どうなる自宅療養
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかりません。入院できない自宅療養者が静岡県内でも急増し、初めて千人を超えました。全国で自宅療養中に死亡するケースが相次ぐ中、静岡県の支援体制や医療現場の状況をまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉
自宅で急変リスク→地域の医師が診察 静岡県が体制化着手
新型コロナウイルスの流行「第5波」で急増する自宅療養患者の支援について、静岡県は医師会などと連携した診療体制の構築に着手した。看護師の電話による経過観察で急変リスクがあると確認された感染者を地域の診療所の医師が診察し、迅速に治療に切り替えられる仕組みを取り入れる。全国で自宅療養中に死亡するケースが相次ぐ中、きめ細かな対応で「救える命」が救えなくなる事態を防ぐ。

自宅療養支援は現在、県の委託を受けた県看護協会が毎日電話で健康状態を聞き取っている。血中酸素濃度が低下するなどして体調に異変の兆候がみられた場合は保健所が病院外来を受診するよう促している。
しかし病床が急激に逼迫(ひっぱく)する現状では自宅療養者の外来に対応し続けると病院の負担が増大するため、地域の医師に協力を仰ぐことにした。
新たな体制は現行の健康観察をベースにしつつ、急変、または悪化リスクがあると判断された人を診療所の医師が引き継ぐ。外来、電話、オンライン、往診のいずれかで診察や薬の処方をし、中等症の早期段階で病院治療につなげる。医療の目が行き届くことの不安軽減も狙い。県によると、13日時点で県内の医師85人が協力する意向を示している。
県健康福祉部の後藤幹生参事は「新型コロナは指定感染症のため普通の呼吸器感染症と違う枠組みで自宅療養者に対応しなければならない。新たな診療体制は本来の日常診療に近いスキームになる」と効果に期待する。
<メモ>県は新型コロナウイルスの「第5波」に対する医療体制の拡充に取り組み、自宅療養支援のほか、入院対応と宿泊療養施設のそれぞれを強化する。入院対応はさらなる病床確保を図り、病床回転率も高める。宿泊療養施設は未設置の医療圏への開設を検討している。
〈2021.08.14 あなたの静岡新聞〉
自宅療養者はオンライン診療、往診も視野 専門家会議が方針
静岡県新型コロナウイルス感染症医療専門家会議は5日夜のオンライン会合で、宿泊療養施設や自宅で経過観察するコロナ患者に対し、医師によるオンライン診療を本格導入する方針で一致した。政府が一時、「重症以外は自宅」とした入院基準については、県内は従来通り中等症も入院とすることでまとまった。

会議は非公開で行った。自宅療養者については医師会の協力を得てスマホなどを通じて問診する。宿泊療養施設も病院と連携し、県内の全6施設で同様の仕組みを目指す。現在、掛川市の施設で先行的に実施しているという。自宅療養者は往診も視野に入れる。
感染者の急増に対する備えでは、PCR検査の結果待ちなどで使用している県内の72病床を可能な限りコロナ病床に転換するほか、コロナ患者に対応していない病院に受け入れを依頼する。川勝平太知事が1日に表明した改正感染症法に基づく病床確保要請は、一般医療の制限につながる可能性があるとして当面は見送る。
〈2021.08.06 あなたの静岡新聞〉
医療現場は限界目前 ワクチン未接種世代の入院増 たらい回し危惧
静岡県内で新型コロナウイルスの感染者が急増する中、患者を受け入れる医療現場が逼迫(ひっぱく)の度合いを強めている。ワクチンを接種していない世代の入院患者が増加していて、医療関係者は状況が好転しなければ「患者の受け入れ先病院が長時間にわたり決まらない状況が生じる」と強い危機感をにじませる。

「今週中にも満床近くになることが予測される」。浜松医療センター(浜松市中区)の田島靖久感染症内科部長は、こう見通しを示す。同センターの新型コロナ入院者の病床使用率は12日、66%に達した。このまま感染者の増加が続けば受け入れがままならず、「16日以降の週には患者のたらい回しが起こり得る」と対応の限界に言及する。
藤枝市立総合病院は12日時点で、既に新型コロナ病床が満床。いずれも中等症以上を受け入れている。志太榛原地域全体の受け入れ体制も逼迫している。感染悪化が続けば「新たな患者を受け入れられず、地域外への広域搬送に頼るしかない」(同病院経営企画課)と苦悩する。
富士市立中央病院でも7月下旬ごろから入院患者数が増加。県東部の病床使用率は12日、64・7%にまで上昇した。同病院では通常医療への影響は出ていないものの、今後の状況次第では緊急を要する手術の延期や診療の一部制限なども視野に入るとの見方を示す。
いずれの医療機関でも、ワクチン未接種者が多い現役世代の入院患者が増加傾向にある。中には30代でも呼吸不全で酸素投与が必要なケースもあるという。田島部長は「日常生活を送る中で感染する感染源不明の市中感染も多数出ている」と指摘し、ワクチン接種の推進と外出の自粛を呼び掛ける。
〈2021.08.13 あなたの静岡新聞〉
中等症入院10日間で53人→93人 病床逼迫、在宅死発生を懸念
静岡県内の新型コロナウイルス入院患者のうち中等症が93人に上り、直近10日間で40人増えたことが10日までの県への取材で分かった。感染者の全体的な急増が原因。政府は入院基準を「原則中等症」とし、病床逼迫(ひっぱく)を回避する構えだが、感染拡大が続けばベッドは埋まる一方。県は「体調が急変した自宅療養者を直ちに診療できなくなる恐れがあり、『在宅死』の発生リスクが懸念される」と最大級の警戒を呼び掛ける。

県健康福祉部の後藤幹生参事は、現役世代が重症化すると「高齢者が重症化するより医療負担は増す可能性がある」と指摘する。
重症者は人工呼吸器や人工心肺装置ECMO(エクモ)で治療する。しかし、高齢者の中には終末期などで人工呼吸器の使用を望まない人がいるほか、エクモは適応に年齢上限がある。一方、現役世代はほとんどが治療を希望するため、医師、看護師ら多くの医療人材が必要になる。
県が政府方針に基づき現在、入院の過半を占める軽症者をできる限り自宅療養やホテル療養とした場合、病床使用率は20%台に改善する見込み。ただ「第5波」は感染力が強いインド由来のデルタ株への転換が急速に進み、ベッドを空けてもすぐに中等症以上患者で埋まる恐れがある。
医療負担は増大し、既に通常診療を一部制限する医療機関もあるという。後藤参事は「感染者が増え続ければ、コロナでも他の疾患でも命の選別が行われかねない。感染してから不安がる人が多いが、かからない対策を徹底してほしい」と話した。
<メモ>中等症は症状別に2段階に分けられる。息切れや肺炎の所見がある「1」と、酸素投与が必要でおぼれるような苦しさがある「2」。高齢者のワクチン接種が進み、中等症も全体の感染者と同様、未接種の50代以下が多くなっている。
〈2021.08.11 あなたの静岡新聞〉