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富士山噴火警戒レベル 基準を公表【特集】

 気象庁は富士山の噴火警戒レベル(5段階)を判定する具体的な基準を公表しました。有事の際に自治体が住民や登山者にどのように周知するかなどの課題も残ります。ポイントを整理しました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉

1時間当たり10回以上の火山性地震で「入山規制」 

 気象庁は4日、富士山の噴火警戒レベル(5段階)を判定する際の具体的な基準を公表し、登山禁止や入山規制の対応を取る「レベル3」の判定基準を明確化した。具体的には、①1時間当たり10回以上の火山性地震の発生②火山性微動が複数回発生③山体浅部での地殻変動の観測④噴気や地熱域の出現、地割れ、隆起、陥没などの確認―のうち二つ以上が同時に発生、またはいずれか一つでも基準を大幅に上回った場合を対象とする。

富士山周辺(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
富士山周辺(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 これまでは1707年の宝永噴火の前兆現象を基にした同庁の内規で運用していた。今回は富士山と同じ玄武岩質火山の先駆現象も参考にして判定基準を見直した。地震火山部火山監視課は「自治体による避難計画の策定や住民の避難行動のために役立ててほしい」と述べ、各自治体での周知を求めた。
 他の活火山と比較して富士山では噴火口の特定が困難なため「レベル2」(火口周辺規制)を飛ばして3に引き上げる。富士山の火山活動は近年、低調な状態で「レベル1」(活火山であることに留意)を適用している。
 火山性地震の急増や、居住地域から離れた場所での小規模噴火発生の場合は「レベル4」(避難準備)に上げる。さらに富士山周辺で有感地震が頻発し、地殻変動量が加速した場合は「レベル5」(避難)とする。火山活動が低下すれば適宜、レベルを下げる。
 噴火警戒レベルは2007年から導入し現在は全国48火山で運用中。判定基準は15年度から活動が活発な火山を優先して精査してきた。富士山を含めた47火山が現在公表され、残る伊豆東部火山群も本年度中に定める。
 
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富士山の噴火警戒レベル判定基準
 
 ■元記事=富士山噴火警戒で基準 地震1時間10回などで「入山規制」 気象庁(「あなたの静岡新聞」2021年6月5日)

県や自治体は歓迎 住民や登山者への周知啓発に課題

 4日に公表された富士山の噴火警戒レベルの判定基準。気象庁が警戒レベルを上げ下げする際の判断根拠を明示したことを、静岡県や地元自治体は歓迎した。ただ、判定基準に合致する現象が起きた際、自治体として住民や登山者にどう周知するか、課題を残す。

富士山で行われた火山防災訓練。基準が公開された噴火警戒レベルの周知が今後の課題だ=2018年7月、富士山富士宮口6合目
富士山で行われた火山防災訓練。基準が公開された噴火警戒レベルの周知が今後の課題だ=2018年7月、富士山富士宮口6合目
 「根拠がはっきりした」。静岡県危機情報課の吉永尚史課長はそう評価した。静岡県は山梨県などとともに3月、富士山のハザードマップを改訂、公表していて「レベルを上げ下げする基準が明確になったことで、県民への説明がしやすくなった」とする。有事の際を想定して「登山者に向けた啓発にも力を入れていく必要がある」と強調した。
 御殿場市危機管理課の水口光夫課長は「判定基準になる現象を捉えることで、警戒レベルの引き上げを事前に想定できる。避難や避難準備などの情報を出す準備がしやすくなる」と話した。
 一方、富士山直下の浅い場所で火山性地震の増加や地殻変動などが起きるとレベル3(入山規制)に引き上げられるが、「引き上げが正式に決まらない段階では住民や登山者に注意喚起できない。市の見立てだけでは根拠に乏しく、専門家の判断がないと説明が付かない」などと難しさも口にした。
 ■元記事=富士山噴火警戒レベル基準公表 地元自治体歓迎、判定根拠「明確」に(「あなたの静岡新聞」2021年6月5日)

