母子の命どう守る 静岡県内の現場は
千葉県で新型コロナウイルスに感染した妊婦が自宅療養中に早産し、赤ちゃんが亡くなりました。痛ましい事案を受け、静岡県内でも現場の医師らが対応を懸命に模索しています。また、ワクチンをまだ接種できなかったり、接種に不安を抱えたりする妊産婦さんもいることでしょう。県内の接種態勢や医療現場の状況をまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉
感染妊婦の対応 医師ら模索 仕組み作りも
千葉県で新型コロナウイルスに感染した妊婦が自宅療養中に早産して赤ちゃんが死亡した問題は、静岡県の妊婦にとっても「人ごとではない」(静岡市葵区の妊娠9カ月の女性)と衝撃を与えた。県内でも感染者が急増してコロナ病床が逼迫(ひっぱく)する中で、母体と胎児の命をどう守るのか。現場の医師らは模索を続けている。
新型コロナに感染した妊婦の支援に当たる浜松医療センター(浜松市中区)の芹沢麻里子医師が実情を語る。同市では妊婦が無症状なら自宅療養し、症状があれば入院する。8月下旬からほぼ1日1人のペースで入院が続いていて、迅速な病床確保のため、保健所と総合病院の間で情報を共有するアプリの運用を始めた。自宅療養中に下腹部痛など産科的な症状が出た場合は、かかりつけの産院や助産院が診察する。
静岡市は中等症以上か妊娠10カ月の妊婦が入院の対象となる。自宅療養中の妊婦には、総合病院の助産師が電話で「産科的な健康観察」を行う仕組みをつくった。妊婦特有の症状や悩みに助言し、必要な時には速やかに入院を受け入れる。
調整役の市川義一医師(静岡赤十字病院)は「妊娠中にPCR検査を受けたら、結果を待たずかかりつけの産院や助産院に必ず電話を入れて」と呼び掛ける。各地の調整役の医師に情報が入り、病床確保や療養支援に向けた初動が早まる。
一方、県東部で調整役を担う村林督夫医師(沼津市立病院)は地域に周産期や新型コロナに対応する病床が少なく、各地の保健所も複数の市町を管轄するため「政令市のような仕組みはできず、情報共有の徹底は難しい」と打ち明ける。周産期の医療機関は平時から互いに顔の見える関係ができているとして「千葉のような事案は起きないはずだ」と強調するものの、「現状の感染者の増加は災害レベルということも事実」と警戒を緩めない。
政令市以外の妊婦の対応について、県新型コロナ対策課は「保健所と産科医療機関が連携して、感染した妊婦の情報把握に努めている。一般の感染者と同様、必要な時に必要な医療につなげられるよう引き続き努力する」としている。
〈2021.09.01 あなたの静岡新聞〉
妊婦優先接種の動き 静岡県内でも加速
千葉県柏市で新型コロナウイルスに感染した妊婦の搬送先が見つからず自宅で早産し、赤ちゃんが死亡した問題を受け、県内自治体では妊婦を対象にワクチンを優先接種する動きが加速している。妊婦の間には歓迎の声がある一方、副反応や胎児への影響を不安視し「受けたくない」との声も。産科医は「肺炎が長期化すれば胎児の発達への影響も懸念される」と積極的な接種を訴える。
本人のほかパートナーや同居家族を対象に含む自治体もあり、日程が決まっている集団接種に優先枠を追加するなどして実施を急ぐ。既に接種券を送付済みの自治体でも、接種を促す案内を重ねて送るなどの対応を取る。
9月末に第2子を出産予定の藤枝市の女性(39)は、市から優先接種の案内を受け取り、夫とともに接種する意向。「妊娠後期は重症化しやすいと聞いて不安だった」と歓迎する。静岡市葵区の妊娠中期の女性(31)も「子どもと自分の体を守りたい」と早期接種を希望する。
一方で、9月末に出産を控える同市葵区の女性(36)は「感染は不安だが、子どもがおなかにいる時に副反応で高熱が出るのは心配」と産後まで接種を見送るという。小山町の妊娠初期の女性(33)も「子どもへの長期的な影響が不安」と接種しない考えだ。
県によると、県内の妊婦の感染は一般の感染増とともに増加傾向にある。医療関係者によると、ほとんどは夫や子どもからの家庭内感染で、家族で自宅療養になるケースも増えている。
かかりつけ医として自宅療養中の妊婦の経過観察を行うくさなぎマタニティクリニック(静岡市駿河区)の大橋涼太院長は、妊娠中に感染した場合の重症化や早産のリスクに加え、「肺炎を起こして低酸素血症の状態が長引けば、胎児の成長への影響も否定できない」とし、優先接種の機会を逃さないでほしいと訴える。
〈2021.08.28 あなたの静岡新聞 ※8月27日時点のまとめです〉
静岡市では8日から優先接種始まる 同居家族も対象
静岡市は8日、妊婦とその同居家族を対象にした新型コロナウイルスワクチンの優先接種を葵区の静岡モディでスタートした。初日は事前予約していた約280人が接種した。
市によると、同日時点で妊婦と同居家族約1700人の予約を受け付けた。妊婦のワクチン優先接種枠は約3200人分確保していて、引き続き申し込みを受け付けている。
9日からは受験生を対象にした接種を始める。田辺信宏市長は「国や県に比べて接種が遅れている。とにかく接種率を上げることに全力を尽くしたい」と話した。
〈2021.09.09 あなたの静岡新聞〉
接種の不安に答えます Q&A集を制作 産婦人科医団体
「妊娠中の接種は大丈夫?」「接種して不妊にならない?」。新型コロナウイルスのワクチン接種について妊産婦や女性が抱える不安や疑問に対し、静岡県内の産婦人科医でつくる県産婦人科医会・静岡産科婦人科学会が17日までに、15項目のQ&A集を制作し、ホームページで公開を始めた。誤情報も出回る中、ワクチンについて正しく理解してもらうのが狙い。不妊のリスクや胎児への悪影響は確認されていないとして、同会は積極的な接種を呼び掛けている。
ワクチンで不妊になる可能性については、「科学的な根拠は全くありません」と明示した。妊娠率や赤ちゃんの数に差がなかったとするラットを使った実験結果や、ワクチンの臨床試験中に妊娠した人がいたことを挙げた。妊娠中の接種についても「大丈夫」とし、妊婦と胎児の双方を守る効果があると説く。発熱の副反応には、アセトアミノフェンの服用が可能という。
新型コロナウイルスに感染した妊婦の対応に当たる浜松医療センター産婦人科の芹沢麻里子医師によると、デルタ株の流行で妊婦の患者も増えている。妊娠中の感染は早産の危険性が高まるほか、妊娠後期では重症化しやすい。出産間近の場合は帝王切開によるお産や母子隔離などの措置が必要になり、心身の負担も大きいという。
芹沢医師はワクチン接種が任意であることを前置きした上で「副反応や合併症の危険性よりも、感染時のリスクの方が大きい」と強調。「Q&Aを見て、安心して接種してほしい」と話す。
〈2021.08.18 あなたの静岡新聞〉