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熱海伊豆山 広がる支援の輪

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流は厚く堆積した土砂、狭い街路などが影響して捜索、復旧作業が思うようにはかどらず、避難生活の長期化が見込まれています。少しでも住民の力になれればと、民間の温かな支援が広がっています。4つの話題をまとめました。
 ※現在、二次災害の危険から一般ボランティア受け入れの見通しは立っていません。ホテルでの避難生活が実現し物資は足りていることから救援物資の受け入れも停止されています。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・鈴木美晴〉

善意1億円超 ふるさと納税での支援定着

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流への支援を目的に設立されたふるさと納税のポータルサイト大手「ふるさとチョイス」の災害支援特設ページで、熱海市への寄付が15日までに計1億3千万円を超え、発生から短期間で多額の寄付が寄せられている。2016年の熊本地震の際に注目されたふるさと納税の仕組みを使った支援が被災自治体をいち早く応援できる方法として定着し始めた。

「ふるさとチョイス」の災害支援特設ページ(15日午前9時10分時点)。熱海市への寄付が計1億3000万円を超え、応援メッセージも寄せられている
「ふるさとチョイス」の災害支援特設ページ(15日午前9時10分時点)。熱海市への寄付が計1億3000万円を超え、応援メッセージも寄せられている
 熱海市が土石流発生翌日の4日午後4時ごろに特設ページで寄付の受け付けを始めると、続々と申し込みがあり、5日夜に早くも2千万円を超えた。ツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)でページが拡散されたことや、クレジットカードで手続きが済むことが多くの寄付を集める要因となっている。
 ふるさと納税の災害支援の利点は、寄付金の集まりやすさだけではない。
 特設ページでは被災地以外の自治体が寄付金の受け付け業務を代行する「代理寄付」の仕組みが構築されている。被災地の事務負担を軽減し、住民の安全確保や復旧・復興のための業務に人員を充てることができる。2016年の熊本地震で茨城県境町がふるさとチョイスに専用ページを設けたことが先駆けとなり、これまで100を超える自治体が代理寄付の業務を引き受けた。自治体間の公助が広がっている。
 今回の熱海市への支援においても5日、茨城県境町が真っ先に代理寄付ページを開設した。同町ふるさと納税推進室の栗原千恵さんは「発生直後の方がより多くの方にご協力いただける。いち早く開設し、少しでも被災自治体の負担を減らすことで、住民のケアに時間を使ってもらえれば」と理由を語る。他に岐阜県下呂市や広島県呉市なども代理寄付のページを開設している。
 寄付には通常のふるさと納税のような特典を提供しない自治体が多い。ふるさとチョイス広報の飯田佳菜子さんは「コロナ禍でボランティアは受け入れに制限がある。それでも被災地の力になりたいという人の思いを届けられるよう努めている」と話した。
〈2021.7.15 あなたの静岡新聞〉

避難ホテル近くの商店街 飲食を無料提供

 熱海市伊豆山の避難者が滞在する熱海ニューフジヤホテル近くの銀座通り商店街で、飲食を無料提供する店舗が相次いでいる。地元住民の自主的な支援は避難者の生活を支え、心のケアにもつながっている。

地域の力になれればと客を迎える岩田悟士統括(右)=11日、熱海市渚町
地域の力になれればと客を迎える岩田悟士統括(右)=11日、熱海市渚町
 「こんな時こそ力になれれば」。ラーメン店「麺匠うえ田」の岩田悟士統括(39)は4日以降、来店した市民らに麺やご飯類を無料提供している。当初はホテルで炊き出しを考えたが、衛生面の懸念などから許可が得られず、店内サービスに切り替えた。
 店には連日、避難者がホテルから訪れる。自宅1階の一部が土砂で埋まり避難を強いられた女性(69)は「すごくおいしかった」とうれしそうな表情。ホテルでの避難生活は個別に部屋が割り振られ、朝夕の食事が出る。不自由はないが、こうした支援に「みんなが助けてくれていると感じ、前向きになれる。本当にありがたい」と喜ぶ。
 3月に開業した和栗菓子店「kiito(キイト)」はモンブランを振る舞う。カフェ「クアルト」もセルフサービスのコーヒーを提供し、災害復旧のめどが立たない中、サービスの終了時期を明確に決めず、支援を続ける。
 市は7日から、救援物資の受け入れを中断している。全国から届く大量の物資の保管が難しく、生鮮品は食中毒の危険性もあるためだ。支援者の思いを住民に届けられず歯がゆさを感じる中、市観光経済課の担当者は「進んで独自支援を行うお店に地域が救われている」と感謝する。
 和菓子店「本家ときわぎ」は6~10日まで、一口サイズのようかんを来店した避難者に配った。「来られた方は自分の生活よりも知人や友達を心配する人ばかりだった」と振り返るおかみの加藤寿美江さん(52)。支える側でありながら「地域の結び付きや思いやりを痛感し、勇気をもらった」。苦境を市民の絆で乗り越えようと、今後も違った支援を検討している。
〈2021.7.15 あなたの静岡新聞〉

