来となった寺だ。本堂の隣のお堂に、たくさんの絵馬に埋もれるように地蔵がまつられていた。

裏には良縁を望む男女の願いのほか、二人でロースクールを目指すカップルの誓い、子供の幸せを祈る親心にあふれた絵馬もある。温かい気持ちになった。
舘山寺松山穏し湖を来て
ここは小春の入江さざなみ

温泉街の通りは、平日の昼間とあって人通りも少ない。閑散とした印象は否めないが、街角に店を構える佃煮の老舗「まるとう」は観光客が絶えない。浜名湖産の小ハゼ、セイゴをはじめ、三十種類以上の魚介を佃煮や甘露煮にして販売している。



囲碁棋聖戦の舞台にも
井山裕太碁聖に村川大介八段が挑戦する静岡新聞創刊75周年・SBS開局65周年記念事業「第41期碁聖戦5番勝負第1局」の大盤解説が25日、対局会場の浜松市西区のホテル九重で行われた。

浜松市北区細江町の鵜飼重夫さん(81)は「井山さんの碁を楽しみに来た。解説も丁寧で分かりやすい」と述べ、妻の登志枝さん(80)と最前列で盤上の攻防を見守った。
熱戦の末、井山碁聖の勝利が決まると、会場からはどよめきが起こった。最後まで観戦した浜松市中区の請井一義さん(67)は「井山碁聖が負けると思ったが、やはり粘り強い」と感想を語った。
〈2016.06.26 静岡新聞朝刊〉※表記、肩書きは掲載日時点