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熱海土石流 盛り土との因果関係は

 発生から3日が経過した熱海市伊豆山(いずさん)の大規模土石流。起点となった逢初(あいぞめ)川の上部では、開発に伴う「盛り土」の崩落があったことが分かり、国や県は今後因果関係を究明する姿勢を示しています。これまでの情報をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・松本直之〉

地元住民「やはりこの場所だったか…」声そろえる

 緑が生い茂る山林の中で、その一帯だけが深くえぐられていた。熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流の起点になった逢初(あいぞめ)川の最上流部。山の壁面は逆三角形型にむき出しになり、下流には周囲の色とは異なる黒い土が流れ出ていた。県が被害を拡大させたと推定する開発行為に伴う「盛り土」が崩落した痕跡が残っていた。

崩落の痕跡が見られる土石流の最上部=5日午前、熱海市伊豆山(静岡新聞社ドローン撮影)
崩落の痕跡が見られる土石流の最上部=5日午前、熱海市伊豆山(静岡新聞社ドローン撮影)
 「やはりこの場所だったか」―。5日朝、現場を訪れた住民は声をそろえた。地元の多くの人が、長年にわたり谷状の山林を埋め立てる様子をいぶかしく見つめてきた。  崩落現場はもともと山林の奥まで進入路がつながり、土を積んだダンプカーがしきりに出入りしていた。近隣に住む会社員鈴木広さん(67)は「何年も土を階段状に積み上げていた。いったい何をしているのかと思っていた」と振り返る。
 市や複数の関係者によると、盛り土部分の土地は2007年、神奈川県の業者が本県の土採取等規制条例に基づく届けを熱海市に提出し、残土処理場として利用していた。約10年前に一帯の山林とともに別業者に所有権が移転。16年以降、南西側に隣接して大規模太陽光発電所(メガソーラー)が建設された。
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崩落の痕跡が見られる土石流の最上部=5日午前、熱海市伊豆山(静岡新聞社ドローン撮影)

 ただ、近隣住民によると、最近は盛り土部分に新たな土を入れている様子はなかったという。なぜ今、この場所が急に崩落したのか―。複数の専門家は「盛り土を含めた周辺の開発行為に伴う複合的な要因で引き起こされた」と推定する。
 周辺をドローンで撮影した地質学者の塩坂邦雄氏は、太陽光発電所の建設で土中に浸透できなくなった大量の雨水が、進入路伝いに盛り土部分に流入した可能性に言及する。「森林自体は健全な山。これまで崩落せず踏みとどまってきたが、開発でたがが外れたのではないか」と保水力の低下を指摘。土石流のメカニズムに詳しい今泉文寿静岡大農学部教授(砂防工学)は、発生原因の究明には詳細な調査が必要とした上で、「盛り土が土石流の規模を大きくした可能性は十分考えられる」と述べた。

崩壊5万立方メートル 当初から被害拡大の可能性指摘

 熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流について、静岡県は4日、土石流の起点となった逢初川の上部で、開発行為に伴う盛り土の崩落が確認されたと明らかにした。崩れた盛り土は約5万立方メートルと推定され、周辺を含めると約10万立方メートルの土砂が流れ下ったとみている。盛り土の存在が土石流の被害拡大につながった可能性もあるとみて今後、開発行為の経緯を含めた原因の調査を進める方針。