ペット救出に奔走 民間団体「遠慮しないで」

 熱海市伊豆山の大規模土石流では猫や犬などのペットも被災し、避難した飼い主と離ればなれになるケースが相次いでいる。一方、捜索活動の迷惑になると懸念し「ペットを救出して」と言い出せない被災者は少なくないとされる。ペットの救出に関わる団体は「遠慮せずに声を掛けてほしい」と促している。

救出した猫を車に乗せて保護するNPO法人「くすのき」の那須みか代表=11日、熱海市伊豆山
救出した猫を車に乗せて保護するNPO法人「くすのき」の那須みか代表=11日、熱海市伊豆山
 飼い主のいない地域猫への不妊去勢手術や保護活動に取り組む熱海市のNPO法人「くすのき」(那須みか代表)は11日までに、猫を中心に50匹を救出した。被災者が落ち着くまで拠点の「猫ハウス テンプルキャット」(咲見町)で一時保護する。各地から届く餌やペットシーツなどの物資も配布している。
 とっさの避難でペットを自宅に残さざるを得なかった被災者は多い。捜索活動が続けられる中で「(被災した飼い主が)動物のことを口に出しづらい状況がある」と同NPOの須藤雅美さん(49)。飼い主からの依頼に加え、近隣住民からの情報も頼りに救出する。
 10、11日には、被災地での活動経験が豊富な一般社団法人「民間災害時動物救済本部」(東京都)がNPOの要請で現地入りした。理事の岸本也寸志さん(54)は飼い主の心境を「ペットも家族。一緒に逃げられず、自宅に置いてきてしまったことを後悔している」と指摘。「飼い主への寄り添いが大事」と語り、救出に奔走した。
 被災現場に取り残されたペットは「まだまだいる」と須藤さん。一時保護スペースが不足してきたとして、提供も呼び掛けている。
〈2021.7.12 あなたの静岡新聞〉

 

「愛犬役立てたい」 災害救助犬、懸命の捜索

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害の現場で14日まで、4頭の災害救助犬が大量の土砂が流れ込んだ厳しい現場で行方不明者の捜索に当たった。残念ながら、発見にはつながらなかったが、救助犬の訓練などを担うNPO法人災害救助犬静岡専務理事の市川金子さん(58)=掛川市=は「少しでも、必死の作業を続ける救助隊の助けになれば」との思いで活動を支えた。

土石流災害の現場で行方不明者の捜索に尽力した4頭の救助犬ら=12日、熱海市
土石流災害の現場で行方不明者の捜索に尽力した4頭の救助犬ら=12日、熱海市
 参加したのは静岡県内から集まったラブラドルレトリバーのゴン(12)、ウィル(5)、ジュリエット(11)、アド(7)。厳しい訓練を重ねた捜索の“スペシャリスト”で、5人の同NPO会員と共に災害現場に足を踏み入れた。
 災害救助犬は現場で移動しない人間のにおいを嗅ぎ分け、行方不明者が居る可能性の高い場所をピンポイントで特定し、効率的な救助の一助を担う。災害発生当日から出動の準備を始め、受け入れ態勢の整った11日から活動を開始。土石流で住宅地が流され一面が土砂で埋まった現場を、粘土質の泥に足を取られながら進んだ。
 地面にガラス片など危険物があるか確認してから救助犬を放し、人間の足がすねまで埋まる深い土砂の下に行方不明者がいないか探し続けた。連日の暑さや突然の雷雨などにも苦しみながら、泥まみれで作業した。
 20人以上いる会員はほとんどが一般の飼い主で、救助犬も家に帰れば普通の愛犬。野営や力仕事も必要な厳しい活動を支えるのは「愛犬を役に立てたい」という思いだ。これまでも、東日本大震災や広島土石流災害など全国の多様な災害現場で活動してきた。
 熱海の土石流災害はいまだに16人の行方が分かっていない。救助犬隊長を務めた金原優海さん(36)=浜松市=は「一刻も早く皆さんが見つかり、復興へと進んでいってほしい」と願った。
〈2021.7.15 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