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熱海土石流盛り土  実態明らかに

 熱海市伊豆山の大規模土石流で、被害を拡大させたとされる盛り土。静岡県の調査などからずさんな工事の実態が明らかになってきました。盛り土の工事について、新たに分かってきたことをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉
 ⇒県の公開写真を基に盛り土の経緯をまとめた記事も、こちらからぜひご覧ください。

実態は「残土捨て場」 排水設備も確認されず

 熱海市伊豆山の大規模土石流を巡り、静岡県は7日、発生原因を調べる検証委員会の初会合を県庁で開き、崩落した盛り土が造成された当時に撮影した写真を公開した上で、盛り土部分に関し、実態としては建設残土が捨てられた残土処理場だったとの見解を示した。現地調査の結果、盛り土部分に土砂災害を防ぐ排水設備は確認できなかったと報告した。

県が2009年10月に盛り土の造成状況を撮影した写真。土砂が盛り土上部から捨てられていたとみられる(県の作成資料より抜粋)
県が2009年10月に盛り土の造成状況を撮影した写真。土砂が盛り土上部から捨てられていたとみられる(県の作成資料より抜粋)
 会合で難波喬司副知事は、県熱海土木事務所が2009年10月、逢初(あいぞめ)川河口部で濁りが報告されたことを受けて盛り土部分を調査したと説明し、「(当時)ずさんな方法で工事が行われ、表土が流れていた」と述べた。
 県によると、09年12月には盛り土をセメントで補強したと業者から県や市に報告があった。業者は崩落した盛り土が造成される前の07年4月、石や丸太を使った土留めを設置していたが、県の土石流発生後の現地調査では県土採取等規制条例で求められる排水設備は確認できず、小さな穴が開いた排水管の一部が見つかっただけだった。
 難波副知事は会合後の記者会見で、県の出先機関の対応状況から「土砂が捨てられた後、盛り土風に整形したのが実態ではないか」との見方を示す一方、土地所有者が変わった11年2月以降について「行政指導がされていなかったのか、したけれども資料がないのか、まだ確認できていない」と事実関係を精査中だと説明した。
 同検証委は地盤工学や砂防、土木の専門家が、県による発生原因の調査方法やその結果について検証し、来年1月をめどに調査報告書をまとめる。初会合では流域外から地下水が流れ込んだ可能性も指摘し、盛り土付近の地質調査の箇所数を増やすよう求めた。
〈2021.9.8 あなたの静岡新聞〉

基準超えるフッ素が検出 副知事「固化剤混ぜた可能性」

 熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川流域で発生した大規模土石流を巡り、静岡県は12日(※8月)、起点付近で崩れ残った盛り土とみられる土砂と中下流域に堆積した土砂に、土壌汚染対策法の基準を上回るフッ素が含まれていたとする調査結果を明らかにした。健康に影響を及ぼす水準ではないという。記者会見した難波喬司副知事は、不適切な工法の盛り土を安定化させるためにフッ素を含んだ固化剤が使われた可能性があるとの見解を示した。

 河口から800メートル上流にかけての中下流域4カ所の調査地点で、フッ素の土壌溶出量が1リットル当たり1・4~1・6ミリグラムとなり、0・8ミリグラムの基準を上回った。県は「飲料水として長年または一度に大量に摂取しない限り健康被害を起こさない」とした。フッ素を含む土砂は、市内の仮置き場で流出防止策を講じて一時保管した上で最終処分場に運ぶ。
 崩れ残った盛り土とみられる部分からも一定濃度のフッ素が検出された。土砂の強度を高める固化剤に含まれていたとみられるが、盛り土は届け出の3倍を超える高さに積み上げられていた疑いがあり、固化剤だけで盛り土を安全な状態に強化できないという。難波副知事は「表面が崩れないように固化剤を混ぜたのではないか」と推測。盛り土崩落のメカニズムの究明過程で固化剤の影響を検討する方針を示した。
 県は7月8日と同29日に流域9カ所で土砂を採取し、土対法で特定有害物質に指定された26種類の物質を調べた。フッ素以外のカドミウムや水銀、ヒ素などの重金属類は不検出か基準値以下だった。
〈2021.8.13 あなたの静岡新聞〉