小山真人・静大防災総合センター教授「判断の信頼性、限界分かる」

小山真人氏
小山真人氏
 各火山の噴火警戒レベルの判定基準は当初、気象庁の内規のまま公表されていなかった。2014年9月の御嶽山噴火災害が噴火警戒レベル1のまま起き批判を浴びたため、内容の精査を終えた火山から公表するようになった。富士山もその一環である。
 今回の判定基準の精査・公表に当たっては、1707年宝永噴火のみならず、富士山と類似した他火山での観測・分析事例も参考にしつつ、さらに史上まれにみる大規模噴火だった宝永噴火の特殊性を考慮した柔軟性も取り入れられた。
 結果として精査前の判定基準に比べ、特にレベル1とレベル3の基準が詳しくなるとともに、悩みつつも判定基準全体がどのようなデータに基づいて決められたかの詳細な解説も付された。この解説を読めば、おのずと判定基準がどの程度の観測事例や根拠に基づいて作成されたのかが分かり、ひいてはその信頼性の程度や限界を知ることができるようになっている。
 今後、この基準に基づいて噴火警戒レベルの上げ下げや火山情報が発表され、地元行政はそれに基づく防災対応を取っていくことになる。
 しかし、5段階の噴火警戒レベルというシステムそのものが現状の噴火予知技術に見合わない理想論であるとの批判が、その運用当初より火山専門家の中にあることや、御嶽山以外の火山においても噴火警戒レベルの上げ下げに関する多くの失敗事例が生じていることもわきまえなければならない。
 さらに、富士山での噴火警戒レベル2の取り扱い(火口が定まらないうちはレベル2を使用しないこと)の是非が、富士山火山防災対策協議会作業部会で継続審議されている点も知っておく必要がある。
 ■元記事=判断の信頼性、限界分かる 静岡大防災総合センター教授 小山真人氏(火山学)(「あなたの静岡新聞」2021年6月5日)

3月には改定富士山ハザードマップ公表 噴火の最短到達時間を算出

 静岡、山梨、神奈川県などでつくる富士山火山防災対策協議会が26日に公表した富士山噴火を想定した改定版ハザードマップ(危険予測図)で、山腹の雪が火砕流などで解けて土石を巻き込み流下する「融雪型火山泥流」が、御殿場市役所に最速で13分、小山町役場に17分で到達する可能性があることが示された。火山泥流は時速数十キロと速く、短時間で公共施設や交通インフラに影響を及ぼす恐れもある。

富士山噴火の溶岩流が到達可能性マップ
富士山噴火の溶岩流が到達可能性マップ
 ハザードマップの改定は同日、オンライン会議で開かれた同協議会で承認された。改訂版では新たに関係市町の防災対策の目安として、市役所や町役場、住民避難に必要な幹線道路、鉄道などについて、噴火現象の最短到達時間をシミュレーション結果などから算出している。火山泥流が到達するのは御殿場市役所と小山町役場のほか、富士市の新東名高速道まで12分、同市の国道1号や沼津市のJR東海道線までは20分で届く可能性がある。
 火山泥流については危険度区分も示され、同じ場所から発生しても、事前避難が必要な区域から、注意を払った上で徒歩避難が可能な区域まで幅がある。同日開かれた協議会でハザードマップ検討委員会の藤井敏嗣委員長は、「噴火状況に応じて臨機応変に避難行動を変える必要がある」と指摘した。
 同協議会は2022年3月にも富士山火山広域避難計画を見直す方針で、各市町も順次、個別の避難計画を変更する見込み。川勝平太知事は「危機意識を共有し、国や山梨、神奈川両県、関係市町と連携を緊密にしていく」と述べた。
 ■元記事=改定富士山ハザードマップ 御殿場市役所、13分で到達「融雪型火山泥流」(「あなたの静岡新聞」2021年3月27日)
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