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〈 熱海土石流 復興一歩ずつ 〉

 大規模土石流に見舞われ、被災した熱海市伊豆山の店舗や事業所が少しずつ活動を再開しています。ボランティアの存在も復興を支えています。発生から間もなく2カ月。日常を取り戻そうと奮闘する住民らの姿を追いました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉

復興願い123(いずさん)号 介護タクシー会社、新車両導入

 大規模な土石流で福祉車両が被災した熱海市伊豆山の介護タクシー会社「伊豆おはな」がこのほど、新しい車両を導入した。ナンバーは「いずさん」の語呂合わせで「123」。復興への思いを乗せて地域を走る。

伊豆おはなの新しいタクシー。ナンバーは伊豆山の復興を願い「123」とした=熱海市伊豆山
伊豆おはなの新しいタクシー。ナンバーは伊豆山の復興を願い「123」とした=熱海市伊豆山
 同社は土石流の現場付近に事務所を構え、車両3台を所有している。発生当時、社長の河瀬豊さん(51)と妻の愛美さん(45)はこのうち2台を使って逃げ遅れた近所の高齢者らの避難を手伝った。
 残り1台は事務所から約200メートル離れた駐車場にあり、土砂に押し流された。修理する選択肢もあったが、ブレーキ回りに泥が侵入したため廃車を決断した。市内は坂道が多いこともあり、安全を最優先したという。
 高齢者の通院や転院、買い物などの外出支援に加え、新型コロナウイルスワクチン接種の送迎で多忙を極めていたこともあり、業務は発生2日後に再開した。しかし、車両が1台減ったために予約を断らざるを得ないケースが相次いだ。
 「仕事の依頼主は移動の補助に家族が対応できず、普通のタクシーに乗ることもできない人が大半。交通手段がない人の依頼を断るのは切なかった」と豊さん。何とか以前の3台態勢に戻そうと、業務の合間を縫って運輸局で新車両導入の手続きを済ませた。
 「ハワイが好き」という河瀬夫妻は、地元住民の避難を助けた2台の車に「オハナ(家族)」「マナ(奇跡)」とハワイ語の名前を付けている。新車両には協力や手助けを意味する「コクア」と名付けた。「伊豆山に日常が戻り、よりいい地域になっていくのを手助けする存在になれば」。そんな願いを込めている。
〈2021.08.28 あなたの静岡新聞〉

「山の上のさかなや」営業再開 サイト立ち上げ、地方発送

 熱海市の大規模土石流により臨時休業していた同市伊豆山の魚屋「魚久(うおきゅう)」がこのほど、通常営業を再開した。干物などの一部冷凍商品を扱う通販サイトを新しく立ち上げ地方配送にも取り組むなど、日常を取り戻すため一歩ずつ前に進んでいる。

地方発送にも取り組む魚久のホームページを紹介する高橋さん=熱海市伊豆山
地方発送にも取り組む魚久のホームページを紹介する高橋さん=熱海市伊豆山
 店は土砂が流れた現場から約200メートル。発生直後は通常営業再開の見通しが立たなかったが、常連客の声に押され営業を始めた。店主の高橋照幸さん(65)は「じっとしてはいられない。手探りだができることから少しずつ進めたい」と前を向く。
 1959年創業で、仕入れから仕込みまで高橋さんや息子夫婦らで切り盛りする家族経営。災害前は、鮮魚や刺し身、干物のほか総菜を販売。熱海や小田原の魚市場から仕入れた新鮮な魚を低価格で売り、地元の人や別荘で暮らす人から「山の上のさかなや」として親しまれている。
 休日は県内外から多くの予約が寄せられ、土石流の発生した7月3日は、せわしなく準備をしていた。しかし、突然の災害により停電が発生。注文客にはキャンセルをお願いし、刺し身などは避難所に運んで地域住民に食べてもらった。
 その後も家族は避難生活を余儀なくされ、高橋さんは仲道町内会の副会長として地元住民の生活確保にも奔走した。「亡くなった人は知っている人ばかりで心が痛む。当時はお店のことを考える状態では到底なかった」と振り返る。そんな時、店に届いたのは常連客から応援の声だった。「時間がかかっても良いからお中元で発送してほしい」「お店のために貢献したい」という声が寄せられた。
 店の電気や水道は復旧したが、店舗前の道路は依然として復旧車両が行き交う。そんな中、店頭で鮮魚や惣菜を少しずつ販売し始め、注文によってアジやエボダイ、サバの干物などを梱包(こんぽう)し順次発送するようになった。高橋さんは「家族で話し合って小さなことから始めると決めた。地域の人たちのためにも力を合わせ店を続けていきたい」と力を込めた。
 詳細は同店のホームページへ。
〈2021.08.28 あなたの静岡新聞〉

