大雨への備え いま一度見直しを
今後1週間にわたって、前線の影響で日本の広い範囲で大雨が降るとして、気象庁が警戒を呼び掛けています。静岡県も雨量が増える見込みで、河川の増水や低い土地の浸水に注意が必要です。本格的な台風シーズンも迎えます。いま一度、家庭でできる備えを見直しておきましょう。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉
リスク把握に「ハザードマップ」 家族で話し合いを
7月(※2020年)の九州豪雨をはじめ、各地で大雨や台風による浸水や土砂崩れが相次いでいる。こち女は9月16~22日、「自宅の被災リスク、知ってますか」と題し、公式LINE(ライン)の友だち登録者にアンケートを行った。防災訓練参加や備蓄をしている人は多い半面、被災リスクを示すハザードマップの内容を理解している人はおよそ半数。発災後の家族との連絡方法を決めている人は4割にとどまった。事前に家族で共有すべきことは何か。県地震防災センターのアドバイザーで気象予報士の中嶋隆さん(71)の助言から、五つのポイントを紹介する。

「ハザードマップ」は、災害ごとの危険性を示した地図を指す。地震、津波、洪水浸水、土砂崩れなど、さまざまな種類がある。ハザードマップに、避難所や医療機関などの情報を加えた地図を「防災マップ」という。
防災マップのことをハザードマップと呼ぶ市町もある。各市町が全戸配布済みだが、毎年配布するわけではないので、手元にない時は市町に問い合わせる。インターネットでも見られる。「静岡県GIS」は全種類のマップを網羅している。ただ、1級河川など大きな川の洪水浸水域は載っていないため、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」も確認する。

「静岡県GIS」も、一つ一つの住戸まで拡大表示できる
◆POINT 災害に応じた避難先を決める
自宅が被災して住めなくなった時に寝泊まりするのが「避難所」、被災を逃れるため一時的にとどまるのが「避難場所」や「避難地」。市町が指定する避難所と避難場所には、災害の種類によって利用できない所もあるため、事前に市町のウェブサイトなどで確認が必要だ。
自治会・町内会の自主防災組織(自主防)が独自に定める避難場所や避難地もある。被災リスクの低い親戚や知人の家に身を寄せる「縁故避難」という選択肢もある。
一時的な避難なら、最寄りの避難先を選べばいい。ただ、長期間過ごすことになる避難所の定員は、住民の数に対して不足しているのが現状。中嶋さんは「できるなら、事前に耐震化などの必要な対策をした上で、自宅避難や縁故避難することが望ましい」という。
自宅周辺だけでなく、勤務先や通勤、通学路を含めた普段の行動範囲のリスクを把握し、必要に応じて複数の避難先を決めておくことも勧める。
◆POINT 家族との連絡方法を決める
大規模災害が起きると、まず電話がつながらなくなる。インターネットもつながらず、外出中の家族と連絡が取れない事態に備えて、災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板「web171」の使い方を知っておきたい。自宅が被災する危険性が高い場合、避難所や避難場所、避難地を、家族との待ち合わせ場所に決めておく。
〈2020.10.2 静岡新聞朝刊〉
状況把握に便利なウェブサイトも/備蓄は1週間分を
◆POINT 台風や大雨の接近情報を確認する
中嶋さんは「いきなり使いこなすのは難しい。日頃からウェブサイトで、危険度分布や雨雲の動きを読む癖を付けてほしい」と話す。
◆POINT 1週間分の備蓄をする
中嶋さんは防災の基本として、「南海トラフ巨大地震のような大規模災害を想定して備えていれば、どんな災害が起きても対応できる」と説く。備蓄するのは、「生きるために必要な物」。最低限、食べる、飲む、排せつ-の三つに関わる物を1週間分は用意しておく。食物アレルギーのある人は、余裕を持って食料の備蓄を。薬の備蓄は難しいので、持病のある人はお薬手帳が欠かせない。
〈2020.10.2 静岡新聞朝刊〉
それぞれに「マイ・タイム・ライン」を作りましょう
大雨で発生する河川氾濫による洪水などから身を守る効果的な避難方法について、時系列で個人や家庭ごとにまとめた事前行動計画表「マイ・タイムライン」。県はモデル地区での成果などを踏まえて本年度(※2020年度)、各地への普及に向けた取り組みを加速する。市町職員らを対象にした住民向けワークショップの手引書も新たに用意し、マイ・タイムラインの作成を進めて水害時の「逃げ遅れゼロ」を図りたい考えだ。