盛り土高さ、届け出の3倍超 業者、産廃で是正指導も

 熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流の最上部で崩落した盛り土について、2010年以降、市に提出した届け出の3倍を超える高さにかさ上げされた疑いが7日(※7月)、静岡県の調査で明らかになった。推定される崩落時の盛り土の高さは50メートル。県などによると、当初施工した小田原市の不動産管理会社(清算)は09年に盛り土の高さを15メートルとする計画を市に届け出ていた。

盛り土付近が大きく崩落した大規模土石流の最上部=7日午後、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
盛り土付近が大きく崩落した大規模土石流の最上部=7日午後、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 静岡県土採取等規制条例で定められた高さの基準は「原則15メートル」で、県は不適正な盛り土の工法が被害を拡大させたとみている。
 難波喬司副知事が県庁で記者会見し、11年2月までの関係書類などを調べた内容を明らかにした。
 不動産管理会社が県条例に基づき09年12月に市に提出した届け出によると、施工面積は0・9696ヘクタール、盛り土量は3万6641立方メートル、高さは15メートル。棚田状に3段にする計画だった。
 一方、県が20年1月の地形データと国土交通省が取得した10年1月の地形データを比較したところ、盛り土の高さは50メートル、量は約5万4千立方メートルと推定され、段数は12段程度。今回の土石流で大半の約5万立方メートルが崩落したとみられる。
 県によると、同社は10年8月に工事がおおむね完了したと市に報告したが、その際、盛り土の中に産業廃棄物の木くずの混入を確認したため県と市が撤去を指導。また、市は工事が終わっているはずの時期に土砂の搬入が確認されたため、同9月に工事の中止と完了届の提出を要請したが、11年2月に土地所有者が同社から現所有者に変わり、以降は完了届を確認できていないという。
 県は11年2月以降に届け出を提出せずに土地が改変された可能性もあるとみて調査を進める。
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 現所有者代理人の河合弘之弁護士は取材に「不動産業者から売り込みがあった。土地購入後に(盛り土を含め)工事をしたことは一切ない。欠陥土地を買わされたと思っている」とコメントした。
〈2021.7.8 あなたの静岡新聞〉

盛り土崩壊5万立方メートル 被害拡大させた可能性

 熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流について、静岡県は4日(※7月)、土石流の起点となった逢初川の上部で、開発行為に伴う盛り土の崩落が確認されたと明らかにした。崩れた盛り土は約5万立方メートルと推定され、周辺を含めると約10万立方メートルの土砂が流れ下ったとみている。盛り土の存在が土石流の被害拡大につながった可能性もあるとみて今後、開発行為の経緯を含めた原因の調査を進める方針。

土石流最上部の盛り土が崩落したとみられる箇所=3日午後、熱海市伊豆山(静岡県がドローンで撮影)
土石流最上部の盛り土が崩落したとみられる箇所=3日午後、熱海市伊豆山(静岡県がドローンで撮影)
 盛り土が確認されたのは逢初川河口から約2キロの標高390メートル地点。逢初川の起点より約400メートル西側で、盛り土前に谷になっていた地形の最奥に当たる。県が昨年取得した地形の電子データと2010年頃の国土交通省のデータを比較したところ、長さ約200メートル、幅約60メートルの盛り土が分かった。
 県によると、土石流の最初の起点が盛り土だったのか、盛り土より下流側の崩落が盛り土の崩落を誘発したのかは現時点で分かっていない。崩れた盛り土の上部には車両が通行できる道が整備されていたが、開発行為の目的や時期も明らかになっていない。
 県土採取等規制条例は面積千平方メートル以上、体積2千立方メートル以上の土地改変を行う場合、県に届け出をするように定めている。ただ、全国一律で盛り土を規制する法律はないため県内の自治体が国に整備を要請していた。
 川勝平太知事は同日、ウェブ開催された全国知事会の広域災害対策本部会議で「雨が直接的な要因であり、開発と因果関係は明確ではないが、今後検証したい。防災の専門家の意見ももらい、全国知事会としても何らかの開発制限について国への提言など対応の強化が必要」と述べた。
〈2021.7.5 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