被災の弁当店「情報」もお届け 住民寄り添いSNS発信

 熱海市伊豆山の土石流災害に遭い、7月末に営業を再開した国道135号沿いの弁当店「喜与味」が、災害関係情報のSNS発信に力を入れている。同店の高橋一美代表(45)は発生直後から現地に残りボランティアに従事しながら、配達で蓄積した住民情報を活用し、避難者の困り事に対応している。

ボランティアに従事する傍ら、インスタグラムなどで災害関連情報を発信する高橋一美代表=熱海市伊豆山の「喜与味」(画像の一部を加工しています)
ボランティアに従事する傍ら、インスタグラムなどで災害関連情報を発信する高橋一美代表=熱海市伊豆山の「喜与味」(画像の一部を加工しています)

 同店は目の前を土石流が流れたが、家屋に一部泥が入る程度の被害で収まった。高橋代表は災害発生直後、片側車線が泥で埋まった国道135号で交通誘導している最中、逢初橋の上に土砂が流れるのを目撃した。動画を店のSNSで発信すると、地域住民やマスメディア、行政関係者から大きな反響があった。「毎日の配達で地域住民の情報は頭に入っている。発信すれば役に立つのでは」と、情報発信を続けた。
 店のインスタグラムとフェイスブックでは、道路の状態やバスの運行状況、禁止区域内でのボランティア作業など、生活支援情報を中心に掲載。避難所でもアカウントが周知され、小学校、商工会議所や青年会議所、行政関係者のグループLINEには国道付近の状況を毎朝報告した。すると「自宅に残した猫の状況を見てほしい」「窓の戸締まりを確認して」など、避難者から困り事相談が次々寄せられ、動画や画像で状況を伝えた。
 弁当店はボランティアの要望を受け、国道が復旧した7月29日に営業再開。ボランティアからは「近くにコンビニがなく、暑さで買い置きもできないのでとても助かる」と好評だ。以前は1日約500個販売していた弁当も、従業員が被災した今は約100個にとどまるが「弁当が伊豆山を発信するためのアイテムになるかも」と前向きだ。「多くの人が助けてくれたことを地元住民は忘れてはいけない。被災者だから分かることを伝え続けたい」と先を見据えた。
〈2021.08.23 あなたの静岡新聞〉
 

ボランティアの健康見守る 現場で看護師有志が「救護班」

 大規模土石流に見舞われた熱海市伊豆山で復旧支援に汗を流すボランティア。その健康を支えているのが、市災害ボランティアセンター内に編成された看護師有志でつくる「救護班」だ。8月上旬の発足以来、連日現場に同行し、熱中症や新型コロナウイルス感染の防止に奔走している。

ボランティアから体調を聞き取る看護師=熱海市伊豆山
ボランティアから体調を聞き取る看護師=熱海市伊豆山
 センターは現在、捜索活動の進捗(しんちょく)などを踏まえて活動場所を逢初(あいぞめ)川下流部の浜地区に限定している。参加者は事前登録した市民998人のうち1日20人に絞り、民家に流入した泥をかき出している。
 力仕事が中心のためボランティアは男性が優先されているものの、高温多湿の中での作業は過酷。体調悪化を防ごうと、センターは看護師の資格がある人材に協力を呼び掛けた。
 21日に現場で見守った長津広美さん(48)は「マスクに長袖長ズボンでの作業は発汗が多い上に体の熱が逃げず、気温以上に熱中症の危険が高い」と顔色などの変化に目を光らせた。
 救護班は10分ごとに休憩を取るなど時間管理も徹底し、水分と塩分の補給を促す。手洗い場では消毒用アルコールを手に爪の間の泥まで洗い流すように指導。緊急時には救急搬送の必要性の判断や応急処置なども担う。
 時には、作業に没頭しがちなボランティアのブレーキ役になることも。民家の泥だしに汗を流していた神谷修治さん(67)は「被災者の力になりたい思いが先行してしまい、気付いたら汗だく。看護師さんと話していると落ち着きを取り戻せる」と信頼を寄せる。
 救護班は7人でシフトを回し、現場に常に1人いるようにしている。センターの原盛輝副センター長は「完全復旧が見通せずボランティア活動は長期化が見込まれる。人員の拡充が急務」と話した。
〈2021.08.26 あなたの静岡新聞〉