ワークショップの手引書では、住民が①防災知識を有する講師役から地域の水害リスクを学ぶ②洪水時に得られる情報の入手手段や避難判断の方法を知る③実際にマイ・タイムラインを作成する―の3段階で理解を深める構成を掲げている。県は今後、活動主体となる市町の防災担当職員や地域の防災リーダーらに向けて手引書を使った講習も予定する。
県危機対策課の酒井浩行課長は、ワークショップ形式の普及活動について「手間は掛かるが、地域ごとに異なるリスクを知って各自の避難行動の目安を考える有効な手段」と説明。市町職員らを対象にマイ・タイムライン研修会を開いた県河川企画課の望月嘉徳課長は「地域でのコミュニケーションをきっかけに水害を『わがこと』として捉えられる」と利点を強調する。
普及に向けた取り組みを既に始めた自治体もある。静岡市は昨年12月、オリジナルのマイ・タイムライン資料を公表。市内3カ所の河川流域地区で開いた住民説明会では、想定される最大雨量(千年に1度レベル)に合わせて改定した洪水・土砂災害ハザードマップやマイ・タイムラインの活用法を解説した。
同市危機管理課の杉村晃一係長は、比較的簡単に作成できるシンプルな行動計画表を目指したとした上で「避難時の注意点や防災情報の意味など、マイ・タイムラインの作成によってハザードマップの裏面に示す内容も知ってほしい」と期待を込めた。
自治体普及 全国で2.9%
2015年の関東・東北豪雨で甚大な洪水被害を受けた茨城県常総市など、鬼怒川流域で活動が始まったマイ・タイムライン。国土交通省によると、2019年3月末時点で洪水ハザードマップを作る必要がある全国1323自治体(鬼怒川等流域を除く)のうち、マイ・タイムラインに関連する取り組みを行うのは38自治体(2・9%)にとどまるなど、広がりは緒に就いたばかりだ。
ただ、マイ・タイムラインの普及を図るシンクタンク「河川情報センター」(東京都)の鮎川一史参事は、全国各地で水災害が近年頻発していることから「自治会など地域からの問い合わせは増えている」と現状を話す。同センターのホームページ(HP)でもマイ・タイムラインの入門ツール「逃げキッド」を紹介するほか、原案を手がけた国交省下館河川事務所(茨城県)のHPでは参考動画も公表している。
〈2020.4.12 静岡新聞朝刊・夕刊〉
逃げ遅れを防止 「警戒レベル」が新しくなりました
災害時に市区町村が発令していた避難勧告を廃止し、避難指示に一本化する改正災害対策基本法が20日施行された。住民に避難を促す情報をシンプルにして逃げ遅れを減らす狙いがある。一本化に伴い、防災情報を5段階に分類した「大雨・洪水警戒レベル」も改定。梅雨前線や台風などで水害リスクが全国的に高まる時期は目前に迫っており、空振りを恐れず早めに行動することが重要だ。

見直し後の大雨・洪水警戒レベルは、災害発生の恐れが高いレベル4に勧告と指示を併記していたのを改め、指示に一本化した。市区町村は「レベル4、避難指示です」などと呼び掛け、危険な場所にいる人は全員避難する。
災害の恐れがあるレベル3は「避難準備・高齢者等避難開始」から「高齢者等避難」に簡略化した。危険度が最も高いレベル5は「災害発生情報」から「緊急安全確保」に変更。レベル5は災害が発生したか切迫している状況を示すため、危険な場所にいる人はレベル4までに避難を始めなければならない。
〈2021.5.20 静岡新聞朝刊〉