土石流最上部の盛り土が崩落したとみられる箇所=3日午後、熱海市伊豆山(静岡県がドローンで撮影)
土石流最上部の盛り土が崩落したとみられる箇所=3日午後、熱海市伊豆山(静岡県がドローンで撮影)
 盛り土が確認されたのは逢初川河口から約2キロの標高390メートル地点。逢初川の起点より約400メートル西側で、盛り土前に谷になっていた地形の最奥に当たる。県が昨年取得した地形の電子データと2010年頃の国土交通省のデータを比較したところ、長さ約200メートル、幅約60メートルの盛り土が分かった。
 県によると、土石流の最初の起点が盛り土だったのか、盛り土より下流側の崩落が盛り土の崩落を誘発したのかは現時点で分かっていない。崩れた盛り土の上部には車両が通行できる道が整備されていたが、開発行為の目的や時期も明らかになっていない。
 県土採取等規制条例は面積千平方メートル以上、体積2千立方メートル以上の土地改変を行う場合、県に届け出をするように定めている。ただ、全国一律で盛り土を規制する法律はないため県内の自治体が国に整備を要請していた。
 川勝平太知事は同日、ウェブ開催された全国知事会の広域災害対策本部会議で「雨が直接的な要因であり、開発と因果関係は明確ではないが、今後検証したい。防災の専門家の意見ももらい、全国知事会としても何らかの開発制限について国への提言など対応の強化が必要」と述べた。

砂防ダム「想定上回る」【起点から海までの全容説明画像添付】

 熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流について、起点の盛り土を含む大量の土砂が下流側に流れ下った際、逢初(あいぞめ)川の最上流部に設置された砂防ダムを乗り越えていたことが5日、静岡県の現地調査で分かった。県が1999年に設置した砂防ダムの容量は4200立方メートル。県の担当者は、現場の状況から「流れ下った土砂の量は砂防ダムの想定をはるかに上回る量だった」と判断している。

海側から崩れ落ちた土石流の起点となった盛り土部分は激しくえぐられている=5日午後、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
海側から崩れ落ちた土石流の起点となった盛り土部分は激しくえぐられている=5日午後、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 砂防ダムは幅43メートル、高さ10メートルのコンクリート製。河口から1・3キロ、土石流起点の盛り土から約400メートル下流側に1基設けられていた。現地を訪れた県職員が5日、砂防ダムが土砂でほぼ埋まっているのを確認した。川の最上流部で相当量の土砂が流れ下っていたことが裏付けられた。
 県は崩落した盛り土を約5万立方メートル、流れ下った土砂総量を約10万立方メートルと推定。ダム容量のそれぞれ11倍、23倍に当たる。地形データの比較から、2010年以降に盛り土された可能性があるとみていて、ダム設置当時は今回の土石流のような土砂量を想定していなかったという。今後、逢初川上流部に堆積した不安定な土砂の量を調べ、砂防ダムを再構築する必要性を含めて検討する。
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発生起点(右上の○)から海まで土石流が激しく流れ下った=5日午後、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

川勝知事「盛り土、被害拡大」 熱海土石流の被災地を視察

 川勝平太静岡県知事は5日午後、熱海市伊豆山地区の被災地を視察し、現場の状態や安否不明者の捜索・救助活動の状況を確認した。川勝知事は「72時間を前に一人でも多くの方を探し出せるよう全力を傾けてほしい」と期待した。

土石流の現場へ視察に訪れ、囲み取材に応じる川勝平太知事(中央手前)=5日午後4時ごろ、熱海市伊豆山
土石流の現場へ視察に訪れ、囲み取材に応じる川勝平太知事(中央手前)=5日午後4時ごろ、熱海市伊豆山
 警察や消防、自衛隊が手作業で捜索を続ける現場を視察し、「疲労に耐えて頑張ってくれている。安否の分からない方々の情報をなるべく早く確認したい」と述べた。普段は水が少ない逢初(あいぞめ)川の激しい濁流を見て「いかに水の貯蓄量が巨大だったかが分かる」と指摘した。
 土石流の起点の逢初川上部も訪れ、えぐれた山肌に盛り土と見られる土がある様子を確認。「原因は長雨の貯蓄だが、噴き出た水が盛り土を一緒に押し流し、被害を拡大した」と認識を示した。
 川勝知事は視察に先立って市役所で斉藤栄市長と面談し、「一心同体のつもりで援助する」と全面協力を約束するとともに、全国知事会も必要な支援を速やかに行う意志を示していることも伝えた。斉藤市長は「人命救助と避難者の保護を最優先する」と述べ、県の支援体制に感謝した。
地域再生大賞