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浜松市の区再編 最終案に向け課題は

 焦点となっていた天竜区を、単独で残す3案に絞り込まれた浜松市の行政区再編。区割り案を現行7区の住民代表に説明する中間報告が始まりました。住民からは区役所の位置を巡って意見が相次いでいて、最終案の内定に向けた意見集約のハードルは高そうです。直近の動きや課題をまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉

「区役所の位置」に疑問集中

 行政区再編を協議する浜松市議会特別委員会と市が15日、「中間報告」として開いた西区自治会連合会(自治連)向けの意見交換会は、出席者から区役所の位置の決め方に疑問が集中した。西区と北区の一部を統合する区割り案が採用された場合、区役所をどちらへ置くか、市と市議会自民党会派で考え方が割れているためで、自民会派案への反発や「北区とのしこりが残るくらいなら(天竜区以外の6区を統合する)2区案がいい」との意見が複数出た。

行政区再編の区割り案について意見交換する西区自治連の役員と市、市議会の代表者=15日午前、浜松市西区役所
行政区再編の区割り案について意見交換する西区自治連の役員と市、市議会の代表者=15日午前、浜松市西区役所
 特別委と市が今回提示したのは現行7区を2~4区に再編する3通りの区割り案。区役所の位置は、市が「人口が最多の区に配置」、自民会派は「交通アクセスなどから総合的に勘案」と考え方に差があり、市の案なら西区側に、自民会派案なら北区側に区役所が置かれることになる。
 入野地区自治連の山田渉会長は自民会派案が検討に載った経緯自体に疑問を呈し、「総合的に勘案、と言われても納得しがたい」と述べた。出席者8人のうち半数以上が現西区役所の存続や説得力ある決め方を求めた。
 終了後、特別委の高林修委員長は「意見を重く受け止める。協議を重ねて答えを導きたい」と話した。中間報告は10月14日まで市内で14回開催する。

〈2021.09.16 あなたの静岡新聞〉

自民党浜松は「人口以外も考慮」提案

 浜松市の行政区再編を協議する市議会特別委員会が14日(※7月)、市役所で開かれた。区再編後の区役所の位置について、最大会派の自民党浜松は複数区を統合する場合、最も人口が多い区に置くとした市当局案に対し、地理的バランスや交通アクセスなども考慮して決めるべきと提案した。ただ、他会派から異論も出て、結論は次回以降に持ち越した。

浜松市役所
浜松市役所
 自民党浜松の委員は具体例として、特別委がたたき台として選定した区割り6案のうち、西区と北区の統合を含む案では人口比で新区役所を現在の西区役所にすると立地が区域の中でも南部になる点を指摘。新区域の中央付近にある北区役所の方が適当とした。東区と浜北区を統合する場合は、同市の副都心に位置する浜北区役所が望ましいなどとした。
 他会派の委員からは「区役所の位置を当局案と逆にしても、課題解消につながるのか」など慎重な意見が出た。市側は「委員会討議で、新たに統一的な基準を設けてほしい」と要望した。
 このほか、鈴木伸幸副市長は市側が天竜区単独案での再編の場合、同区役所に市内すべての区に関する事項を専任で所管する副市長の配置を提案していることについて、予算や人事などで副市長が区政に一層指導力を発揮できるとの見解を示した。

〈2021.07.15 あなたの静岡新聞〉

年内に最終1案内定→来年5月決定

 浜松市の行政区再編を検討する市議会特別委員会は31日(※8月)、区割りのたたき台6案のうち、天竜区を現行のまま残した上で現7区を2~4区に減らす「天竜区単独案」の3案に候補を絞った。2月段階で13あった区割り案は3案に絞り込まれ、年内の最終1案内定に向けて前進した。

行政区再編の「天竜区単独」3案と人口分布
行政区再編の「天竜区単独」3案と人口分布
 特別委の会合では、主要5会派のうちの自民党浜松、創造浜松、市民クラブ、共産党市議団が天竜区単独案を支持した。創造浜松には天竜区と他区を統合する「複合案」を支持する議員もいたが、「天竜区の将来ビジョンを行政と住民で検討すること」などを求めた上で単独案に賛成した。
 複合案を会派として唯一支持した公明党は、天竜区の公共交通の脆弱(ぜいじゃく)さや土砂災害多発などの地域特性を踏まえ、市に「住民と協働して独自の制度づくりに努めてほしい」と注文した。市が応じる姿勢を示したため、単独案採用を了承した。
 特別委は9、10月、市内の区自治会連合会などに説明会を開き、天竜区単独案で区再編を目指すことを報告する。特別委の高林修委員長は「今後の市の施策は全市一律の平等性より、地域性を考慮していく必要があることを伝えたい」と述べた。
 区割りは来年5月に最終決定し、2023年の市議会2月定例会で条例制定を目指す。

〈2021.09.01 あなたの静岡新聞〉
 

あるべき再編像は 天竜区自治会連合会長インタビュー

 浜松市の行政区再編で焦点となっている天竜区の自治会連合会長として、5月に同区を現行のまま残す「単独案」で再編を進めるよう求める要望書を、市長と市議会議長に提出した。再編議論の方向性や地域課題を聞いた。

三室正夫氏
三室正夫氏
 -要望書を出した意図は。
 「2019年の区再編の是非を巡る住民投票で、天竜区は反対が6割を越えた。住民の意思は基本的にこの数字にあると思っている。ただ、市議会での議論の結果、区割りのたたき台の6案が出されたいま、最も区民の意思を反映し得るであろう単独の要望を出した。他区自治会からも『天竜区の扱いはどうなるのか』という問い合わせが多く、関心の高さを感じていた。区の立ち位置を明確にしたいと考えた」
 -天竜区の現状は。
 「私の住む龍山町は、旧龍山村時代の最盛期に1万人以上が住んでいたが、現在は500人ほどになった。佐久間、水窪でも市町村合併以降、人口が半減している。この危機的な状況は簡単に好転できない。むしろ維持ができるかどうかが課題となっている。ここに市内他地区との特性の違いがある。災害による道路の不通も、地域力の低下を加速させる不安材料」
 -再編によるサービス低下の懸念をどう考えるか。
 「住民サービスという言葉が何を意味しているのかを考えるべき。窓口業務だけの問題であれば、それほど変化はないはず。重要なのは、行政と住民が密接に関係できる体制があるか。合併後、旧5市町村の役所が市の出先機関になり、行政と住民との関係が希薄になった。この課題の改善は、市民協働の実現に向けても不可欠。再編議論では、サービスの中身について具体的な話を深めてほしい」
 -あるべき再編像は。
 「議会が強調しているように、各区には地域特性がある。再編を通じ、特色を生かせるような行政づくりを求めたい。要望書でも示した通り、天竜区単独の場合には専任の副市長を置き、問題解決や特色を生かした施策の実現につなげたい。私も区長として、疲弊していく天竜区を見てきた。課題解決が容易ではないのは痛感している。ただ、この再編がそうした現状を少しでも改善する機会になるように働き掛けたい」

 みむろ・まさお 1975年、旧天竜市役所入庁。市町村合併後、浜松市職員。2012年に天竜区長に。20年4月から天竜区自治会連合会長。69歳。

〈2021.07.04 あなたの静岡新聞〉
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